3 / 57
第一章

何だかんだで城を追放される

しおりを挟む
 大臣は無言のまま廊下を歩き続けている。
 それが不満や落胆を表しているのか、元々の性格なのかは出会ったばかりで分からなかった。
 相手の本心が分からないことがこんなにも不安に感じるのは生まれて初めてのことだった。

 気まずさを感じながら足を運び、やがてたどり着いたのは城内の中庭だった。
 植木や花の手入れは行き届いており、腕のいい庭師がいることを想像した。

 俺たちが危害を及ぼすことはないと判断したのか、衛兵抜きで大臣一人だけがここにいる。
 衛兵たちは近くの部屋で待機していた。
 もしかして、他の人に聞かせたくない話があるのかもしれない。
 
「では、勇者たちよ。大事なことを伝えます」

 大臣はせき払いをした後、おもむろに話を始めた。
 途中まで言いかけたところで、何かを思い出したような素振りを見せた。

「ただ、その前に君たちのスキルを教えてください。勇者召喚の結果次第では、魔王と対等に渡り合うほどのスキルがあるらしい」

 俺は内川とお互いの顔を見合わせた。
 明らかに過剰な期待を抱いている。
 それだけ勇者召喚は重い意味を持つということなのか。

「……俺は危機的状況が予測できる魔眼です」

 先におずおずと宣言すると、こちらを見ながら内川が口を開く。
 言葉を選ぶべき場面のはずだが、俺たちよりも事情に詳しい人たちにいい加減なことは言わない方がいいと思った。

「……こっちは完全な気配遮断」

 絶対領域とは言いたくないようで、内川は直接的な名称を避けている。
 そこまで恥ずかしがらずとも、この世界の住人はその言葉の意味を知らない可能性が高い気がした。
 彼を責める気持ちにならないのは、俺も同じ立場だったら他人の反応が気になったはずだからだ。

 俺たちのスキルを聞いた後、大臣は時が止まったかのように微動だにしなかった。
 沈黙の時間が続き、実は時間停止しているのではと思い始めたところで大臣は顎に手を添えた。

「……ほほう、未来予知と隠密ができるスキル」

「ええまあ」

「言いようによっては、隠密っちゃ隠密か」

 微妙な空気に気まずさを覚える。
 大臣の反応が気になり、緊張が高まっていった。
 異世界ファンタジーの定石では追放の可能性も予想できる。
 おそらく、役立たずには厳しい世界なのだ。

「魔王を圧倒できるような火力ではないということですか……がっくし」

 大臣は背中を丸めて、落ちこむような姿勢を見せた。
 分かりやすい前衛スキルがないことで、落胆しているのは明らかだった。

 大臣のあからさまな態度に反応して、内川が苛立ちを見せながら口を開く。

「勝手に召喚しておいて、がっくしはないんじゃないか」

「まあまあ、もう少し話を聞いてみよう」

 内川をなだめつつ大臣に続きを話すように促すと、彼は真顔になって口を開いた。 

「王様から説明があったかもしれないけれども、勇者は鍛えられることで強くなると言われている。しかし、君たちがどれだけ強くなったところで守りに徹することはできても、攻勢に回るとは考えにくい」

 大臣のがっかりぶりは言葉遣いに表れている。
 話しながら時折視線が宙をさまようのは、俺たちの扱いを決めかねているからだと判断した。

「できれば、俺たちを見知らぬ世界に放り出すのはなしの方向で……」

 貢献できそうにない以上、あまり強気に出ることはできない。
 目の前の中年太りおじさん、もとい大臣の恩情を期待するべき状況である。

「うーむ、君たちをどう扱えばいいものか……。王様はお休みになられたので、お気を煩わせるのもしのびない」

 大臣の様子に気を取られていると、隣にいる内川が肘で小突いてきた。

「(まずいな。何も知らないのに、ほっぽり出させるのは)」

「(使えない勇者の追放展開は勘弁してほしいね)」

 俺たちの小声の会話に気づく様子はなく、大臣は何かを閃いたようポンと両の手を合わせた。

「私の財産から当座の生活資金を授けよう。王都ならば安全で憂いもなく生活できるはず。あと、その服は目立つから、召使いに着替えを用意させよう」

 恐る恐る大臣の表情を覗いてみるが、交渉の余地はなさそうな気配が濃厚だった。
 ここで粘ると追放どころか、牢屋にレッツゴーの可能性もある。

「分かりました。俺はそれで構いません」

「……仕方がない」

 内川は不服そうだが、俺と同じような判断をしたようだ。

「うんうん、それが賢明だ。今後のことは王様と話し合って決める。君たちは王都で気ままに暮らすといい。十分な金額を渡すつもりだが、お金に困ったら私をたずねるんだね」

 大臣は気前のいい親戚のおじさんみたいな振る舞いだった。
 異世界で働き口が見つかるかも分からないし、高校生の俺にはお金を稼ぐ方法もイメージできない。
 厄介払いされているような気もするが、親切に応じてくれているだけでもマシだと思うべきなのか。

 それから俺たちは大臣に案内されて、この世界の庶民の服に着替えを済ませた。
 制服は運ぶのにかさばるので、城内で保管してもらうように頼んだ。
 
 大臣に用意された荷物を確認すると、たくさんの硬貨と護身用と思われる短剣。
 それ以外は使い道が分からない小物がいくつかあった。 
 トントン拍子で話が進んで、大臣に見送られながら城を後にした。

 何気なく振り返って城を見つめた後、内川と二人で歩き出した。
 立派な佇まいだが、早々に追い出されることになった。
 城門の前に伸びる道を進んだ先に王都があるらしい。

 まだこの世界になじめたわけではなく、どこか足元がおぼつかない感じだった。
 元の世界に帰ることは想像できず、いつまでいることになるのか予想できない。
 悪夢とまではいかないにしろ、まるで覚めない夢のようなものだと思った。
 感覚がどれだけ鮮明であっても、この状況を完全に受け入れられたわけではなかった。

「これでよかったのかな。先が思いやられる……」

「逆賊扱いされるよりはマシなんじゃないか。結局、異世界転移からのチートでオレツエーにはならなかったな」

 いつもは淡々としている内川だが、チート勇者ができないことが残念なようだ。
 俺はそれよりもこれからのことが気にかかっている。

 二人で話しながら少し進むと道の先は下り坂になっていた。
 そこから坂を下りて歩いたところで、目の前に王都が広がっていた。
 この目で街があることを目の当たりにしたことで、認めようのない現実なのだと実感させられた。
 
「すげー! ホントに異世界なんだな」

「うん、そうだね」

 俺は内川ほどの高揚はなかったものの、初めて目にする景色に感慨を覚えていた。
 古きよきヨーロッパを模したテーマパークのようだが、これは作りものではない。
 どうやら、王都というだけあって、それなりの規模があるみたいだ。

「……吉永、街に行く前にいいか?」

「どうしたの、改まって?」

「僕たちのスキルは陰キャ属性を投影したみたいにパッとしない。どう考えても、『ガンガンいこうぜ』とはならない」  

「まあ、そうだね」

 言葉になると現実を突きつけられるような感覚になるが、内川の言っていることに間違いはない。
 俺たちは自他共に認める陰キャだと思う。
 学校生活では派手な活躍とは縁遠い。

「そんな僕たちにできるのは、『いのちだいじに』という方針だと思うんだ」

 異世界転移をきっかけに覚醒したのだろうか。
 冴えないオタクだった男が主体性を発揮している。

「いいよそれで。俺のスキルも攻めには向かないし」

 こうして、俺たちは当面の方針を決めたのだった。
 攻勢に出られるスキルも高い身体能力もない以上、身の安全が優先されるべきだろう。


 あとがき
 お読み頂き、ありがとうございます!
 ちなみに内川のスキルはこう表示されています。

 名前:内川仁太
 スキル名:絶対領域
 能力:指定範囲の気配を完全に遮断

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

外れスキルは、レベル1!~異世界転生したのに、外れスキルでした!

武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生したユウトは、十三歳になり成人の儀式を受け神様からスキルを授かった。 しかし、授かったスキルは『レベル1』という聞いたこともないスキルだった。 『ハズレスキルだ!』 同世代の仲間からバカにされるが、ユウトが冒険者として活動を始めると『レベル1』はとんでもないチートスキルだった。ユウトは仲間と一緒にダンジョンを探索し成り上がっていく。 そんなユウトたちに一人の少女た頼み事をする。『お父さんを助けて!』

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~

名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。

無尽蔵の魔力で世界を救います~現実世界からやって来た俺は神より魔力が多いらしい~

甲賀流
ファンタジー
なんの特徴もない高校生の高橋 春陽はある時、異世界への繋がるダンジョンに迷い込んだ。なんだ……空気中に星屑みたいなのがキラキラしてるけど?これが全て魔力だって? そしてダンジョンを突破した先には広大な異世界があり、この世界全ての魔力を行使して神や魔族に挑んでいく。

【改訂版アップ】10日間の異世界旅行~帰れなくなった二人の異世界冒険譚~

ばいむ
ファンタジー
10日間の異世界旅行~帰れなくなった二人の異世界冒険譚~ 大筋は変わっていませんが、内容を見直したバージョンを追加でアップしています。単なる自己満足の書き直しですのでオリジナルを読んでいる人は見直さなくてもよいかと思います。主な変更点は以下の通りです。 話数を半分以下に統合。このため1話辺りの文字数が倍増しています。 説明口調から対話形式を増加。 伏線を考えていたが使用しなかった内容について削除。(龍、人種など) 別視点内容の追加。 剣と魔法の世界であるライハンドリア・・・。魔獣と言われるモンスターがおり、剣と魔法でそれを倒す冒険者と言われる人達がいる世界。 高校の休み時間に突然その世界に行くことになってしまった。この世界での生活は10日間と言われ、混乱しながらも楽しむことにしたが、なぜか戻ることができなかった。 特殊な能力を授かるわけでもなく、生きるための力をつけるには自ら鍛錬しなければならなかった。魔獣を狩り、いろいろな遺跡を訪ね、いろいろな人と出会った。何度か死にそうになったこともあったが、多くの人に助けられながらも少しずつ成長し、なんとか生き抜いた。 冒険をともにするのは同じく異世界に転移してきた女性・ジェニファー。彼女と出会い、ともに生き抜き、そして別れることとなった。 2021/06/27 無事に完結しました。 2021/09/10 後日談の追加を開始 2022/02/18 後日談完結しました。 2025/03/23 自己満足の改訂版をアップしました。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

転生したら鎧だった〜リビングアーマーになったけど弱すぎるので、ダンジョンをさまよってパーツを集め最強を目指します

三門鉄狼
ファンタジー
目覚めると、リビングアーマーだった。 身体は鎧、中身はなし。しかもレベルは1で超弱い。 そんな状態でダンジョンに迷い込んでしまったから、なんとか生き残らないと! これは、いつか英雄になるかもしれない、さまよう鎧の冒険譚。 ※小説家になろう、カクヨム、待ラノ、ノベルアップ+、NOVEL DAYS、ラノベストリート、アルファポリス、ノベリズムで掲載しています。

『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』

チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。 気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。 「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」 「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」 最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク! 本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった! 「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」 そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく! 神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ! ◆ガチャ転生×最強×スローライフ! 無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!

処理中です...