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trial 試練

凍てつく夜

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  指紋を取ったり、侵入手口を特定したり……現場検証が済むと、警察は早々に帰っていく。

  被害も少なく、事件の重要性が少ないと判断すると、この程度らしい。

   そして、証拠を残す等のドジを踏まなかった犯人は捕まることはないのだと。
  ……アパートの管理人のおじさんが言っていた。


 「鍵屋さんは明日朝に呼ぶようにしておくから安心して。とりあえず内鍵だけど臨時で南京錠付けておくから」

 「……はい」

  玄関に内鍵は付いたものの、こんな南京錠で安心なんて無理……。

  すっかり寒々しくなった部屋のエアコンをつけて、とりあえず部屋を片付けた。

  テレビを点けたりして気を紛らせたものの、やはりーー怖い。

  実家に行こうかな。

  そう思っていたら、スマホに着信が……。


 【雪降ってるよ】


   雪が積もり始めた外の写メを、橋元先生が送ってきた。



  どうりで、今日は寒かったわけだ。
  葉築さんが震えるくらい。

  こんな夜に空き巣に入られた私は、凄く心細くなっていた。

  【先生……、電話してもいい?】

  今日、別れた奥さんに謝罪するつもりで会ったのに。イケないとわかっても、声を聞きたかった。

 【珍しいな、どうした?】

 【空き巣に入られて、眠れそうにない】

  返すと、すぐに先生から電話がかかってきた。

 「大丈夫か?」

  いくら部屋を暖めても。
 布団の中にくるまっても。

  凍えていた私の心は、先生の声で温もりを取り戻す。

  「……大丈夫です、でも、眠れるまで話しててもいいですか?」


  許されるなら、また、その腕に包まれたい。


 「…わかった、お前が眠くなるような、興味のないイギリスサッカーの話をしてやる」

 「あはは、すぐ寝そう」


  禁断の想いは、凍てつく夜に再燃しやすいのかもしれない。






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