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ポッコチーヌ様のお世話係
断罪①
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ゲルダは長い髪をかきあげると、後ろへ流す。
集まる視線の中で仁王立ちし、顎を上げると腹に力を入れた。
「王宮内で狼藉を働こうとした者を捕らえました」
ざわめき戸惑う来賓客を飛び越え、遠い彼方にある玉座へ向かって声を張り上げる。
「この者は、すべて強要されてやった事と述べております。真偽の程をこの場で確かめる事をお許し頂けますでしょうか」
駆けつけた近衛兵が声を潜め諌める。
「未だ晩餐会の開催中である。来賓がこのようにいる中で、しかも陛下の御前だ。その者は別室へ」
「畏まりました。しかし、来賓の中に手引きした者がいるとのことでございます。その御方にご同行願えますか」
ゲルダの辺りを憚らない大声に、近衛兵は顔を顰める。
後ろに控えていた白騎士連中が更にその上を行く大声を張り上げた。
「この者に我が白騎士団の団長側近を辱めろと命令した方はおいでですかー!」
「元奴隷だから下の世話は得意だろうと逸物を咥えさせようと唆した外道はいますかー!」
周囲から悲鳴のような声が上がり、どこぞのご婦人が青ざめ倒れかけたところを紳士に支えられる。
近衛兵は白騎士達の思いもよらぬ粗野な振る舞いに、為す術なく狼狽えた。
「申し訳ございません。我が白騎士連中は正義感の強い者ばかりでして。自らの手で主犯を暴き懲らしめたいと言って聞かないのです」
ゲルダは腕を組み、笑みを浮かべて首を傾げる。
近衛兵はタジタジになり後退りながらも声を張り上げた。
「お咎めがあること確実だぞ、マクシミリアン団長は、ニコライ副団長はどうした?先ずはそちらに報告し、指示を仰ぐべきであろう!」
「構わない。そのような輩が紛れ込んでいては、来賓方もおちおち晩餐会を楽しむことも出来ぬだろう。さっさと名乗り出ていただきご退場願おう!」
マクシミリアンが負けじと大声で応えた。
舌打ちし、そっと踵を返そうとしたガルシア侯爵の腕を掴み、引き止める。
「どちらへ?大捕物をご覧にならないのですか?」
「醜悪な見世物だ。見るに耐えん」
「貴方の息子が率いる騎士団の手柄ですよ。お父上には是非ご覧頂きたいのですが」
「……下品な。騎士団の質も落ちたものだ。恥を知れ」
マクシミリアンは目を細め笑みを浮かべた。
「恥を知るのは貴方だ」
馬鹿力の息子に腕を固められ、逃げられないガルシア侯爵は歯軋りをする。その額には汗が滲み、目は血走っていた。静かに取り乱す父を見下ろし、マクシミリアンは自らの冷静さに笑いが込み上げる。
「やらせてやっちゃくれませんか?陛下には俺から許可を貰いますんで」
のんびりとした声が響き、ガルシア侯爵がハッとした表情で顔を向ける。ふくよかなゼッセル伯爵の影から進み出たニコライがにやにや笑いながら玉座を指さす。
ガルシア侯爵の緑の瞳に僅かに浮かんだ期待の色。
それを見逃さなかったマクシミリアンだが、敢えて何も言わなかった。
「……カトリーヌが許す筈がない」
つい漏らしてしまったのだろう小さな呟きを耳が拾う。
手中の玉である娘カトリーヌ。
王妃である姉がその立場を危うくするような事態を許すはずがない。カトリーヌは裏切らない。
それは親子の情愛で結びついているからではなく、寧ろ情など介在しない利益のみで結びついた関係であるから、信用出来る。
父の考えを読める自分が恨めしい。
そして、悲しいと思う。
何故、情を、愛を人生から締め出したのか。
姉が何よりも欲したのは愛なのに。
それを取り上げ、踏みつけた為に恨まれたというのに。
集まる視線の中で仁王立ちし、顎を上げると腹に力を入れた。
「王宮内で狼藉を働こうとした者を捕らえました」
ざわめき戸惑う来賓客を飛び越え、遠い彼方にある玉座へ向かって声を張り上げる。
「この者は、すべて強要されてやった事と述べております。真偽の程をこの場で確かめる事をお許し頂けますでしょうか」
駆けつけた近衛兵が声を潜め諌める。
「未だ晩餐会の開催中である。来賓がこのようにいる中で、しかも陛下の御前だ。その者は別室へ」
「畏まりました。しかし、来賓の中に手引きした者がいるとのことでございます。その御方にご同行願えますか」
ゲルダの辺りを憚らない大声に、近衛兵は顔を顰める。
後ろに控えていた白騎士連中が更にその上を行く大声を張り上げた。
「この者に我が白騎士団の団長側近を辱めろと命令した方はおいでですかー!」
「元奴隷だから下の世話は得意だろうと逸物を咥えさせようと唆した外道はいますかー!」
周囲から悲鳴のような声が上がり、どこぞのご婦人が青ざめ倒れかけたところを紳士に支えられる。
近衛兵は白騎士達の思いもよらぬ粗野な振る舞いに、為す術なく狼狽えた。
「申し訳ございません。我が白騎士連中は正義感の強い者ばかりでして。自らの手で主犯を暴き懲らしめたいと言って聞かないのです」
ゲルダは腕を組み、笑みを浮かべて首を傾げる。
近衛兵はタジタジになり後退りながらも声を張り上げた。
「お咎めがあること確実だぞ、マクシミリアン団長は、ニコライ副団長はどうした?先ずはそちらに報告し、指示を仰ぐべきであろう!」
「構わない。そのような輩が紛れ込んでいては、来賓方もおちおち晩餐会を楽しむことも出来ぬだろう。さっさと名乗り出ていただきご退場願おう!」
マクシミリアンが負けじと大声で応えた。
舌打ちし、そっと踵を返そうとしたガルシア侯爵の腕を掴み、引き止める。
「どちらへ?大捕物をご覧にならないのですか?」
「醜悪な見世物だ。見るに耐えん」
「貴方の息子が率いる騎士団の手柄ですよ。お父上には是非ご覧頂きたいのですが」
「……下品な。騎士団の質も落ちたものだ。恥を知れ」
マクシミリアンは目を細め笑みを浮かべた。
「恥を知るのは貴方だ」
馬鹿力の息子に腕を固められ、逃げられないガルシア侯爵は歯軋りをする。その額には汗が滲み、目は血走っていた。静かに取り乱す父を見下ろし、マクシミリアンは自らの冷静さに笑いが込み上げる。
「やらせてやっちゃくれませんか?陛下には俺から許可を貰いますんで」
のんびりとした声が響き、ガルシア侯爵がハッとした表情で顔を向ける。ふくよかなゼッセル伯爵の影から進み出たニコライがにやにや笑いながら玉座を指さす。
ガルシア侯爵の緑の瞳に僅かに浮かんだ期待の色。
それを見逃さなかったマクシミリアンだが、敢えて何も言わなかった。
「……カトリーヌが許す筈がない」
つい漏らしてしまったのだろう小さな呟きを耳が拾う。
手中の玉である娘カトリーヌ。
王妃である姉がその立場を危うくするような事態を許すはずがない。カトリーヌは裏切らない。
それは親子の情愛で結びついているからではなく、寧ろ情など介在しない利益のみで結びついた関係であるから、信用出来る。
父の考えを読める自分が恨めしい。
そして、悲しいと思う。
何故、情を、愛を人生から締め出したのか。
姉が何よりも欲したのは愛なのに。
それを取り上げ、踏みつけた為に恨まれたというのに。
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