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第十一章 慌ただしき日々。そして、続かぬ平穏。

第186話 『王室御用達』の看板と闇の因縁。①

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    翌日、朝食後にマップとサーチを使って宝石類とプラチナの探査をしたあと、『エチゴヤ』に寄って用意を頼んでいたクッキーを貰って、王都の屋敷に〈テレポート〉をした プラチナはなかったがサファイアとルビーの鉱脈と真珠の存在を確認した。真珠があるようなので、養殖も出来るか考えてみることにする。

    〈テレポート〉の前に『エチゴヤ』の様子を確認したが、カフェは勿論売店の方もお客様の行列が既にあり、繁盛している様子に安心したよ。

    王都の屋敷の執務室に〈テレポート〉で到着すると、執務机の上にある呼び鈴を鳴らす。
暫くすると、カインがノックして部屋に入ってきた。

「お帰りなさいませ、旦那様。」
「ああ、ただいま。こちらは何か変わりはあるかい?」
「相変わらず、騎士希望の問い合わせがありますが、先日のご指示の通り、募集は今は一旦停止していると、お伝えしてお断りしておりますが、これで宜しいですか?」
「そうだね。騎士希望の対応はそのままで良いよ。他は?」
「あと、最近では『エチゴヤ』についての問い合わせが増えてきました。クッキーはいつ販売するのかとか、貴族家から定期販売して欲しいとか、ありましたが、こちらもご指示通り、まだ王都には『エチゴヤ』の支店がないので無理だとお答えしております。」
「うん、まだそれでいいよ。あと貴族家への定期販売はまだ未定だと言っておいて。」
「承知しました。それで今日のご予定は?」
「ああ、この後王宮に伺うから馬車の用意を頼むよ。その後にはリヒト公爵邸にも伺うから宜しくね。」
「承知しました。では手配して参りますので、今暫くお待ち下さい。」

一礼して、部屋を出ていくカイン。

    執務机の椅子に腰掛け背もたれにもたれかかる。ふと、前に報告で聞いた噂を思い出した。

    (そう言えば騎士専門の辻斬りが出回っているってあったな。
放っておくと危険だな。思い出したのも何かの縁。調べてみるか。)

「〈マップ表示・オン〉。」

王都のマップが映し出される。縮尺を合わして、町全体が映し出されるようにする。

「〈サーチ・騎士専門の辻斬り〉。」

赤い光点が一つ点滅している。場所はスラム街の家の一件に反応している。

(忘れない様にマーカーを付けておこう。)

正体を探るために、〈鑑定〉を使う。

「〈鑑定・赤い光点〉。」

(鑑定結果・赤い光点・氏名クルーガー。もと近衛騎士よ。サザーランド侯爵家の次男だったけど、貴方に絡んだことの責任をとり、騎士団から除名。実家のサザーランド侯爵家からも勘当放逐となっているわ。現在無職でスラムに潜んでいるわね。あら、この人魔族に憑依されているわね。闇落ちしている状態よ。魔族により以前よりも遥かに強くなっているので要注意ね。攻撃魔法はレベル三までの物は無効よ。闇と暗黒属性には強い耐性があるわ。弱点は聖属性よ。光属性も効果は有るけど聖属性程ではないわね。倒したあとに、その周囲を〈サンクチュアリ〉で浄化しないと、瘴気でその土地が汚染されるから忘れずにやってね。ふぅ、いつもより沢山喋ったわ。)

    (・・・・おい、『沢山喋ったわ。』とはなんじゃい!やはり、誰かが話しているんだな?と、とにかく、こんな場面でまた懐かしい名前を聞くとはな。アイツが辻斬りの犯人だったとはねぇ。しかも魔族に憑依されて闇落ちしていると。とことん根性が曲がっている奴だな。王宮に行った時に、ついでに報告しておくか。)

    そう考えていると、カインが部屋に入ってきて馬車の用意が整ったと言う。
礼を言って、早速王宮に出かける。



    陛下への謁見を申し込むと、いつもの応接室に案内される。お茶が出されたのでチビチビと飲みながら待っていると、部屋に陛下と王妃、宰相の三人が入ってきた。立ち上がって礼をして迎えると向き合う形でソファーに座った。

「オオガミよ、今日は何用かな?」
「はい、先ずはこちらをお納め下さい。」

インベントリィから用意したクッキーが入った紙袋を差し出す。

「あら、この匂いは?」
「はい、家の商会のクッキーです、王妃様。開店準備に手間取っていて、お待たせして申し訳ありません。商会の責任者とも相談いたしまして、クッキーの販売だけ先行して行うことにしました。近日中には、販売店が開店しますので、以降は店に申し付けて頂くと定期での納品が行えると思います。」
「無理を言いました。感謝いたしますわ。」
「オオガミ、済まんな。きさきが無理を言って。」
「いえ、元々あと半年もしたら王都には支店を出す予定でしたから、計画が繰り上がっただけです。そこで、陛下に一つお願いがございまして。」
「願いとな。どういった事かな?」
「厚かましい事は十分承知ですが、是非に『王室御用達』の看板を掲げる事をお許し頂きたい。」
「『王室御用達』とな?それはどういった事なんだ?」
「はい、『王室御用達』とは、家の商会の商品は王室に納品されている物である事を証明する看板です。出来ましたら、『王室御用達』の文字と王家の紋章の表示をお許し頂きたいのですが?」
「成る程。オオガミ、上手いことを考えるな。・・・良かろう。許可する。だが一つ条件がある。宰相。」
「は、オオガミ殿にやって貰いたい事がある。実は今、王都では辻斬りが横行しておってな。犯人は何故か騎士団に所属している者ばかり狙って殺している。襲われた者は皆、それなりに強いと言われている者ばかりであってな。すでに四人の犠牲が出ておる。そのせいで、王都の経済活動にも支障が出始めている。なのに、目撃者も証拠も無くてな。犯人を突き止めることが出来ていない。オオガミ殿には、その犯人の特定と捕縛を頼みたい。」
「犯人は、捕まえないといけませんか?殺してしまっては不味いですか?」
「どういう事かな、オオガミ殿?」
「実は、現在の王都の様子については、ツールにいる私にも聞こえてきました。私の商会の者も王都に居りますので、心配になって既に調べてみました。」
「おお!既に犯人を特定していたか!それで、犯人は何者だ?」
「陛下と宰相閣下は覚えておられますかな?私がまだ王都にいた頃、城中で私に絡んできた、近衛騎士の事を?」
「おお、いたなその様な者も。まさか?」

陛下が真剣な顔付きになり、聞き返してくる。

「はい、犯人はその元近衛騎士のクルーガー・フォン・サザーランドです。まあ、彼はサザーランド侯爵家からは勘当、放逐されたそうですから、ただのクルーガーですがね。ただし、彼は既に人間ではなくなっているのです。」
「人間ではないと?どういう事情だ、オオガミ?」
「陛下、今の彼は、魔族に憑依されています。なので、現在本人の意識もどれだけ残っているのか、分かりません。捕まえたは良いが魔族は、存在するだけで周囲に瘴気を撒き散らして、人の心を荒まします。そして悪行を行うのに躊躇わなくなり、それが広まれば瘴気が更に濃くなり新たな魔族が発生します。
「なんと、そのようなことに。真かオオガミよ?」
「私も教えてもらっただけなので、子細は詳しくありませんが、それでもよい状況ではないと、認識しています。魔族を倒さない限り、また他の人に憑依されては、根本的な解決にはならないと思います。」
「なんと、そのようなモノに取り憑かれているとはな。如何したものか宰相よ?」
「相手が既に魔族に憑かれているならば、犯行理由や背景を尋問しても意味は有りませんな。多分殺りたいから殺ったと言うでしょうな。フム、致し方ないですな。捕縛ではなく、倒して周囲を浄化するしかないでしょう。オオガミ殿、頼めるかな?」
「ええ、構いません。魔族は私の天敵だと言われてますからね。その者を倒したあと、周囲を浄化して瘴気を消しましょう。」
「うむ、成功のあかつきには、先程の看板の件許可する。また、他にも褒美を考えよう。頼むぞオオガミよ。」
「はっ!では、見届け人を付けて下さい。」
「そうですな。陛下念のため、襲われても大丈夫な者が宜しいかと。ターセル子爵は如何でしょうか。」
「ふむ、バランか。確かに元近衛騎士だったのなら、適任かな。よし、バランを同行させよう。で、いつ行動するのかな?」
「この後、リヒト公爵家に用件が有りますので、昼過ぎからなら、いつでも行けます。」
「わかった。午後の二時に王宮で合流して出発といたそう。良いな?」
「分かりました。では午後の二時前にまた改めて登城します。あと、念の為サザーランド侯爵家にはこのこと、包み隠さず知らせてください。魔族に取り憑かれたとはいえ、元は家族でしたから。下手にこちらに恨みが回ってきても困りますからね。」
「あいわかった。伝えよう。オオガミよ、間違いないとは思うが、くれぐれも手抜かりなくな。」

そう言って、三人は部屋を退室していく。

    (さてさて、こんな所で昔の因縁が付いて回るとはな。世界は狭いって事だな。それとも、やっぱりお約束なのかな?神様、いよいよ魔族との戦いです。ご加護ありますように。)

(オオガミ君や。頑張れよ!世界のために、幸あらんことを!・・・おや、これ以上は運が上がらなかったか?!スマンのう。自力でがんばってくれい。)

(はて?!何か、とても損したような気が?何だろう。)


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