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1:レンジュ大国管理部所属、天野ユキ

01-エピローグ:管理部というところ

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 太陽が高く、日照りが強まった昼頃。
 外に出るには暑すぎる時間帯なので、ユキはのんびりと自室で読書に勤しんでいた。その首元には、下界昇格説明会でもらったネックレスが輝いている。
 いつもの真っ白なスカートに身を包みソファの上に寝転び、その上にはお腹を冷やさないようにタオルケットが。忘れがちだがユキも一応女性なので、冷えは天敵なのだ。そろそろ夏になろうとしている季節ではあるが、それでも年中冷えは消えない。対策なのか、他にもテーブルの上には温かい紅茶とティーポットが置かれていた。

「……暇」

 今日、本当ならば皇帝と遊んで……いや、仕事を手伝う予定だった。しかし、彼は隣国との緊急会談があるとかで急に出かけてしまった。故に、ユキは暇なのだ。
 付き人である今宮が残り積まれた仕事をしているらしいが、まあそれを邪魔するのはいただけない。ここは、大人しく読書をするに限る。

「……飽きた」

 目の前に積まれている小説は、もう2周目。初回にがっつり読み込んでしまったので、結末は知っている。そうなれば、さほど面白みはない。
 少し間をおけば多少内容が曖昧になるも、この小説の最新シリーズがあと1週間で発売される。この時期に少し、おさらいをする必要があるのだ。

「ユキさん、居ますか?」
「居ますよ。今、開けます」

 そんな暇な時間を過ごしている時だった。
 部屋の外からコンコンと扉を叩く音と共に、今宮の声が聞こえてくる。仕事だろうか。
 本にしおりを挟みテーブルの上に置くと、そのまま小走りでドアに向かった。扉を開くと、そこには徹夜続きで目の下に濃いめのクマを作った今宮の姿が。前回は、5徹で力尽きたらしく皇帝に笑われていたっけ。今回は、何徹目なのだろうか。

「お仕事です、ユキさん」
「……わかりました。どこからの依頼ですか」

 管理部には、下界や上界などが受けられるオープンな任務はない。どちらかというと、そのオープンな任務を作るために依頼を集め管理する側だ。
 では何をするのかというと、管理部の仕事は影のようなクローズな任務が多い。そして、影に課せられる任務と相違する点と言えば、法律に引っかかってしまう捜査が多いということ。それを管理するのも、目の前にいる彼の仕事だ。

「魔警1課です。今回は、……えっと。その」
「ハニトラですか」
「……え、ええ。そっちに近いです」
「わかりました」
「……ごめんなさい。今回は前回みたいに1週間も拘束されることはないと思います」
「大丈夫です。仕事ですから」

 前回は、ペドフィリアに1週間も拘束され口には出せないような行為をされてしまった。流石にその時は、1ヶ月の休みをもらって身体を回復させたものだ。任務帰りに会った今宮の申し訳なさそうな表情は、今も鮮明に覚えている。

「ここに詳細が」
「ありがとうございます」

 詳細の用紙を渡されたユキは、立ちながら任務内容に目を通す。
 そこには、ロリコンで有名な政治家の名前が記されていた。罪名は、児童ポルノ禁止法の接触か。読む限り、尻尾を掴めないが被害者は多くなるばかりという状況らしい。
 行き過ぎた異常な小児愛による被害者は、幼すぎる故に被害に合っても口を開かない。それは、本人がよくわかっていないケースと親が報復を恐れて逃げてしまうケースの2つ。今回もそれに該当するのだろう。
 これ以上のさばらせておくと、隣国との政治にも影響があるという。こうなれば、管理部の出番だ。
 ユキは、幼い。身体の発達が早く、成熟しているとはいえ顔は幼女そのもの。故に、このような人権を無視するような仕事も舞い降りてくる。しかし、ここに身を置きそれ相応の生活をさせてもらっている彼女はそれに逆らえない。

「……ごめんなさい」
「毎回そうやって謝ってたら、今宮さんが持ちませんよ」
「……」

 今宮は、ユキにその政治家と「寝ろ」と言っているのだ。こうやって犯罪を露見させて逮捕するのが目的とはいえ、それは犯罪者がしていることと変わらない。だから、影には頼めない仕事と言えるのだが。

「準備します。事前に色々調べたいので、時間ください」
「わかりました。初期費用は皇帝から預かっています」
「……今回、1課の担当は誰ですか」
「えっと……その」

 聞きながら資料に目を通していると、その担当者が書かれていた。聞かなくてもよかったようだ。
 そこには、「九条ナズナ」「灰アカネ」と書かれていた。ユキはその名前を見て、今宮がいつも以上に渋っている様子を理解する。

「……準備するので、出てってもらって良いですか」
「は、はい……!失礼します!」

 ユキの声で、少しは眠気が覚めたようだ。ものすごい声量を発しながら扉を閉められた。
 そこまで緊張しなくても良いのに。ユキがそう思うも、純情な今宮のことだ。こんな任務を……しかも、あまり仲の良くない魔警職員担当の任務を渡したくない気持ちも理解している。でも、どうしようもない。

「……準備しますか」

 ユキは一呼吸置くと、準備をするためにクローゼットを開く。資料を読む限り、今回の相手はシンプルなレトロワンピースが良いだろう。目の前にある、赤を基調としたワンピースに手を伸ばす。
 先ほどまで読んでいた小説の主人公のように、バカンスに行きたい。そう、思いながら。


 ***


「う、うぁ……ん」
「可愛いね。反応も良い」

 魔法で変装しショートヘアになっているユキは、問題の政治家とホテルのベッドにいた。
 周囲は、カーテンが引かれていることもあり薄暗い。相手は魔法が使えないらしく、照明は全て設備に備え付けられているものを使うしかなさそうだ。とはいえ、その暗闇の中でもユキの裸体は相手の瞳にはっきりと映されていることだろう。床に置き去りにされたワンピースは、彼の手によって八つ裂きにされている。
 こうやって、知らない人……しかも、好きでもない人と身体を重ねないといけないのはユキだって辛い。しかし、仕事だ。その区別はつけているつもりではある。

「……て。して」
「いい子だね。初めてではないのかな」
「……さあ。そういうの、わからない。良いから、しよ」
「ふふ。いいね、今日は私のものだよ」

 ずっしりとした重みが小さな身体にのしかかり、息が詰まるのか苦しそうな表情になる。さらに、口を手で塞がれ逃げ道がない。
 早く、早く。重い、痛い。ユキは、その時を待った。

「あ゛、あ゛ん……!ん!」
「あー、やはり良いね。小さい子は」
「んー、ん゛ー!……ん゛ぁ」
「私はね、こうやって今まで君くらいの女の子をたくさん相手してきたんだ。気持ちよくしてあげられるよ」
「……」

 今回はチョロい相手だったらしい。
 その言葉を発されたと思えば、次の瞬間ベッドの周りにはどこからきたのだろうか、魔警職員らが銃をこちらに構えている。それを見た政治家は、身体を硬直させてその様子を見ている。

「……騙されたのか!」
「良いから、早く服着たらどうですか。そのまま連行しても良いですが」
「今まで女の子相手にいい思いしてきたねぇ~。これからは、俺らの相手してね」
「……クソ」

 目の前には、見知った顔が。いつも不機嫌そうな顔をしながら、ユキを軽蔑する人物……灰アカネがいた。いつも、その辺で会えば喧嘩ばかりしている相手だ。酷いと、殴り合いまでに発展する。毎回青年の姿で会うためか、手加減はされない。
 今回も、汚いものを見るかのような目でユキの裸体を見てくる。仕事とはいえ、この瞬間が相手と行為をするよりも辛い。ユキは、キュッと胸が締め付けられるのを感じていた。

「お前、トラップか」
「さあ。この人たち、おじさんのお友達?」
「……」

 銃を突きつけられた政治家は、そのままユキの上から退くと大人しく服を着始める。こう見ると、この人が民衆の前に立って偉ぶったことを言っているのが嘘のように感じてしまう。大人は、汚い。

「なんだね!私は警視総監に知り合いが」
「そうですか。僕も、警視総監とは知り合いですが何か」
「……」

 下着をつけたところで、魔警職員が手錠をかけた。服を全部着るまでは待たないらしい。
 ユキは、そんな様子を足元にまとまっていた布団を手繰り寄せ身体を隠しながら見ていた。これで、今回は帰れる。安堵の気持ちが広がり、それが表情に出た。

「これ。今から鑑識来るから暖かくしといて」
「……ありがとうございます」
「早く、いつもの姿に戻ってよ。その格好でいられると迷惑」
「……」

 と、少女姿が本当の姿だと知らないアカネが、文句を言いながら新しい毛布を魔法で出してくれた。ユキがそれをゆっくりと腕を伸ばして受け取ると、彼は返事を待たずに政治家を従えて他の魔警職員と一緒に部屋を出て行ってしまう。
 彼は、ユキがどんな完璧な変装をしても気づいてくれる。嫌われているからだろうか。ユキにはわからない。

「……ユキさん」

 それと同時に、部屋の中に今宮が入ってくる。その手には、紙袋が。新しい服を持ってきたらしい。
 前回同様、クマがひどい。あれからも寝ていないのだろう。

「身体は」
「大丈夫です。最後までしてない」
「……そうですか」

 というものの、子供にさせて良い行為ではない。今宮の表情は硬いままだった。2人は、捜査員と鑑識の中時間が止まったかのようにその場に静かに座っていた。これから、鑑識から身体の写真を撮られ政治家の証拠になりそうなものを提出しないといけない。身体を調べられるだろう。
 そこまでが、ユキの仕事だ。

「すみません……」
「仕事、ですから」
「……」

 管理部は、こうやって汚れ仕事を背負い国を正していく。それが正しいことなのかどうなのか、伝統になりつつあるこの仕事はなくなりそうにない。
 来週からはまた、真田まことを守る管理部専用任務が待っている。
 ユキは、鑑識の手によって開かれたカーテンから夜の景色を見ながら、時間が過ぎるのを待った。

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