婚約者が愛していたのは、私ではなく私のメイドだったみたいです。

古堂すいう

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策略 (エドモンドside)

傾く天秤

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 だが、それも仕方のないことだ。

 ミレーユの望む結婚の形は、王族の血を引くエドモンドには到底叶えられず、彼女が公爵令嬢であるかぎり、例え結婚したとしても、エドモンドにとってミレーユは妻であると同時にやはり利用価値のある人間になってしまう。

「……はあ」

 エドモンドは今まで、自分の境遇を嘆いたことなど一度もなかった。王族の血を継ぐとはいえ、王位継承権を放棄しているから気楽な身の上であったし、天性の商才を活かして、商人として存分に活躍してもいる。

順風満帆とはまさにこのこと。

(このまま、人生を穏やかに過ごせればと思っていたんだがなぁ……欲しているのに手に入らない。そんなもどかしさをまさかこの歳になって経験するとは思わなかった)

 あの純粋無垢な少女は、まるで純度の高い宝石のように、濁りがない。

 それは彼女が公爵家の令嬢として、それはそれは大切にされてきたからであることは明々白々。

 彼女は今まで、人から向けられる耳心地の良い声、称賛、気遣いを全て何の疑いもなく受け入れてきたのだろう。

けれど、アランの一件で彼女は気づいてしまった。

己の持つ地位が、多くの人間にとって価値あることを。

 自分自身という人間に重きを置かれることはなく、その地位ばかりが先行して人の目に触れてしまう。

 その寂しさを知ってしまった彼女は、今こうしている間にも涙を流しているに違いない。

(……そんな彼女を慰められない自分の立場を、こんなに恨んだことはない)


「兄さん」
「なんです?」
「今は自分の立場が、とことん嫌になっているだろうけど……。頼むから突然ミレーユ嬢と駆け落ちするのだけはやめてよね」


 思い詰めた様子のエドモンドに、リダルは茶化すように忠告する。

「馬鹿なことは言わんでくださいよ。そんなことはしない」
「でもさ、本当は駆け落ちしようと思えば出来たんじゃないの」
「……」

 否定はしなかった。だが、例え駆け落ちしたとて。自分の持つあってないような王族としての立場と、今まで築き上げてきたものに対しての、ミレーユの公爵家令嬢としての立場と、所有する財産の価値は決して同等ではない。

 ミレーユの今手にしているものは自分の手にしているものよりよほど国にとって価値あるものだ。

(俺のために、それら全てを捨ててくれとはどうしても言えなかった……)

 結局のところ、ミレーユの自分に対する愛情がどれほどのものなのか計ることが出来なかったし、知ることが恐ろしかった。


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