婚約破棄された地味令嬢(実は美人)に恋した公爵様

abang

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29.祝福と苦悩の始まり


めかし込んだジョルジオはクロフォード邸に馬車を停めた。


エリスと初めてオークション会場へとデートに行くからだ。


この国の風潮で、美しい美術品を令嬢に贈る意味は求愛や愛情表現とされている。

とは言え、親愛や情愛、贈る物によって意味も変わるが愛や性をモチーフにした美術品は高価であればあるほど令嬢への愛と力を誇示する。


くだらないとばかり思っていたこの風潮も、鈍感なエリスへの愛情表現としてはまさにぴったりだと思った。

あえて皆の前で求愛することで牽制という意味でも好都合だ。



オークション会場は初めてなのか、珍しい芸術品の展示や身分も顔も殆ど隠せていない無意味な仮面を付けた貴族達にエリスは少し驚いた様子でどこかあどけないその姿が可愛くて口元が緩む。


(あれは……)


偶々来ていたのはどう見ても肌も身分も隠すつもりのない装いのロベリアと中年貴族で、確かあの者は商いで功をなして富豪になった者だなと思い出す。どちらも此方に気付いたようで気の弱そうなその男にロベリアが何やら吹き込んでいる様子だった。



(おおよそ張り合うつもりだろう)



「ジョルジオ様、どうしたのですか?」

「いや、何でも。ところでエリスはオークションの意味を?」


見せつけるようにエリスと距離を縮めて囁くと頬を染めたエリスがこくんと小さく頷いた。

眼鏡をつけてないので良く見える表情は、真っ赤で潤んだ琥珀色の瞳がどこか色香を感じさせる。

身悶えている内にエリスの視線はとある二人を見つけたようで、顔色を青くした。


ミナーシュとトリスタンも来ているようだ。

だが幸い二人は気づいていないし席も遠いようで「大丈夫だよ」と他の者とは一段上がった所にある二人分だけ囲われている特別席を指さすと安心したように笑った。


「今日は、邪魔されたくないの」

「エリス……!」


その笑顔に思わず気合いが入って、ジョルジオがとても高価なピンクダイヤのオブジェをエリスの為に購入するとそれを見て自分も何か欲しいと羨むミナーシュの甲高い声が響いた。

こちらに気付いたトリスタンも何故かジョルジオに対抗心を燃やしているようで、気合い十分にミナーシュの言葉に頷いていた。



そんなミナーシュやエリスのパートナーを見てから自分のパートナーを比較してギリギリと歯を軋ませるロベリア。


(トリスタンやジョルジオのように見目麗しくないし、若くもない……)


(富豪だと言ってもジョルジオのようにオークションの目玉を軽々とプレゼントできるほどでもない)


あの冴えなくて地味だったエリスは確かに自分の引き立て役だったにも関わらず、今となっては国中の注目を集めている上に今日は女性達の羨望の的だ。


「ねぇ、貴方も頑張ってよ!私に恥をかかせるつもり!?」

「わ、わかったよロベリア……!」



ジョルジオとの差に悔しがって泣くミナーシュとジョルジオに勝ってエリスにいい所を見せたいトリスタンは途端に入札にも力が入り始める。


そんな様子を見て更にパートナーを煽るロベリアは思わず自分の口から出た言葉と顔を卑しく歪ませた中年貴族にゾクリとした。


「何でもしてあげるから!良いものを私に贈ってよ!!」

「ロベリア……そうかい……頑張るよ、ひひっ」

「ひっ!」

(でも仕方ないわ。エリスにもミナーシュにも負けられないのだから!)





他の目玉商品は結局全てジョルジオが落としてしまい「永遠の愛」と言う有名な美術品でもあり本日の目玉の内のひとつの対のティーセットを競り落とすことに決めるトリスタン。

司会の男の陽気な声が響く「永遠の愛」は愛する人に捧げることで特に大きな意味を持つからだ。


ふと、競い合う内にジョルジオは気付く。

「永遠の愛」を競り落とし、パートナーに贈る意味はこの国では正にプロポーズにも値すること……



「エリス、申し訳ないね。残念だけどこれは彼に譲るよ」

「そんな!私はもう充分です、気にしないで下さい」

「無欲だね」

「無欲ではありません、私は……ジョルジオ様の一番大切なものを欲しているのですから」

「一番大切なもの?」

「ええ……時間です。あなたの傍にずっと居たいと願っています」

「ーっ!!」


思わずジョルジオが抱きしめてしまいそうになった瞬間に、トリスタンが「永遠の愛」を競り落としたと司会の声と鐘の音が響く。



此方を自慢げに見るトリスタンだったが、二人は「おめでとう御座います」と口元だけでトリスタンにゆっくりと伝える。


会場中あちこちから「おめでとう御座います」と祝福の声が聞こえてトリスタンは事態に気付いてたちまち顔色を青くさせた。

「ちが……っ私はこれをエリスに……」

「きゃあ~~トリスタン様!!私嬉しいですぅ!!」



そう、トリスタンは公の場でミナーシュにプロポーズをしたも同然。


この話はすぐに広まりトリスタンは逃げ場なくミナーシュを妻に迎えなければならなくなったのだ。





「悪いね、トリスタン」



「ジョルジオ様、何か言いましたか?」



「いや、なんでも。愛してるって言ったよ」

「……私もです」

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