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序章.始まりの前奏曲
8.親子の時間
しおりを挟む気を取り直してお茶の準備をしようと思った俺はティーセットを探すとカップが無くなっていた。
「あれ‥ないぞ」
何時も使っている愛用のカップにスプーンが足りない。
それだけじゃない、お母様の愛用している紅茶の茶葉が無くなっていることに気づく。
アイツ等!
お母様のカップを盗んだだけじゃなく茶葉までちょろまかしやがって!
なんて図々しい奴らだ。
代わりに置かれているのは安く銘柄の茶葉だった。
「エリオル?」
「何でもありません。お母様、今日はハーブティーでもどうでしょう」
「いいわね、お願いするわ」
よく見ると茶葉は古くなっているし変な匂いもするので処分…いや勿体ないから掃除に使おう。
貧乏性が出るのが悲しきことだが、致し方ない。
「お菓子はクッキーを焼いたんです」
「エリオル…また給仕をさせられたの?」
失言をしてしまった!
「いいえ、違います。お母様と一緒にお茶をするお菓子を作りたかったんです」
「まぁ、そうなの」
よし、なんとか誤魔化せたぞ!
普段から使用人のように扱き使われていることはお母様の耳に入ってしまっているのを何とかしたいが、人の口に戸は立てられぬとは良く言ったものだからな。
「どうぞお母様」
「ありがとう…いい香りね」
お茶が好きなお母様はハーブティーも良く好んでいる。
俺の薬草師としての職業は役に立って良かった。
最近は体調も良くなり、熱を出すことは少なくなっていた。
薬草は体にいいし、安眠効果もあるからこれからはハーブティーを淹れよう。
「最近、紅茶よりも貴方が入れてくれるハーブティーの方がおいしい所為で舌が肥えてしまったのよ」
「大袈裟ですよお母様」
「まぁ、これでも舌には自身がるのだから。そうだわ、お兄様にも贈ってさしあげようかしら」
お母様の親戚には会ったことがない。
改めて聞くのは初めてなんだけど、どんな人なんだろう。
「一度お兄様にも紹介したいわ」
「俺もお母様のお兄様に会ってみたいです」
けれどお祖母様が許すだろうか。
俺の存在を疎ましく思うばかりに舞踏会は勿論お茶会にだって参加するのを嫌がっている。
実際、俺は公のパーティーは殆ど連れて行ってもらえないし、大事なお客様が来たら部屋にいるように命じられている。
きっと俺がお母様のお兄様に会うのは難しいかもしれない。
社交界にすら顔を出すことができない出来損ないと思われているのだから。
「エリオル、私は…」
「お母様お代わりはどうですか」
「えっ‥ええ、いただくわ」
今の現状を変えるのは難しい。
だからこそ、息を潜めてしかるべき時が来るまで準備をしよう。
「お母様、袖のボタンが取れかかっていますよ」
「あら…本当だわ」
お茶のお代わりを入れているとふとお母様の服を見ると袖のボタンが取れているのに気づく。
「お母様、最近はお洋服を買われないのですか」
「ええ‥お義母様が色々入用なのだと言われて」
毎日のように日替わりでドレスを買いまくっている癖に何言ってんだ!
奥様は煌びやかな宝石を日替わりでつけては新しいモノを買っているのに対してお母様はここ最近洋服はにたようなものばかり。
ドレスだって新調していないのに。
「妻としての価値はドレスや宝石ではないと常々言われているのよ」
「だからって…こんな」
どの口を言うのか。
毎日散財しておきながらお母様にドレス一着として与えないなんてなんてことだ。
「でも、嫁入りに持って来たドレスや服があるから…大丈夫よ」
「はい…」
でも服は消耗品で何年も使えば擦り切れてしまう。
色落ちだけってするし、型崩れしたドレスなんて着て行けばお母様は恥をかくだろう。
「お母様、針をお貸しください」
「え?何をするの?」
「とりあえずボタンを着けますので」
とりあえず今は袖のボタンを着けるのが先決だ。
悲しいことに、雑用を押し付けられ続けた俺は針仕事も得意になった。
特にボタンを着けるのは完璧になってしまった。
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