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第5話 追放

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ガスロに絡まれていたところをシンシアお姉ちゃんに助けられたあと、僕は孤児院長室に呼び出されていた。

予想通りだ。近いうちに孤児院長から呼び出しがあるだろうとは思っていた。

「君には、今日中に出ていってもらいます」

美しい重厚な高級机の向こうで、革張りの椅子に腰かけている40代後半の男性は、立っている僕に向かって開口一番そう言った。

「……どういうことですか……?」

孤児院長の言葉に戸惑う8歳児らしい反応を返した。

「この孤児院の定員は100名なのですよ」

「えっ……でも、ルヴィアとティエラ姉ちゃんを含めて、103人の孤児達が暮らしてましたよね?」

「大人の事情というやつです。無論、君のことは気掛かりです。そのため、なんとか他の孤児院に君を移住させられないか頼みこんでみましたが、無理でした。仕方ありませんよね。魔王軍の侵攻は激しく、次々に兵が命を失い、孤児が増え続けているのですから」

「そ、そんな……」

「仕方ありません。大人の事情ですから」

「どうして突然……」

「理由は説明しました」

「でもっ」

「理由は説明したと言ったはずです!」

一喝された僕は、8歳児らしく怯えた仕草を見せた。

予想通りの流れだったが、このまま言われっ放しもしゃくなので一言だけ言い返した。

「ルヴィアとティエラ姉ちゃんがこのことを知ったら――」

「知ることはありませんよ」

言葉をかぶせた孤児院長が小馬鹿にしたように鼻で笑った。

「魔王軍との戦争がどれだけ続いていると思ってるんですか? 過去送り出した勇者はすべて魔王と接触する前に死んでいるほどの激戦ですよ。当然、ルヴィアとティエラが王都の土を踏むことなど2度とありません。ゆえに知ることなど絶対にないのです」

肩を落として孤児院長室を出た僕は、廊下に出ると元どおり背筋を伸ばし、物置きに隠しておいた羊皮紙などを取り出す。

(予想通りか……)

10歳のルヴィアとティエラほど純粋ではない精神年齢42歳の僕は、孤児院長の不正に早くから気づいていた。

孤児院長の不正の目的は、平たく言えば王国からの補助金の着服だ。補修されていない廊下に対して、孤児院長室の机はまるで貴族の持ち物のようだった。だがそんなことはまだ序の口。

本来なら孤児院の運営に回すべき金を自分のものにしているわけだが、そのあまりの横領した金額の大きさに初めて自分の天与ギフト、〈解読〉の信頼性を疑ったほどだ。

「さて。あとはこの書類をどうするかだな」

3枚の羊皮紙にはびっしりと王国の文字と数字が書かれている。
それらはまるで前世の世界にあったコピー機で印刷したかのようにそっくりだ。

これが〈複写〉の力だ。

貴重な羊皮紙を3枚も使ったのは、念のため王宮、貴族院、孤児院統括本部の3か所に投書するためだった。

「どうするか」などとつぶやいたものの、今日この日が来ることをずっと以前から覚悟し準備を進めてきた。

(けど、まさか孤児院長室のガードがここまで固いとはな……)

ずっと隙のなかった孤児院長。だが、勇者と聖女の出立の前日はさすがに疲れたのか、気が緩んだのか、孤児院長室に容易に潜り込むことができた。

結局、旅立ちの前日の深夜に動きまくったせいで、ろくにルヴィアとティエラに別れの挨拶ができず、2人に少し悲しい思いをさせてしまった。ルヴィアなんかは朝ぐっすり眠ったままの僕の薄情な態度に怒っていた様子だ。
実際には僕が寝たのは明け方だったので仕方ないのだが。
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