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第二部
第8話 相談される
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応接の扉をノックすると、哲平の声がすぐに返ってきたので扉を開けて中に入った。
すると、一番最初に目に飛び込んできたのは、上座にあたる場所に置かれてあるソファーに座り、頭を抱えているキースの姿だった。
「ちょ、どうしたの?」
「……アリスか、悪いな」
「何よ、暗い顔して。何かあったの」
いつもの爽やかイケメンは、どこにいったの?
とツッコミたくなるくらいに、顔を上げたキースの表情は暗かった。
「お腹もへったし、晩ごはんを食べながら話そうかと思ってたけど、それどころじゃなさそうね」
ため息を吐いて、後ろ手で扉を閉めてから尋ねる。
「本当に一体、何があったの?」
「……ノアが」
「ノアに何かあったの?!」
口を開かないキースの代わりに、哲平が答えてくれたけど、中途半端なところで言葉を止めるから、イライラしながら、哲平の横に座る。
ノアの様子がおかしいだなんて思っていなかっただけに、一体何があったのかと焦る。
「……シエルに告白されたらしい」
キースが不安そうな目で私を見て言った。
え?
告白でそこまで頭を抱えてるの?
というか…、シエル?
「まさか、シエル・グローゼル?」
見た目好青年だけど、実際は腹黒そうな、出来ればガチンコ勝負をしたくない名前が出ただけに焦ってしまった。
シエル・グローゼルは、私がアリスになって学園に行った初日のあのゴミ事件せいで、その日はクラスメイトは私に必要以上に話しかけてこなかった。
ノアと、シエルをのぞいては。
「グローゼルって誰だよ」
哲平がテーブルに置かれていたティーポットから、私の分のお茶をカップに注いでくれながら聞いてくる。
こういうのは普通はメイドさんがやるんだろうけど、今は部屋に入れないようにしてるから、自分でやるしかない。
まあ、私の分は今は哲平がやってくれてるけど。
「私のクラスの委員長よ。しかもノアの隣の席。よくノアに話しかけてるな、とは思ったけど」
哲平に答えてから考える。
ノアは素朴で可愛らしいから、モテてもおかしくはない。
シエルは内面は腹黒そうだけど、顔は整ってるし、物腰が穏やかで伯爵家の令息だから、クラスの女子だけじゃなく、他のクラスの子にも人気がある。
だから、ノアと釣り合わないとか、そういう訳じゃなくて、気になるのは、同じようにモテているキースは男子にも評判は良いのに、シエルはそうでもない感じがするという事。
彼と仲良くしてる人はいるけど、どこか一線を引いている感じがして、笑顔も何か胡散臭い。
「私、あいつには裏があると思うから嫌なのよね」
「お前もそう思うか?」
私の言葉に、キースが食いついてきた。
「キースもそう思ってたの?」
「まあな。アイツは昔からなんか笑顔が胡散臭いんだよ」
私と同じ事を言ってるわね。
「たしか、グローゼルって反王家派じゃないのか?」
「っていう噂だな」
哲平が聞くと、キースが眉間にシワを寄せて頷いた。
キースのセンドラル家は王家寄りだから、派閥が違う。
それに、哲平のイッシュバルドは王族に友人もいる為、王家派だ。
アダルシュという国は、ほぼ、王家に忠誠を誓う人が多いけれど、失脚させ成り代わろうと企むものも中にはいるらしい。
それが、反王家派。
グローゼル家はたしか、反王家派と噂がある公爵家と親しくしていると聞いた事があるけど、あまり興味がなくて、何て名前の公爵家か忘れてしまった。
私も王家派だから、ここにいる全員がシエルとは敵対関係になるし、ノアがシエルを好きだったとしても、事情を話して諦めてもらうしかないけど、いくら友達でも、そんなお願いをしてもいいものかしら?
というか、こうなってくると、あの事件について相手が誰だか見えてくるんじゃない?
「そういえば、ノアはなんて?」
「すごく喜んでて、世話になってる俺の父さんと母さんの迷惑にならないなら付き合うって」
「じゃあ、こんな事してる場合じゃないじゃない! キースのお父さんとお母さんに止めてもらうようにしないと!」
焦って言うと、キースはそんな私を制するように右腕をこちらに伸ばした。
「母さんと父さんは出掛けてて、帰ってくるのは三日後だ」
「それまでに何もないとは限らないでしょ」
「どうしたんだよ? 何を焦ってんだ?」
私が焦っている理由がわからないのか、哲平が顔をのぞき込んでくる。
「キースは私が焦ってる意味、わかってる?」
「わかってる」
哲平に答えるのではなくキースに尋ねると、キースが大きく頷く。
そんなキースと私を見て哲平は不服そうにする。
「何だよ、ノアが付き合う事に悩んでるんじゃねぇのか?」
「それに関してはうちの親は絶対に反対するから気にしてない」
「じゃあ、なんで悩んでるんだ?」
「小瓶」
哲平の疑問の声に、私とキースが口を揃えて答えると、意味がわかったのか、哲平は口を手で覆ってから言う。
「犯人はそのシエルって奴を好きな女で、このままにしておけば、ノアはまた狙われるって事か?」
「シエルがノアを諦めてくれれば、ノアを危ない目に合わせなくてすむんだけど」
「どうせ、キースの両親が反対するんなら、ノアも断るだろうし、それでいいんじゃねぇの?」
答えた私に、呑気そうに哲平が問いかけてくる。
哲平の言いたい事はわかる。
でも…。
「ノアが答えを出すのに三日かかる」
私が言おうとした事をキースが口にした。
「……その間に何が起きるかわからねぇって事か」
納得したように哲平は頷くと、私の方を見る。
「お前はどうしたら良いと思うんだよ」
「そりゃ、目の前で凹んでる誰かさんが、ノアに告白して上手くいくのが一番でしょ」
答えると、哲平は今度はキースを見て言った。
「よし、告れ」
「こくれ?」
「告白しろって事」
キースに意味が通じなかったようだから教えてあげると、キースは耳まで赤くして叫ぶ。
「そ、そんな簡単に言うなよ!」
「いいタイミングじゃねぇか」
「テツだって、いきなりそんな事言われて告白できんのかよ?!」
「できるか、という問題じゃなく、俺はしないだけ」
しれっと答える哲平を、ではなく、なぜかキースは私を恨めしそうに見てくる。
なんでよ?
なんで私がそんな目で見られないといけないわけ?
「哲平、私はあんたも告白してもいいと思うわよ? 良い返事が返ってくるかどうかはわからないけど」
「お前は黙ってろ」
べしん、と哲平に頭を殴られる。
「ちょっと! レディの頭を殴るなんて、どうかと思うの」
「レディは告白を強要したりしねぇよ」
「強要はしてないじゃない。してもいいって言ってるの。さぁ、どうぞ?」
「いいかげんにしろ!」
右隣に座る哲平が、思い切り頬を引っ張ってくる。
痛い。
ちょっとからかいすぎたか。
しかも、今のキースの前では余計に駄目だったわね。
「ごめん。キース、ふざけすぎた」
「いや、いい。変に暗くなられても、もっと気分が沈むからな。というか、お前ら、本当に付き合ってないのか?」
「な訳ないでしょ。というか…」
そこまで言って、私はキースの顔をまじまじと見つめる。
「な、なんだよ」
「土下座してでもノアに付き合ってもらうしかないわね」
焦るキースに、私はきっぱりと言った。
すると、一番最初に目に飛び込んできたのは、上座にあたる場所に置かれてあるソファーに座り、頭を抱えているキースの姿だった。
「ちょ、どうしたの?」
「……アリスか、悪いな」
「何よ、暗い顔して。何かあったの」
いつもの爽やかイケメンは、どこにいったの?
とツッコミたくなるくらいに、顔を上げたキースの表情は暗かった。
「お腹もへったし、晩ごはんを食べながら話そうかと思ってたけど、それどころじゃなさそうね」
ため息を吐いて、後ろ手で扉を閉めてから尋ねる。
「本当に一体、何があったの?」
「……ノアが」
「ノアに何かあったの?!」
口を開かないキースの代わりに、哲平が答えてくれたけど、中途半端なところで言葉を止めるから、イライラしながら、哲平の横に座る。
ノアの様子がおかしいだなんて思っていなかっただけに、一体何があったのかと焦る。
「……シエルに告白されたらしい」
キースが不安そうな目で私を見て言った。
え?
告白でそこまで頭を抱えてるの?
というか…、シエル?
「まさか、シエル・グローゼル?」
見た目好青年だけど、実際は腹黒そうな、出来ればガチンコ勝負をしたくない名前が出ただけに焦ってしまった。
シエル・グローゼルは、私がアリスになって学園に行った初日のあのゴミ事件せいで、その日はクラスメイトは私に必要以上に話しかけてこなかった。
ノアと、シエルをのぞいては。
「グローゼルって誰だよ」
哲平がテーブルに置かれていたティーポットから、私の分のお茶をカップに注いでくれながら聞いてくる。
こういうのは普通はメイドさんがやるんだろうけど、今は部屋に入れないようにしてるから、自分でやるしかない。
まあ、私の分は今は哲平がやってくれてるけど。
「私のクラスの委員長よ。しかもノアの隣の席。よくノアに話しかけてるな、とは思ったけど」
哲平に答えてから考える。
ノアは素朴で可愛らしいから、モテてもおかしくはない。
シエルは内面は腹黒そうだけど、顔は整ってるし、物腰が穏やかで伯爵家の令息だから、クラスの女子だけじゃなく、他のクラスの子にも人気がある。
だから、ノアと釣り合わないとか、そういう訳じゃなくて、気になるのは、同じようにモテているキースは男子にも評判は良いのに、シエルはそうでもない感じがするという事。
彼と仲良くしてる人はいるけど、どこか一線を引いている感じがして、笑顔も何か胡散臭い。
「私、あいつには裏があると思うから嫌なのよね」
「お前もそう思うか?」
私の言葉に、キースが食いついてきた。
「キースもそう思ってたの?」
「まあな。アイツは昔からなんか笑顔が胡散臭いんだよ」
私と同じ事を言ってるわね。
「たしか、グローゼルって反王家派じゃないのか?」
「っていう噂だな」
哲平が聞くと、キースが眉間にシワを寄せて頷いた。
キースのセンドラル家は王家寄りだから、派閥が違う。
それに、哲平のイッシュバルドは王族に友人もいる為、王家派だ。
アダルシュという国は、ほぼ、王家に忠誠を誓う人が多いけれど、失脚させ成り代わろうと企むものも中にはいるらしい。
それが、反王家派。
グローゼル家はたしか、反王家派と噂がある公爵家と親しくしていると聞いた事があるけど、あまり興味がなくて、何て名前の公爵家か忘れてしまった。
私も王家派だから、ここにいる全員がシエルとは敵対関係になるし、ノアがシエルを好きだったとしても、事情を話して諦めてもらうしかないけど、いくら友達でも、そんなお願いをしてもいいものかしら?
というか、こうなってくると、あの事件について相手が誰だか見えてくるんじゃない?
「そういえば、ノアはなんて?」
「すごく喜んでて、世話になってる俺の父さんと母さんの迷惑にならないなら付き合うって」
「じゃあ、こんな事してる場合じゃないじゃない! キースのお父さんとお母さんに止めてもらうようにしないと!」
焦って言うと、キースはそんな私を制するように右腕をこちらに伸ばした。
「母さんと父さんは出掛けてて、帰ってくるのは三日後だ」
「それまでに何もないとは限らないでしょ」
「どうしたんだよ? 何を焦ってんだ?」
私が焦っている理由がわからないのか、哲平が顔をのぞき込んでくる。
「キースは私が焦ってる意味、わかってる?」
「わかってる」
哲平に答えるのではなくキースに尋ねると、キースが大きく頷く。
そんなキースと私を見て哲平は不服そうにする。
「何だよ、ノアが付き合う事に悩んでるんじゃねぇのか?」
「それに関してはうちの親は絶対に反対するから気にしてない」
「じゃあ、なんで悩んでるんだ?」
「小瓶」
哲平の疑問の声に、私とキースが口を揃えて答えると、意味がわかったのか、哲平は口を手で覆ってから言う。
「犯人はそのシエルって奴を好きな女で、このままにしておけば、ノアはまた狙われるって事か?」
「シエルがノアを諦めてくれれば、ノアを危ない目に合わせなくてすむんだけど」
「どうせ、キースの両親が反対するんなら、ノアも断るだろうし、それでいいんじゃねぇの?」
答えた私に、呑気そうに哲平が問いかけてくる。
哲平の言いたい事はわかる。
でも…。
「ノアが答えを出すのに三日かかる」
私が言おうとした事をキースが口にした。
「……その間に何が起きるかわからねぇって事か」
納得したように哲平は頷くと、私の方を見る。
「お前はどうしたら良いと思うんだよ」
「そりゃ、目の前で凹んでる誰かさんが、ノアに告白して上手くいくのが一番でしょ」
答えると、哲平は今度はキースを見て言った。
「よし、告れ」
「こくれ?」
「告白しろって事」
キースに意味が通じなかったようだから教えてあげると、キースは耳まで赤くして叫ぶ。
「そ、そんな簡単に言うなよ!」
「いいタイミングじゃねぇか」
「テツだって、いきなりそんな事言われて告白できんのかよ?!」
「できるか、という問題じゃなく、俺はしないだけ」
しれっと答える哲平を、ではなく、なぜかキースは私を恨めしそうに見てくる。
なんでよ?
なんで私がそんな目で見られないといけないわけ?
「哲平、私はあんたも告白してもいいと思うわよ? 良い返事が返ってくるかどうかはわからないけど」
「お前は黙ってろ」
べしん、と哲平に頭を殴られる。
「ちょっと! レディの頭を殴るなんて、どうかと思うの」
「レディは告白を強要したりしねぇよ」
「強要はしてないじゃない。してもいいって言ってるの。さぁ、どうぞ?」
「いいかげんにしろ!」
右隣に座る哲平が、思い切り頬を引っ張ってくる。
痛い。
ちょっとからかいすぎたか。
しかも、今のキースの前では余計に駄目だったわね。
「ごめん。キース、ふざけすぎた」
「いや、いい。変に暗くなられても、もっと気分が沈むからな。というか、お前ら、本当に付き合ってないのか?」
「な訳ないでしょ。というか…」
そこまで言って、私はキースの顔をまじまじと見つめる。
「な、なんだよ」
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