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第一章 辺境の町

第208話 女将さんとの別れ 後編

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 だからこそ、お互いの身の安全のためにも言えないことがある。

 女将さんの事は信じているし、本当は隣のジニア村に一か月行くだけで、この町に帰ってくる予定だということを伝えてしまいたいんだけど。

 でも、それを口にしてはいけないのは分かっていた。

 もしかしたら、彼女を私達の事情に巻き込んで危険に晒してしまうことがあるかもしれないからね。

 言いたくないけど、私には美形揃いで長寿のエルフ族という、悪徳商人の心を鷲掴みにする魅力があるし、私達二人共、権力者に狙われやすい『幸運』スキルを持っている。

 知らない情報は渡しようがないから、言わない方が安全なんだ……。



「明日の朝は忙しくてちゃんとご挨拶出来ないかもしれないって思ってたから、こうして最後にお話出来て嬉しかったです」

「うんうん。それはあたしもだよ、ローザちゃん。二人のことは、この町で冒険者として真面目に一生懸命、頑張っている姿をずっとみてきたからさ。何だか、娘みたいに思ってたからねぇ」

「……女将さん」

「子供の旅立ちを家から送り出すときの親の気持ちって、こんな感じなのかね?」

 少し照れくさそうにしながらも、しみじみとそう言われた。嬉しい、そんな風に思ってくれてたんだ。

「私達もです。私もローザも、いつも優しく見守ってくれている女将さんのこと、本当の家族みたいに思ってました!」

「リノちゃん……」

「だから、お別れするのは悲しいです。でも、またいつかここに、ただいまって帰ってくることができたらいいねって二人で話していたんです」

「ああ、そうだねぇ。そりゃあいいっ。いつかまた、元気で再会できることを祈っておこうかね」

「はい、女将さん!」

 約束を胸に、三人とも笑顔で頷き合う。


「それじゃあ二人共、元気で」

「女将さんも……」

「あぁ、がんばんなよ!」

「「はいっ」」

 最後まで笑顔でお別れの挨拶出来て……良かった……。





 宿の部屋へ戻り、二人してベッドの上に寝っ転がる。

「ご挨拶できて、よかったね」

「はい。これで心置きなく明日、旅立てます……よね」

「……うん」

 約二ヶ月、おおらかで元気な女将さんのいる夢見亭で過ごしたんだと思うと感慨深い。

 なんだかこの宿が、異世界での自分の家のような気分になっていた。

 借り物の部屋での生活だったけど、この町で初めて出来た同世代の女友達とルームシェアをして、仕事も一緒にやって……そんな毎日が当たり前になってた。

 ここにいると、冒険から無事に帰って来れたんだと実感できて安心してた。

 そんな生活も、もう終わる。

「じゃあ、そろそろランプ消すよ?」

「はい、お願いします」

「おやすみ、リノ」

「おやすみなさい、ローザ」



 この町で過ごす最後の一日は慌ただしくて、感傷に浸る間もなかったけれど……でも、これでよかったかもしれない。

 そう思いながら、ふうっとひとつ大きな息を吐くと、明日に備えて体を休めるために目を閉じたのだった。



―― 第一章 完 ――




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