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第三章
16.行儀見習い
しおりを挟む地上を支配する赤竜は他の竜と違い巨大で、足が速い。
その為かなりの体格で、周りの竜族は圧巻していたのだが、レンは特に体格が大きかった。
そして強面だったのだが――。
「お掃除楽しいな。ルンルン」
その巨大で気性が荒いと言われる竜は掃除婦の装いをして窓を磨くことに精を出していた。
「さぁ、次は床をピカピカにしないと」
鼻歌を歌いながら床に雑巾かけをしてご機嫌だった。
「レン様」
「ああ、ディーンさん。お仕事お疲れ様です。タオルをどうぞ」
「はい、ありがとうございます…じゃなくてですね?」
「そうだ、休憩時間に陛下にミルフィーユの作り方を教わったんです。すごく可愛くできたんですよ」
フリフリレースのバスケットには可愛いお菓子が入っていた。
薔薇の花弁を使ったクッキーに色鮮やかなマカロンに貝の形をしたマドレーヌ。
もしこれら年若い少女が作ったと言うならば微笑ましいが、相手はいかつい顔をした竜では笑えない。
(ああ…陛下。悪化させてどうするんですか)
同盟の条件としてレンを一年前の竜にして欲しいと頼まれたのに、悪化しているのだから頭が痛い。
「レン様」
「ディーンさん、僕は新参者で、新米宮女ですよ」
「レンさん、貴方は宮女ではなく小姓です」
「はい」
本当に解っているのだろうか。
行儀見習いとして迎えたはずなのに率先して女官の手伝いをしたり、掃除婦の真似事をしている。
しかも他の宮女達よりも仕事が丁寧で、王宮内はピカピカで、洗濯物は完璧な仕上がりで竜騎士達は大喜びだった。
しかも気遣いも悪くないと来た。
他の侍従が行う書類の整理に、読み書きもでき、字もとても綺麗だった。
ただ、文官としては優れているのに、気が弱く、訓練は泣きながら逃げ出す始末だ。
空を飛ぶこともできず、地を這う姿は蜥蜴のようだと言われており、ディーンは困り果てていた。
一人前の赤竜にしてくれと言われるも、ここまで竜としてのスキルがないとは知らなかった。
「人の姿にはなれそうですか?」
「はい」
返事をして人の姿になると赤毛の少年の姿になるが何故か眼鏡をかけて布を被っていた。
「あっ…あの、何故布を」
「なんか、恥ずかしい」
恥じらう姿に眩暈がした。
内向的なレンをどうにかしたいが、行儀見習いに来て改善されることがないのだ。
しかも装いは割烹着を身に着けている。
胸元には雛のアップリケが縫われており、遠い目をする。
「この割烹着、陛下の手作りなんですよ!可愛いのが欲しいと言ったら胸に雛を縫い付けてくれたんです!」
(陛下ぁぁぁぁ!)
本気で教育する気があるのか。
率先してレンをおかしな方向に教育しているのではと思うディーンは今日も頭を抱えていた。
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