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第3-1章 私は聖地より脱出しました
私はゆうべはおたのしみでした
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神は言っていました。ここで死ぬ定めではない、と。
神託を受けて目を覚ました私は身体を起こそうとして……チェーザレの逞しい腕に抱かれていると気付きました。そして昨日私が何をやってしまったかを思い出して、恥ずかしさに悶えそうになるのをかろうじて堪えます。
身をよじりながらやっとの思いで彼の腕の中から抜け出した私は床に脚を付けて立ち上がり……身体中の節々にとてつもない違和感を感じてしまいます。その、主に腰と口では言えない箇所とでも表しますか。
窓から外を伺うと空はまだ暗闇に包まれていましたが、東の方角が少しだけ明るくなっていました。どうやら夜明けが近い時間帯に覚醒したようです。普段だったらまだ寝具の中で睡眠を謳歌していますね。
急いで身支度を整えないと、と逸る気持ちで化粧机の前にやってきたのはいいのですが……鏡の前にいる女は誰でしょう? 汗と涎と涙でぐちゃぐちゃになった顔、髪は乱れて身体中に張り付き、身体は至る所に跡が残り、淫らの一言に尽きます。
私は惚けた自分に活を入れるべく頬を叩きました。それから大慌てで身体中を拭いて髪を束ねて祭服を着込みます。砕けそうになる腰に手を添えつつ私は部屋を出て隣の部屋で睡眠を取るトリルビィを起こしに向かいます。
「トリルビィ、起きてますか?」
「お嬢様?」
戸を叩くとすぐに向こうから返事が聞こえてきました。どうやらもう起床していたらしく、足音が段々と近づいてくるとすぐに扉が開きました。そして私を一目見るなり何故か目を見開いて固まってしまいます。
「神が言っていました。すぐに行かなければなりません。出発の支度を――」
「お嬢様、まさかそのままで準備を済ましたと仰るつもりじゃあないですよね?」
「え? はい、そのつもりですが――」
「駄目に決まってるでしょう!」
トリルビィに怒られたと認識した時には私は彼女に腕を引っ張られて部屋に連れ戻されてしまいます。そして乱れに乱れた寝具の惨状と横になるチェーザレを目の当たりにして愕然としてしまったようです。
「……すぐにお湯と手拭いを持ってきますから待っていてください」
「ですが私は急いで――」
「い・い・で・す・ね!?」
「は……はい……」
それからトリルビィは私の顔や体を丹念に拭きなおし、髪に櫛を入れ、化粧を施したりと、私の身支度を一からやり直しました。私の侍女曰く、自分ではきちんとしたつもりでも男でも誘ってるのかと言わんばかりに淫らに乱れていたんだとか。
「人は危機的状況に陥ると生存本能から情事に向かいがちだとどこかの文献に書かれてましたが、まさかお嬢様方が溺れてしまうなんて……」
「その、ごめんなさい? 余計な手間を取らせてしまいまして……」
「謝らないでください。後悔はしていないのでしょう?」
「……はい」
自然と私は笑みをこぼしてしまいました。鏡の向こうにいる自分はなんて幸せそうなんでしょう。トリルビィはそんな私の様子に深いため息を漏らしながらも微笑んでくれました。私達を祝福してくれるかのように。
「それで、お嬢様を抱いたあそこの不埒者は起こした方がよろしいですか?」
「ええ。すぐにでも荷物をまとめてここから出ます」
「……! ですが昨日も言っていたじゃないですか。お嬢様は最後の便に乗る、と」
「神託によると……どうやらもう船に乗る必要は無いみたいです」
トリルビィは驚きを露わにしましたが、疑問符も浮かべているようでした。どんな奇蹟が働いたら私達は皆助かるのか、想像もつかないのでしょう。私とて脱出を可能とする奇蹟の担い手が聖地にいない以上は現実的な手を使うしかないと覚悟してました。
ただ、一つだけ思い当たる節はあります。
もし私の想像通りの現象が起こったなら、きっとこの脱出劇は後世まで語り継がれることでしょう。
神託を受けて目を覚ました私は身体を起こそうとして……チェーザレの逞しい腕に抱かれていると気付きました。そして昨日私が何をやってしまったかを思い出して、恥ずかしさに悶えそうになるのをかろうじて堪えます。
身をよじりながらやっとの思いで彼の腕の中から抜け出した私は床に脚を付けて立ち上がり……身体中の節々にとてつもない違和感を感じてしまいます。その、主に腰と口では言えない箇所とでも表しますか。
窓から外を伺うと空はまだ暗闇に包まれていましたが、東の方角が少しだけ明るくなっていました。どうやら夜明けが近い時間帯に覚醒したようです。普段だったらまだ寝具の中で睡眠を謳歌していますね。
急いで身支度を整えないと、と逸る気持ちで化粧机の前にやってきたのはいいのですが……鏡の前にいる女は誰でしょう? 汗と涎と涙でぐちゃぐちゃになった顔、髪は乱れて身体中に張り付き、身体は至る所に跡が残り、淫らの一言に尽きます。
私は惚けた自分に活を入れるべく頬を叩きました。それから大慌てで身体中を拭いて髪を束ねて祭服を着込みます。砕けそうになる腰に手を添えつつ私は部屋を出て隣の部屋で睡眠を取るトリルビィを起こしに向かいます。
「トリルビィ、起きてますか?」
「お嬢様?」
戸を叩くとすぐに向こうから返事が聞こえてきました。どうやらもう起床していたらしく、足音が段々と近づいてくるとすぐに扉が開きました。そして私を一目見るなり何故か目を見開いて固まってしまいます。
「神が言っていました。すぐに行かなければなりません。出発の支度を――」
「お嬢様、まさかそのままで準備を済ましたと仰るつもりじゃあないですよね?」
「え? はい、そのつもりですが――」
「駄目に決まってるでしょう!」
トリルビィに怒られたと認識した時には私は彼女に腕を引っ張られて部屋に連れ戻されてしまいます。そして乱れに乱れた寝具の惨状と横になるチェーザレを目の当たりにして愕然としてしまったようです。
「……すぐにお湯と手拭いを持ってきますから待っていてください」
「ですが私は急いで――」
「い・い・で・す・ね!?」
「は……はい……」
それからトリルビィは私の顔や体を丹念に拭きなおし、髪に櫛を入れ、化粧を施したりと、私の身支度を一からやり直しました。私の侍女曰く、自分ではきちんとしたつもりでも男でも誘ってるのかと言わんばかりに淫らに乱れていたんだとか。
「人は危機的状況に陥ると生存本能から情事に向かいがちだとどこかの文献に書かれてましたが、まさかお嬢様方が溺れてしまうなんて……」
「その、ごめんなさい? 余計な手間を取らせてしまいまして……」
「謝らないでください。後悔はしていないのでしょう?」
「……はい」
自然と私は笑みをこぼしてしまいました。鏡の向こうにいる自分はなんて幸せそうなんでしょう。トリルビィはそんな私の様子に深いため息を漏らしながらも微笑んでくれました。私達を祝福してくれるかのように。
「それで、お嬢様を抱いたあそこの不埒者は起こした方がよろしいですか?」
「ええ。すぐにでも荷物をまとめてここから出ます」
「……! ですが昨日も言っていたじゃないですか。お嬢様は最後の便に乗る、と」
「神託によると……どうやらもう船に乗る必要は無いみたいです」
トリルビィは驚きを露わにしましたが、疑問符も浮かべているようでした。どんな奇蹟が働いたら私達は皆助かるのか、想像もつかないのでしょう。私とて脱出を可能とする奇蹟の担い手が聖地にいない以上は現実的な手を使うしかないと覚悟してました。
ただ、一つだけ思い当たる節はあります。
もし私の想像通りの現象が起こったなら、きっとこの脱出劇は後世まで語り継がれることでしょう。
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