[R18] 異世界は突然に……

あみにあ

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第五章

新章3:異世界は突然に

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ガタガタガタと馬車がどこかへ進んでいく中、子供たちは疲れたのだろう……スヤスヤと寝息を立て始めていた。
私の腕の中には泣き疲れて眠る、あどけない少年の深い呼吸を感じる。
ずれ落ちたローブから愛らしい獣耳がのぞくと、自然と頬が緩んでいった。
あぁ……触ってみたいわね……。
でも起こしてしまったら可哀そうだわ……。
私は触りたい衝動をグッと我慢すると、大きく息を吸い込みながらに顔を上げた。

そうして馬車の揺れる音が響く中、私は子供たちを無事に保護しながらに、ここから抜け出す方法を模索し始める。
先ず寝静まった子供たちに防御を魔法をかけると、何か起こった時の為に備えておいた。
う~ん、さてどうしようかしら。
今ここで魔法を使ってこの馬車を停めることは簡単だけれど、ここから逃げ出すことが出来るのかと言えば、それは何とも言えない。
外に何人いるのかわからないし、子供たちはこの通り眠ってしまった。
眠る子供たちを風魔法で運ぶことは出来るだろうけれど……。
子供たちの寝顔を横目に私は深いため息をつくと、頭を抱えた。

あぁ……移転魔法を使う事が出来れば楽なんだけれどね。
使用した事はないが、エヴァンから教わったイメージを駆使すれば出来ないことはないはず。
だが私は今ここがどこなのか……それすらもわからない。
即ち移転魔法を使う事は不可能ね……。

でもこのまま黙って売られるわけにはいかないわ。
最悪売られる現場で魔法を駆使する。
あっ、でもそのためには魔力玉を作っておいた方がいいわよね。
私は瞳を閉じ空気中にある魔力を手の平へ集めていく。
しかしこの場所は私が居たあの城とは違い、魔力が少ないのだろうか……中々魔力が集まらない。
暫くそのまま手を広げていると、ビー玉ほどの魔力の玉が出来上がった。

城ではもっと大きな魔力玉を作る事が出来たのに……。
体感的に、同じ大きさの魔力玉を作ろうとすると、何時間もかかりそうね……。
出来上がった小さな魔力玉を懐へ忍ばせると、何か柔らかい物が指先へ触れた。
そのまま取り出してみると、それは時空の狭間で渡したはずの、魔力玉だった。

あれ……どうして魔力玉が……?
彼女からの餞別かしら……まぁでも有り難いわ。
魔力枯渇の心配がなくなると、私は気を取直し逃げる方法を探していった。

魔力は心配ないわ。
ただ複数人相手から逃げ延びるには、どうするればいいのかしら……。
攻撃力の高い炎は……子供たちが近くにいる以上危なくて使えないわ。
いくら防御魔法で守っていても、防御魔法以上の魔力をくらってしまえば、壊れてしまう。
かといって子供たちの防御に魔力を使えば、人数相手に魔法を駆使できるのかは怪しい。
それに炎で攻撃し、彼らが死んでしまっては、帰り道を知らない私は遭難してしまうわ。

子供たちに危害を加えない程度の攻撃……。
それなら風かしら……?
風で男どもを吹き飛ばす?
いえこれも危険ね。
それ以前に、致命傷を与えられないのならば、起き上がってきた彼らに子供達が捕らえられてしまう可能性もある。

もっと別の何か……。
……以前宿屋で使ったように、捕縛魔法で彼らを捕える……?
う~ん、悪くはないような気がするけれど、彼らがどんな武器をもっているのかわからない。
動きを押さえる前に、鋭利な物で蔦を切断される可能性もあるわ。
もしかしたら魔法を使えるものがいて、蔦が炎で焼かれる可能性も無きにしも非ず……。
蔦が破られ接近されれば、戦うノウハウがない私はすぐに捕らえられてしまうだろう。
近接では私の様な女が、がたいの良い男相手に敵うはずがない。
だから近づけず、相手を制圧する必要があるわ。
いくら自分自身に防御魔法をはったとしても、蔦だと少し不安ね……。
魔力量はエヴァンとの訓練でわかるようになったが、物理攻撃と防御魔法の魔力の関係性はまだ理解できていない。

やっぱりいくなら、一気に方を付けた方が良いわよね。
相手の抵抗できないほどに圧倒的に……。
何かあるかしら。
う~ん、毒ガスとか……。
いやいや、毒ガスなんて物そもそも作り方がわらないわ。
それに子供たちが万が一吸ってしまったら危ない。

水は……役に立ちそうにないわよね。
いや水圧……う~ん微妙ね。
あっ、そうだわ!
以前エヴァンが私を救い出してくれた、イーサンを仕留めたあの魔法なら!!
相手を凍らせる魔法。
あれなら動きも封じることが出来るし、体だけ凍らせることが出来れば、話も聞くことが出来るし、一石二鳥ね。
それに彼らの体内にある水分を使う事が出来れば、誤って子供たちを凍らせる心配もない!
人間は6割ほどの水分で出来ているんだから、問題ないわ。

後は子供たちをどうするかよね。
万が一の為に、一人ひとりに防御を魔法をかけていれば、実際に凍らさせる際、集中出来ないわ。
なら一か所に子供たちを集めて、その中に待機させておこうかしら。
そこにかける防御魔法はより強力に、そうすればもしどこからか敵が迫って来ても守ってあげられることが出来るわ。

後はいつ行動に移すのかね……。
ようやく見出した希望の光に、私は改めて気合を入れなおす。
すると馬車の揺れがとまり、ギギギッと鈍い音と共に扉が開かれた。
薄暗い月の明かりが微かに差し込む中、私は扉へと顔を向けると、ニタニタと卑しく笑う男が私をじっと見つめていた。
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