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俺の飼い主さまを探してる

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「空牙!? 空牙!」

「……かい、ちょ」


あったかい。会長の匂いだ。嬉しい。
身体はすごく痛いけど、会長が俺をぎゅってしてくれてる。
足に力が入らない俺を泣きそうな表情で支えてくれる。

バタバタと周りがうるさくて、俺を拉致した人達が何故か風紀の皆に取り押さえられていた。
血の付いたナイフも風紀委員長が取り上げてくれてるし。
良かった、きっと会長を助けに来てくれたんだ。
そういえば会長、大丈夫なのかな。俺、間に合った?


「い、たっ」

「……馬鹿か、お前が俺を庇ってどうする」


そっと触れられた頬が痛くて熱い。
抱きつきたいのに、腕が縛られたままじゃ出来ないや。残念。
気付いた会長が俺を支えながら解こうとするけど、上手くいかなくて舌打ちしてる。会長、不器用だもんね。

ああ、ホッとしたら眠くなってきちゃった。


「空牙? おい、空牙!?」


なあに。そんなに慌ててどうしたんだろ。
今はすごく眠いから、あんまり身体を揺すらないでほしいなぁ。



――目を閉じきる直前に。

「ワンちゃんっ」「空牙ッ」「くうちゃん!」と、風紀の副委員長さんや副会長、チャラ会計が必死な声で俺を呼んだ気がしたのも眠気による勘違いだったのかもしれない。







「いや、勘違いじゃないからね。あの時は本当に必死で、くうちゃんの名前を叫びまくってたし俺!」

「私もです。血塗れのあなたを見て、もしやこのまま死んでしまうのではないかと。もう、こんな思いをするのは絶対に嫌ですよ」

「……ごめん、なさい」


またチャラ会計と副会長に叱られた。
もう何度目になるんだろう。


あの拉致事件から約二週間。
俺と会長は揃って検査入院となり、数日ほどを病院で過ごした。
会長は打ち身。
俺は骨にひびと頬から耳にかけての切り傷、全身の打ち身に擦り傷……あと、お尻の中にも少しだけ傷があるって言われた。
幸い二人とも脳の異常は見つからなかったって。ちょっと安心。

それにしても会長、あんなに殴られたり蹴られたりしたのに頑丈ですごい。さすがは会長、男の中の男。かっこいい。
俺より先に退院して、だけど毎日お見舞いに来てくれる会長にそう言ったら「馬鹿犬が……」と何かを我慢するような顔になってた。
やっぱり殴られたとこが痛かったのかな。
せっかくの男前が、腫れや内出血で酷い色に変わってるし。俺もだけど。

頬と耳の傷は何針か縫ってもらった。
それを見て会長があの時みたいに泣きそうな目をするから、俺はエヘン、と「男の傷はくんしょう!」って笑った。
そしたらもっと泣きそうで悔しそうな……えーと、怒ったような、よく分からない顔になって「明日また来る」と言うと病室から出て行っちゃった。さみしい。


――でもこの傷は本当に俺の勲章だから。

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