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竜人嫌いの魔族、竜人の子供を育てる

36.自分の都合

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三日月のような目で笑うジェスは、戯れるようにルーフの首筋にキスを落とし、片手はルーフの胸から腹を撫でながら、するりと服の中へと入り込む。

したくなった気持ちをアピールするいつものルーティン。

元同僚であり、飲み仲間であるジェスは、昔から手近なセフレでもあった。

ジェスとの相性はかなりいい方だ。
それに最近、家でシロと過ごす方が多くなり、1人で飲み歩く事が少なくなっていたルーフは、そういう行為自体久しぶりだという事に気付いた。

断る理由はない。

それでもなぜか気分が乗らない。


「…シねぇよ。どけ」

ジェスを押し退け、ソファに座り直した。

断られたジェスは、目を丸くし「まじかよ…」と呟いた後、面白そうに笑った。

「へぇ。噂は本当だったんだ」

「噂?」

「お前がノリ悪くなったって。酒場でも全然見かけねぇし、ついに不能になったんじゃねぇかって」

ジェスもソファに座り直しながら、ニヤニヤとルーフを見る。

「最悪な噂話だな。不能じゃねぇよ。気分じゃないだけだ」

「快楽主義者がよく言うぜ。そういえばギルドにもよく顔を出してるんだろ?真面目に労働か?」

「まあな。今年シロが学校を卒業する。本人は進学せず、レニーの病院で働くっ言ってるけど、隣国のモンド王国には種族関係なく通える医療系の学校があるからな。進学を勧めるつもりだ」

それはここ数年、シロの将来について考えていた事だった。

魔力のコントロールも出来るようになり、頭が良くて真面目なシロなら、どんな学校でも進学出来るだろう。

それにスノウの医療魔法だって、いつも興味津々に見ているシロの事だ。本当はもっと学びたいに決まっている。正直、レニーの廃れた病院なんかじゃ学べる事なんて限られている。
それなのにあいつは「ルーフと暮らしたいから今のままがいい」と幼い子供のようなわがままを言っている。

ふん、可愛いやつめ。
だったら一緒に学校のある場所へ引っ越せばいい。

元々ルーフは色んな場所を転々としながら暮らしていた。流石に竜人の国は無理だが、どの国で暮らしたって問題ない。

美味い酒があって、隣にシロがいればどこで暮らしたって楽しいはずだ。

シロに合った学校に進学出来るよう、新しい場所で2人で生活を始められるように、ルーフはギルドへ行って金を稼いでいるのだ。

だが、ジェスにその話をするとドン引きした顔でルーフを見た。

「…お前、本当にあのルーフか?何事にも無責任、無関心だったルーフはどこ行っちまったんだよ!今のお前は過保護すぎる保護者だぜ!?いや、子離れ出来ないバカ親だ。シロ坊の人生に干渉し過ぎじゃねぇか?」

ー…シロの人生に干渉し過ぎ?

ジェスの言葉が心臓に突き刺さる。

いや、でもシロが俺と暮らしたいって言うから考えていただけだ。

「…別に俺の考えをシロに強制させるつもりはない。ただ、選択肢の一つとして準備してるだけで…」

「ふーん。まあ、シロ坊がお前のことを好きなのは知ってるよ。盲目的に愛して信頼している。でも、それって監禁されていたシロ坊をお前が最初に助けたからじゃねぇのか?シロ坊が知ってる世界はまだ狭い。そんなあいつシロ坊をいつまでも自分のそばに置いておくつもりか?」

「…それは」

ジェスの指摘に言葉が詰まる。

個人行動を好む魔族にとって、いつまでも子供が親元で暮らす事はあり得ない。だからジェスにはルーフの考えが理解できなかった。

ルーフだってシロを引き取った頃は、一時的に預かるだけで学校を卒業したら別々に暮らしていくつもりだった。
それなのに、シロとの暮らしは居心地が良過ぎて、いつの間にか、一緒に暮らしていくことが当たり前だと思ってしまっていた。

世間知らずなシロの「ルーフと暮らしたい、ルーフが好きだ」という言葉に胡座をかき、自分の都合でシロの自由を奪っていたのではないか。

いや、でもシロ自身がルーフと暮らす事を望んでいるのだ。

俺はちゃんとシロの意見を尊重している。
あり得ないとは思うが、仮にシロが俺の元を離れると言うなら、その意見も受け入れるつもりだ。

だから俺は間違っていない。

…たぶん、間違っていないはず。


ルーフが何も答えず俯いているので、ジェスは気まずくなって立ち上がった。

「悪い。俺こそ関係ないのに、お前たちの生き方を否定する発言だったな。忘れてくれ。じゃあ、そろそろ帰るわ」

「…いや、お前と話せて良かった。またな」

ルーフは立つ気力が出なかったので、ソファに座ったままジェスを見送った。
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