必要ないものは「いりません」と言うことにしました

風見ゆうみ

文字の大きさ
43 / 43

42 神様からの贈り物

 国外追放されたハリー様は、現在、他国の公爵家の下働きとして頑張っているらしい。
 ハリー様は頭を打って気を失ったあと、意識が戻った時には10歳頃までの記憶しかなくなっていたからだ。

 その頃のハリー様は純粋な子供だったので「あなたは悪いことをしたから、ここに来ているのだ」と諭されると、素直に罰を受けると言ったそうだ。

 どうして、そんなに純粋だったハリー様が変わってしまったかというと、ムーニャと出会い、唆されてしまったのではないかということだった。

 そのムーニャは今では部屋に閉じこもっているし、昔の面影もないようだから、これから誰かに悪さをすることはないでしょう。

「ハリーのことはこれからも見守っていきたいと思っているの。リアンナが愛する人を見つけて、その人と結婚したら、陛下は今までの責任を取って、すぐにその人に王位を譲るつもりよ」
 
 王妃陛下のお言葉を聞いた私は、すぐには答えを返せなかった。

 好きな人はいる。
 でも、この気持ちを口に出してしまえば、アクス様はわたしのことを好きじゃなくても、わたしの気持ちに応えようとしてくれるはず。
 そして、そうなってしまったら、テイル公爵家を継げなくなってしまう。
 アクス様の望んでいた未来を奪うわけにはいかない。

「もう少しだけ、お時間をいただけませんか。もしくは、どなたか紹介していただけると有り難いのですが」

 国王になりたいと願う人はたくさんいる。
 だから、わたしが選ぶのではなく、両陛下に選んでもらおうと思った。

 私のお願いを聞いた両陛下は顔を見合わせた。

 少しの間をおいて国王陛下が「候補だけ選ばせてもらう」とおっしゃったので、お願いすることにした。


*****

 
 10日後、両陛下から呼び出されたわたしは、前回と同じく、謁見の間に向かった。

 謁見の間に通されると先客がいて、アクス様ともう一人、若い男性がいた。
 たしか、ニミキ公爵家の次男のグード様だったかしら。

 整った顔立ちをしておられるけれど、まったくときめかない。
 なのに、少し視線をずらして、アクス様を見るだけで胸がドキドキした。

 早く忘れなくちゃいけないのに何をしてるのかしら。

「リアンナ嬢」

 アクス様が優しい声で名を呼んでくれたので、壇上の両陛下に挨拶してから、アクス様の隣に立った。

「リアンナ、本当にごめんなさいね」

 王妃陛下はそう言うと、わたしの所まで下りてきて話を続ける。

「あなたがそんなに悩んでいるなんて知らなかったの」
「どういうことでしょうか」

 何のことかわからなくて聞いてみると、国王陛下が答えてくれる。

「リアンナを妻にした者を国王にすると言ったが、リアンナが次期国王と認めた者を国王とするに変更するつもりだ」
「……どういうことでしょうか?」
「すまなかったな。神様が夢に出てきて教えてくれたんだ。リアンナが王妃になる権利なんていりませんと言っていると」

 国王陛下は苦笑してから話を続ける。

「次期国王に相応しいと思われる人物が彼らだ。でも、テイル卿は辞退すると言っている。だから、ニミキ卿はどうだろうか」
「陛下が選んでくださった御方でしたら、わたしが反対する理由はありません」
「ありがとう。なら、今度、改めて夜会を開き、そのことを皆に発表することにしよう」

 陛下の言葉を聞いたグード様はわたしに向かって深々と頭を下げた。

 この人の悪い噂は聞いたことがないし、きっと大丈夫よね。
 それに駄目なら神様が知らせてくれるはずだもの。

 その後、両陛下がグード様と話があるからとおっしゃったので、わたしとアクス様は謁見の間を出た。

 謁見の間を出るとすぐに、アクス様が話しかけてきた。

「久しぶりだな」
「……はい。アクス様はお元気でしたか?」
「あまり元気ではない」
「えっ!? そうなんですか? あの、癒やしの力を使いましょうか?」
「いや、そういうことじゃなくて……」

 アクス様は苦笑してから尋ねてくる。

「今から少しだけ、時間をもらえないか?」
「かまいませんが」

 体調が気になったけれど、アクス様に誘われるがままに、城の庭園に向かった。

 ここを歩く許可は両陛下から得ているらしい。
 綺麗に手入れされた草花を眺めながら歩いていると、アクス様が口を開く。

「両親から婚約者を作るように言われているんだ」
「……そうなのですね」

 ああ、嫌だわ。
 だから、もう会えなくなると言いたいの?
 そんなことを言われなくても、会わないように努力していたのに――

「俺の婚約者になってくれないだろうか」
「言われなくてもそうします!」

 アクス様が言ったタイミングとわたしが叫んだタイミングが同じだった。

「え?」
 
 わたしが聞き返すと、アクス様はきょとんとした顔で言う。

「言われなくても婚約者になってくれるつもりだったのか?」
「そ、そういうつもりではなくてですね!」

 首を何度も横に振ってから、思っていたことを伝える。

「もう会えないと言われるのかと思ったんです」
「どうしてそんなことを思うんだ?」
「アクス様にはわたしは必要ないと思ったからです!」

 恥ずかしくなって目を瞑って叫んだ瞬間、優しく抱きしめられた。

「必要だよ。そう伝えていたつもりだったんだが?」
「それは、わたしが安眠グッズのようなものだからでしょう?」
「安眠グッズ? じゃあ聞くが、君は信頼していない人の前で安心して眠れるのか?」
「それは、その、眠りづらいとは思います」
「君といると安心できるんだ」
「……わたしもアクス様といるとホッとします」

 今も抱きしめられていて恥ずかしいよりも、抱きついて目を閉じたい衝動にかられてしまう。

「実は君に嫌われていると思っていたから諦めようと思っていた」

 なんと言葉を返せば良いのかわからなくて、黙って言葉の続きを待っていると、アクス様は話を再開する。

「そう思った日から、顔を洗うために水をためたりした時やスープを飲もうとした時に『意気地なし』と文字が浮かぶようになったんだ」
「……神様の仕業なんでしょうか」
「だと思う。俺も君も頑固だから、手を貸してくれたんじゃないかな」

 アクス様は声を上げて笑ったあと、強く抱きしめて聞いてくる。

「で、君の返事は、はいで良いんだろうか?」
「はい」

 そう言ってから、笑ってアクス様の顔を見上げた。
 すると、アクス様は相好を崩して、わたしの額にキスをした。


*****

 3日後、国王陛下のほうから、次期国王の選定の仕方が変わったことと、新しい国王の候補が発表された。
 わたしとアクス様の婚約も同時に発表されて多くの人から祝福してもらえた。

 その時、テナミ様は何か言いたげに近づいてきたけれど、目の前で「ぐあぁぁ」とお腹を押さえて、のた打ち回ったので騎士たちに運ばれていった。

 そして、また日にちが過ぎ、婚約が決まって100日が経とうという頃、ハリー様が屋敷のメイドに手を出そうとして捕まったという知らせを聞いた。

 一方的に相手を好きになってしまい、付きまとい行為をして警察に通報されたそうだった。

 公爵家からも追い出されることになるだろうから、ハリー様はこれからどうなるかはわからない。

 でも、今のわたしは自分のことで精一杯だから、ハリー様のことまでかまってあげられなかった。

「ロブ! 頑張って!」

 今日はロブの学園の体育祭に来ていた。
 リレーの代表に選ばれたというロブを、わたしとロザンナ、アクス様で応援しに来たのだ。

「任せて!」

 会わないうちに一回り体が大きくなったロブは、笑顔でわたしに手を振ってくれた。

 ソナルナ男爵夫妻はわたしたちとまた一緒に暮らしたいと嘆いているらしい。
 小さな子供には親は必要だからと。
 それは間違っていないから、その話をロブとロザンナにすると、二人は「必要ない」と言った。

 だから、返事の手紙には「いりません」と書いて送ることにした。

 
 
 
 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!

 もうちょっと甘い話を書きたかったんですが、バカな王子たちのせいで、コメディになってしまいました。
申し訳ございません。
 
 お気に入り、感想、しおり、エールをありがとうございました。
 本当に励みになりました。

 そして、母や私への体調のお気遣いもありがとうございました。

 私としては読者様に少しでも楽しんでいただけていれば、それが励みになりますので、これからも無理ない程度に書き続けようと思います。
(病院に面会制限があるので、そう頻繁には行けないというのもあります)

 というわけで、新作を投稿しております!

 タイトルは「あなたに捧げる愛などありません」になります。
 夫に好かれるために努力したにもかかわらず、馬鹿にされ続けてきた妻が、容姿を変えたことにより、態度を一変させた夫に一気に冷めてしまい、離婚しようとするが……というお話です。
 ご興味ありましたら、そちらでもお会いできますと幸いです。

 ここまでお読みいただき、ありがとうございました!



感想 112

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(112件)

ころりんたろう
2024.02.18 ころりんたろう
ネタバレ含む
2024.02.18 風見ゆうみ

質問をありがとうございます。

匂わせただけですね。
どっちでも良いかなと思ってます。
どうせ、外には出ませんので。

解除
りお
2024.02.15 りお
ネタバレ含む
2024.02.16 風見ゆうみ

完結と書籍のお祝いをありがとうございます!

しかも買っていただけるのですか😭
ありがとうございます!
母は昨日転院し、現在、ICUにおります。
今は面会できない状態ですし、何もしないと泣けてきますので、執筆で気を紛らわそうと思います。
母と話すことができたら、新しい本を買ってくださるという方がいたよと伝えさせていただきます。

私へのお気遣いと、拙作を最後までお読みいただきありがとうございました✨

解除
モルガナ
2024.02.12 モルガナ
ネタバレ含む
2024.02.12 風見ゆうみ

完結についてのお祝いの言葉をありがとうございます。

ロブに関しては、話の終わりではまだ8歳なので、そのへんはまだわかってないかなと😅
私が親のありがたさに気付くのが遅かったというのもありまして、こんな感じになっております。
大人になったら、15,6歳になった頃には、さすがに反省や感謝はしていると思います。
(ちなみに私はもっと遅かったです😭)

最後までお読みいただき、ありがとうございました✨

解除

あなたにおすすめの小説

文句を言わない婚約者は、俺の愛する幼馴染みを許していなかった【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
幼馴染を優先しても、婚約者アウローラは何も言わない。だから、これからも幼馴染みとイチャイチャできる── 侯爵令息トリスタンは、そんな甘い幻想を信じていた。 だが婿入りした瞬間、彼の“軽んじた態度”はすべて清算される。 アウローラは冷徹に、トリスタンの傲慢と欲望を1つずつ暴き、労働と屈辱を与える。 そして最後に残ったのは、誰にも必要とされない現実だけ。 「どうして……俺は、こんなにも愚かだったんだ」 これは愛を勘違いし、身分を過信し、自分の価値を見誤った男の終焉を描くダークドラマ。 ⚠️ 本作は AI の生成した文章を一部に使っています。過激ざまぁタグあります。 4/1「エステルに対する殺意」の内容を一部変更しました。

「通訳など辞書で足りる」と追放された令嬢——三国会談で、婚約者は一言も話せなくなった

歩人
ファンタジー
宮廷通訳官エレノーラは五つの言語を操り、婚約者クラウスの外交を陰で支えてきた。 だがクラウスは言った。「通訳など辞書で足りる。お前は要らない」 追放されたエレノーラは隣国で新たな道を歩み始める。 一方、クラウスは三国会談の場で辞書片手に立ち往生。 誤訳が外交問題に発展し、窮地に陥ったその場に、隣国の通訳官として現れたのは——。 「その言葉は、もう翻訳できません」

何もしなかっただけです

希臘楽園
ファンタジー
公爵令嬢であり王太子の婚約者であった私は、「地味だ」という理由で婚約を破棄され、王宮を去った。 それまで私が担っていた役目を、誰も知らないまま。 ――ただ何もしなくなっただけで、すべては静かに崩れていく。 AIに書かせてみた第14弾は、「追放ざまぁ」系の短編。

夫は私を愛していないそうなので、遠慮なく離婚します。今さら引き止められても遅いです

藤原遊
恋愛
王妃付き護衛騎士である夫に、「お前を愛したことはない」と告げられた。 理由は単純。 愛などなくても、仕事に支障はないからだという。 ──そうですか。 それなら、こちらも遠慮する必要はありませんね。 王妃の機嫌、侍女たちとの関係、贈り物の選定。 夫が「当然のように」こなしていたそれらは、すべて私が整えていたもの。 離婚後、少しずつ歯車は狂い始める。 気づいたときにはもう遅い。 積み上げてきた信用は、静かに崩れていく。 一方で私は、王妃のもとへ。 今さら引き止められても、遅いのです。

【今さら遅い】毒で声を失い公爵に捨てられた私。妹では精霊が応えず国は滅びへ。ですが隣国皇帝に溺愛される私に、今さら縋ってきても遅いです

唯崎りいち
恋愛
国一番の歌姫だった私は、妹に毒を盛られ声を失い、婚約者に捨てられた。 すべてを奪われた私を救ったのは、隣国の皇帝。 「お前の歌がなければ国は滅びる」と言われた私の歌は、精霊に届く“本物”の力を持っていて―― 一方、私を追放した国は偽物の歌では加護を失い衰退。 今さら元婚約者が縋ってきても、もう遅い。

聖女を追い出しても平気だと思っていた国の末路

藤原遊
ファンタジー
聖女が国を去った日、神官長は分かっていた。 この国は、彼女を軽く扱いすぎたのだと。 「聖女がいなくても平気だ」 そう言い切った王子と人々は、 彼女が“何もしていない”まま国が崩れていく現実を、 やがて思い知ることになる。 ――これは、聖女を追い出した国の末路を、 静かに見届けた者の記録。

「お前がいると息が詰まる」と追放された令嬢——翌週から公爵家の予定が全て狂った

歩人
ファンタジー
クラリッサは公爵家の日程管理を一手に担う令嬢。前世の社畜経験を活かし、行事計画、来客対応、予算管理まで完璧にこなしていた。 だが婚約者ヴィクトルは言った。「お前がいると息が詰まる。もっと華やかな女がいい」 追放されたクラリッサが去った翌週、公爵家の予定が全て狂い始める。 舞踏会の招待状は届かず、外交晩餐会の料理は手配されず、決算書類は行方不明。 一方クラリッサは、若き領主の元で「定時退社」という夢を叶えていた。 「もう、残業はしません」

ベールを上げた新郎は『君じゃない』と叫んだ

ハートリオ
恋愛
結婚式で新郎に『君じゃない』と叫ばれたのはウィオラ。 スピーナ子爵家の次女。 どうやら新郎が結婚する積りだったのは姉のリリウム。 ウィオラはいつも『じゃない方』 認められない、 選ばれない… そんなウィオラは―― 中世ヨーロッパ風異世界でのお話です。 よろしくお願いします。