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30.始めよう、殺し合い。

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泉から上がるとグレイは水で濡れた髪と体を風魔法で乾かし服を着た。

そういえばルイは、上は脱いでいたけど下は履いたままだったな。
魔法がまだ使えないようなら、乾かしてあげた方がいいかな。

ルイに視線を向けると、ちょうど泉から上がったところだった。

体や髪の汚れは完全に落ち、傷跡もほとんど消えている。

ー…治癒の泉の効果は本物だったんだ。

ルイの逞しい体から水滴が流れ、たてがみと同じ氷雪を連想させる水色の髪をかきあげ、水分を落としている。月明かりに照らされたその姿は神々しさをも感じる。
そんなルイの一連の動きにグレイは釘付けになり心臓がきゅーっと痛くなった。

うう、やっぱりかっこいい…。
そしてエロい…。


グレイはドキドキしながら「体乾かそうか?」と話しかけたが、胸の鼓動がうるさいせいでルイの顔が見れない。

「ありがとう。でも大丈夫だよ。グレイ、見てて。」

「え?」

グレイがルイを見上げると、暖かい風が2人を包み込み、ルイの体はすっかり乾いていた。
半裸だった姿もちゃんと清潔な服に変わっていた。

「グレイのおかげで体力も魔力もすっかり戻ったみたいだ。ありがとう。」

「本当だ!よかった!!」

安心したのも束の間で「うん。よかった、よかった。」と暗闇の中から背筋が凍るような声がした。

ルイはすぐに魔法で剣を出し警戒体制になったが、グレイは声の主が誰なのかすぐに分かった。


「…魔王様。」

暗闇から足音もせず現れたのは魔王だった。

「お前が…魔王。」

ルイから今まで感じた事のない怒気を感じる。

グレイはいつも魔王に会える事が嬉しかった。
魔王に会えばくだらない話も気軽にしていたし、今日の昼間も魔王に「ルイを外に出してくれ」とお願いもした。
いつも白いお面を被っているせいで表情は分からなかったが、穏やかで優しい雰囲気を持つ魔王に恐怖を感じた事は一度もなかった。
それなのに、なぜか今はすごく恐怖を感じる。
いつものように話しかける事さえ出来ない。
体が小刻みに震え、冷や汗が流れる。

「グレイから話は聞いたよ。君が竜人聖騎士師団長のルイでしょ?」

「ああ、そうだ。私もあなたの話を聞いている。私と戦いたいんだろ?」

恐怖で震えているグレイの横で、ルイは魔王を見つめ平然と話している。

「そうだよ。聖騎士師団長っていうからには強いんでしょ。君は僕を殺せるのかな?」

「どうかな。でもずっと殺してやりたいと思っていた。」

「ふうん。で、体調は万全になった?」

「ああ、おかけ様でな…。」

ルイから緊張感が伝わり、グレイは嫌な予感がした。

逃げたい。
今すぐここから。
でないとルイが殺される。

ルイの手を掴もうとした瞬間、魔王から禍々しいオーラが解き放たれ、グレイは恐怖で完全に動けなくなった。

「じゃあ、今から始めよう。殺し合い。」

魔王の楽しそうな声が聞こえた。
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