『小さなアパートの家賃が1000万円を超えた日』
『小さなアパートの家賃が1000万円を超えた日』
六畳の和室と、
六畳の台所。
十三年分の冬が、そこに積もる。
湯沸かし器は沈黙し、
冷たい水だけが
生活の痛みを語った。
ベランダはなく、
布団は陽を知らず。
褥瘡の匂いを抱えた夜、
わたしは祈るように
窓の外の空気を吸い込んだ。
京都に住む大家は、
年に数度だけ戻ってきて
庭の門に鍵をかける。
「不用心だから」と
軽く言うその言葉に、
わたしの生活は閉ざされていった。
洗濯物が風にさらわれても
取りにゆけない。
布団も干せない。
冬の陽射しさえ
遠い国の出来事だった。
六万五千円の家賃。
二年ごとに十万三千円の更新料。
積み上げた金額は、
いつのまにか
一千万を超えていた。
けれど、
その一千万に
「安心」という文字は
一度も含まれていなかった。
眠れぬ夜、
息子の褥瘡の匂いと向き合いながら、
わたしは思った。
――払ってきたのは家賃じゃない。
ここで生きるための、
わたしの歳月だったのだと。
十三年の冬を越えた今、
静かに気づく。
この小さなアパートで、
わたしは
折れずに立ち続けた。
誰も知らなくていい。
誰にも届かなくていい。
ただ一つだけ、
胸を張って言える。
「私はここで、生き抜いた」 と。
六畳の和室と、
六畳の台所。
十三年分の冬が、そこに積もる。
湯沸かし器は沈黙し、
冷たい水だけが
生活の痛みを語った。
ベランダはなく、
布団は陽を知らず。
褥瘡の匂いを抱えた夜、
わたしは祈るように
窓の外の空気を吸い込んだ。
京都に住む大家は、
年に数度だけ戻ってきて
庭の門に鍵をかける。
「不用心だから」と
軽く言うその言葉に、
わたしの生活は閉ざされていった。
洗濯物が風にさらわれても
取りにゆけない。
布団も干せない。
冬の陽射しさえ
遠い国の出来事だった。
六万五千円の家賃。
二年ごとに十万三千円の更新料。
積み上げた金額は、
いつのまにか
一千万を超えていた。
けれど、
その一千万に
「安心」という文字は
一度も含まれていなかった。
眠れぬ夜、
息子の褥瘡の匂いと向き合いながら、
わたしは思った。
――払ってきたのは家賃じゃない。
ここで生きるための、
わたしの歳月だったのだと。
十三年の冬を越えた今、
静かに気づく。
この小さなアパートで、
わたしは
折れずに立ち続けた。
誰も知らなくていい。
誰にも届かなくていい。
ただ一つだけ、
胸を張って言える。
「私はここで、生き抜いた」 と。
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