雪解け
まだ空気に湿っ気が乗っていないような朝、私は電車に乗り込んだ。ここが日本だと嫌でも解らされるように席は等間隔に空いていてそのシンメトリーさをいつも壊したくなくてというのは建前で、本当はある種の強迫観念のような座ってはいけない何かを感じドアの横に立つ。窓に目をやると走馬灯のように何軒かの明かりが飛び掛かる。その明かりの色はきっと今の季節のために用意したわけではないのだろうけど、心が落ち着く。私の家には数年間彼がいる。でも人の家の明かりにヤキモチを感じるくらいだから今までみたいな温もりはないのだろう。今朝も私のかけていた毛布を奪って明後日の方向見ているように寝息を立てていた。毎日見ようと約束して買ったプラネタリウムも今では新月を投影するだけになってしまった。そんな冷め切った関係に嫌気がさしていた。好きかと言われたら楽しいデートは想像がつかないしかといって喧嘩ばかりで嫌いなんてこともない。好きと嫌いは言わば2次元空間では考えることはできないのかもしれないと思った。どちらでもないから一つの行動でどちらかに傾いてしまう気がしてならないのだ。きっと旅行して共同制作できることをして美味しいものをお互い向き合って食べていいところを確認し合えば好きに傾くかもしれないし反対に別れを切り出して住処が変わればあっという間に関係は友達未満になり下げることだってできるだろう。いわばこのくらいの恋も丁度いいシンメトリーさに駆られている。だから私の中は堅苦しくて単調なものになってしまっているのだと思う。でも私は別にモてるような女性ではないしきっとこの恋が終わってしまったら長い間孤独にさいなまれることは分かっている。だからこのシーソーの支点から動けないのだ。しかし転機は突然訪れた。彼は私に婚姻を申し出てきた。朝疲れていたのは私の指に似合う宝石を探し求めていたことも知った。動けない私のシーソーの幸せ側に彼が座っていたのだ。少し前まで私は目が乱視になったかのように人生の平均台を歪ませていたのに、彼の行動一つで矯正されたのだった。そしてベランダに置いていた植物に色がつく朝、私は電車に乗った。相変わらず日本人は日本人であったし私も日本人だが空いていた席を迷うことなく座り眠りにつく。
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