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第三章 運命の勇者

第二十五話 職人の町ノヴァプト

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「ここが職人の町『ノヴァプト』か!」

 大戦終結から、早くも四カ月が経過しようとしていた。
 我がバモナウツ王国の復興は順調に進んでいたが、王国の占領地となった元聖国家アストリスの復興や、食い扶持が無く難民となって王国付近に留まる者の対応やらで王宮は大忙しのようだ。近頃ではサンドル帝国からの亡命者もチラホラ見受けられているらしい。

「何読んでるのさ」
「リシスからの手紙が届いたんだ」
「え、旅に出てから一週間で……?」

 今、僕が訪れているのは、アラエジプタ国、ノヴァプト。通称、職人の町と呼ばれ、あらゆる道の『職人』が賑わす活気のある町だ。
 お気づきかもしれないが、一人旅ではない。僕の大親友であり、元勇者のアズボンド・ナンバーも一緒だ。
 
 この旅の目的は勇者を探すこと。それは、魔王軍の勢力が拡大しつつある現状で、王国とその民たちを守るため、バモナウツ王から課せられた依頼だった。

「早速探そうか、新たな勇者を!」

 と、言っても、何も情報が無い。とりあえず近くの酒屋に入り、勇者について聞いてみることにした。

「こんにちは」
「いらっしゃい」

 え、開店前?
 いやでも、店前にはしっかり『オープン』と書いてあった。
 そのくらい客が居ないのだ。というか、店内には店主ひとりしかいない。

「兄ちゃんたち、観光かい?」
「ええ、まあ。人を探してまして……」
「なら、当てが外れたな」

 店主は怪訝そうにこちらを見る。
 そんなこと言ったら、こっちだって一週間もかけてここまで来て、意気込んで入った店に客が居ないなんてあり得ない展開だよ!

 まあ、せっかく店に入ったのだし何か腹ごしらえをしよう。ということで、僕たちは店主のいるカウンターから一番遠い席に腰を下ろした。理由は気まずいから。決して嫌がらせとかではない。

「私はコレにしようかな」
「じゃ、僕はコレで」
「……あいよ」

 店主は見るからに不機嫌だが、今さらそんなことはどうだっていい。早く食べて早く別の店に行こう。

 料理は意外にも早く到着した。アズボンドは勢いよくガツガツと食べる方なのだが、今回は口に合わないのか眉間にしわを寄せている。僕が注文したのは当たりだ。かなり美味い。

「ねえ、店主さん?」
「あ?」

「なんでこんなにお客さんが少ないんだい?」

 わぁお……。
 アズボンドのド直球質問に思わず咽てしまった。いくら不味くてもその発言はデリカシーに欠けているぞアズボンドよ!

「ここは職人の町だぜ? 観光客や商人以外は魂を売った変人しょくにんしかいないからな」
「そうだよね! こんなに美味い料理を出す店に、客が来ないわけがない」

 あ、そういうことか。てっきり煽っているのかと思ったが、普通に褒めていただけのようだ。それを聞いた店主も「そ、そうか……」となんだか嬉しそうだ。これは勇者のことについて情報が得られる大きなチャンスだ。知っている可能性は極めて低いが、職人の町なだけあって、聞ける人は限られてくる。

「店主さんは勇者って、知ってるかい?」
「ああ、最近噂になっている奴のことか」
「噂?」

 店主は包丁をギコギコと研ぎながら、その噂について話した。
 
「今から約三カ月くらい前のことだ」

 ある商人が大雨の影響で崩れて通れなくなった道を迂回するため、森に入ったところ魔物の群に襲われた。その時、どこからともなく現れた少年に助けられたらしい。
 そんなことが一度や二度どころではなく、多くの商人がその森付近で助けられており、見返りを一切求めなかったことから、いつしかその少年は商人たちの間で『勇者』と呼ばれ始めたそう。

「なんだかなぁ」

 店から出てすぐにアズボンドが唸った。

「森にだけ現れる勇者って何なの?」
「僕に言われても困るよ」

 そもそも勇者とは、魔王に対抗できる唯一の存在なのだ。森に住む勇者なんて聞いたことがない。でももし、運命に逆らう勇者がいたとしたら――。

「行ってみようか」
「森に……?」

 なんだよ、その嫌そうな顔は。
 無駄足だったとしても、その勇者と呼ばれる少年がどんな人物なのか、そもそも人族なのか。気になるところではある。
 店主が言うには、その森はこのノヴァプトからそう遠くない場所にあり、『恐れ火の森』と呼ばれ、自然火災が頻繁に起こる危険な森だという。

「まさか、今から行くわけじゃないよね!?」
「さすがに僕も疲れているからね。この町にもう少し滞在するよ」

 胸を撫で下ろしたアズボンドと共に、今日からの宿を探すことにした。 
 ノヴァプトの町を歩きながら、その町並みに目が移ろう。シンプルだが個性を感じる建物ばかり。それは雑貨屋、飲食店、診療所に至るまで丁寧な職人技が光る。そして、ある店の看板に目が留まった。そこには『世界一の錬金術』と書かれていた。
 
 僕の中で世界一の錬金術師といえば、リシス・シザテスただひとり。これは僕の常識を覆す文言だ。この店の錬金術師とは腹を割って話さなければならない。

「え、入るのぉ?」

 もの凄く嫌がるアズボンドの腕を引っ張り、勇んで店内に入る。

「よく来たね、少年」

 派手に派手を重ねたような青年。彼を見た最初の感想は――。

「「なにコイツ」」

「え」

 おっと、思ったことが口から出てしまった。アズボンドは大して気にしていないようだけど。
 
 




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