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第一章 孤児院編

森にいる熊は、はちみつ好きな黄色い熊だけとは限らない

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ウィルの散髪後の姿を見た孤児院のみんなは、それぞれウィルの容姿を褒めちぎった。特に、年少組の女の子からの人気がすごかった。

確かに、パッと見目を引くしかっこいいなとは思う。確かに、切れ長で確かな意志を感じさせる紅の瞳、しっかりとした鼻のラインに、形のいい唇。うん、たしかに将来有望そうだ。彼の周りの大人たちは、ウィルの何を見て悪魔だとか気味が悪いと評していいたのか甚だ疑問だ。前髪が長かったため、それが原因に一部を担っていたのかもしれないけど……。





「……おい、人の顔をじろじろと見るなよ。」





不意に、不機嫌そうな声が聞こえて、私は意識を思考の海から切り離した。どうやら、ウィルの顔をまじまじと見てしまっていいたようだ。



「ねえ、ウィル。あなたは、ギターかドラムが似合いそうだね。いや、クール系のベースも捨てがたいかもしれない……。」



「意味の分かんねーこといってんなよな。……チッ。どいつもこいつも、俺の顔をじろじろと見やがって。」



「それはしょうがないんじゃないかな。最初は隠れていたものが露わになったことで目が行くだろうし、その現れた顔が整っていればなおさらじゃないかな。……うふふふふふ。まあ、私の歌姫フェイスもなかなかだと思うけどね! ウィルはどう思う?」



「は、はぁ!? べ、別に普通だろ! いいから、準備しろよ。今日は森当番なんだろ!」



「ああ、そうだね。そろそろコニーが呼びに」





私がそう言いかけたところに、森用の汚れてもいい服に着替えたコニーが現れた。どうやら、クルルお兄ちゃんの準備が整って、門の前に集合しているようだ。





「おーい、2人とも。そろそろ出発だぜ!」



「うん、わかった。じゃあ、行こうか!」









私たちは、冬の気配が強くなった森に向かって歩き出した。今はもう、秋の終わりだ。そろそろ、森の実りにも期待できなくなってくる。本格的な冬の到来だ。冬支度の準備はあらかた終了しているため、焦って食料を調達する必要はないけど、贅沢ができるほどの量はない。よって、食料は多いに越したことはないのだ。



「もうそろそろ、冬だな。いつ、雪が降りだしてもおかしくない。」



今は森へ向かう道中だ。

コニーがかじかんだ手を温めるように、白い息を手のひらに吹きかけていた。孤児には、手袋をはめるなんて贅沢はできないのだ。



「うん、そうだね。出来れば最後に、肉を確保しておきたいところだけど……。」



「ああ、そうだな。……冬支度もそうだけど、ミーアたちといっしょにいられるのも残り少しだな。」



珍しく、コニーは哀愁を漂わせながらそう言った。神殿での暮らしは孤児院よりもいいものだと思っているが、純粋に孤児院の仲間が減るのが悲しいのだろう。



「……残り少しって、どういう意味だ?」



静かに話を聞いていいたウィルが、そう私たちに問いかけた。そうか、そうだった。孤児院内のことは説明したけど、選別のことはまだ話していなかった。



「ウィルにはまだ話していなかったね。……私たち孤児は、10歳の年になると神官様や巫女様によって選別が行われるの。そこで選ばれると、神官様や巫女様の側仕えになることができて、神殿で暮らすことになる。選ばれなかったら、クルルお兄ちゃんたちみたいに、孤児院で働く下男下女になるんだよ。選別が行わるのは、10歳の年の冬の初め。つまり、あと少しでミーアお姉ちゃんたちの選別が行われるということよ。」



「……そうか。」





私の説明を静かに聞いていたウィルは、一言返事をした後、何かを考えこむように俯いてしまった。

ミーアお姉ちゃんは優秀だし、容姿も整っている。確実に、誰かの側仕えになるだろう。きっと、地位が高く優秀な人に選ばれるだろう。





「……パイルは、側仕えになりたいのか?」



私がミーアお姉ちゃんたちのことを考えると、不意に顔を上げてそう尋ねてきた。……私が側仕えになりたいかどうかか。そんなこと、現実を知ってから一度も思ったことがない。



「まあ、そうなるかな。私の将来の夢は、私の歌を世界中の人に届けることだと言ったけれど……現実的なことを考えると、選別されることは避けられないから、より人格の優れて肩の側仕えになりたいかな。」



「そうか。」



ウィルはそういいながら、静かに頷いた。



そうこうしているうちに、森へ到着した。クルルお兄ちゃんからいつもどおり、グルドンの実を含めた木の実採集の指示が出た。私もいつもどおり木の実採集というなのスクワットを始めた。私の近くにいるウィルは、なぜだかわからないが嫌そうな顔をしていた。男子は森が好きだと思っていいたけど、あまりお気に召さなかったたのかもしれない。



しばらくの間、数少ない木の実を拾っていると、突然、クルルお兄ちゃんの叫び声が聞こえてきた。





「みんな、逃げろ! 大きな足音がこちらに向かってきている! おそらく、冬ごもりのために食料を集めている熊だ!」





クルルお兄ちゃんの声が聞こえた瞬間、子どもたちは悲鳴を上げながら下町へ向かって走り出した。熊はこんな浅い森に姿を現すことは滅多にない。おそらく、森の奥に餌が少なく、餌を求めて森の奥からわざわざやってきたのだろう。





「パイル、何してんだ! 早く逃げるぞ!」



コニーが私をせかすように、腕を引きながら話しかけてきた。もう片方の腕では、この中で一番年下の女の子の腕を握っている。



「う、うん! ……ちょっと、待って! 私は、クルルお兄ちゃんを誘導するよ! 視力の悪いクルルお兄ちゃんには、走って逃げることは難しいからね。」



「わ、わかった。先に行ってるからな! あとからちゃんと、追いかけて来いよ!」



コニーはそういうと、女の子を背負って心配そうにこちらを振り返りながらも、下町へ向かって走り出した。



私は、みんなよりも数歩も遅れているクルルお兄ちゃんの元へと向かって走り出した。って、後ろから私を追いかけてくる足音が聞こえてくるような……ウィルじゃない!

私は首だけ振り返って、ウィルに向かって叫んだ。



「ウィル! 何をしているの!? あなたもさっさと、逃げなさい!」



「嫌だ! 」



「嫌だって、あなたね! お姉さんのいうことは聞きなさい!」



「人数が多いに越したことはないだろ! 時間がないんだ! 早く、クルルを連れていくぞ!」





確かに、問答を繰り返す時間の方がもったいないのも事実だけど……。年下に言いくるめられた気がして、若干納得がいかないけど、しょうがない!

私とウィルは、クルルお兄ちゃんの所に向かって走った。





「クルルお兄ちゃん、迎えに来たよ!私たちの腕に捕まって!」



「なぜ、来たんだ! 俺のことはいいから、2人だけでも早く逃げろ!」





普段温厚なクルルお兄ちゃんからは想像もできないほどの切羽詰まった声でそう言われたが、私はクルルお兄ちゃんの腕を放さなかった。



「いいえ、クルルお兄ちゃんも一緒に逃げなきゃだめよ!」



「早く逃げろ! 足音がもうそこまで」



その時、くさむらが雑に揺れる音が聞こえるんと同時に、獣の咆哮が辺りに響き渡った。そして、巨大な影が私たちの視界に映り込んだ。
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