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10-11 戻りつつある日常
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京極に連れられてやってきたのは国際通りにあるソーキそば屋だった。
「一度朱莉さんとソーキそばをご一緒したかったんですよ。」
京極が運ばれて来たソーキそばを見て、嬉しそうに言った。
このソーキそばにはソーキ肉が3枚も入っており、ボリュームも満点だ。
「はい。とても美味しそうですね。
朱莉もソーキそばを見ながら言った。そしてふと航の顔が思い出された。
(きっと航君も大喜びで食べそうだな・・・・。私にはちょっとお肉の量が多いけど、航君だったらお肉分けてあげられたのに。)
朱莉はチラリと目の前に座る京極を見た。とても京極には航の様にお肉を分ける等と言う真似は出来そうにない。
すると、京極は朱莉の視線に気づいたのか声を掛けて来た。
「朱莉さん、どうしましたか?」
「い、いえ。何でもありません。」
朱莉は慌てて、箸を付けようとした時に京極が言った。
「朱莉さん、もしかするとお肉の量が多いですか・・?」
「え・・?何故その事を・・・。」
朱莉は顔を上げた。
「朱莉さんの様子を見て、何となくそう思ったんです。確かに女性には少し量が多いかも知れませんね。実は僕はお肉が大好きなんです。良ければ僕に分けて頂けますか?」
そしてニッコリと微笑んだ。
「は、はい・・。あ、お箸・・まだ手をつけていないので、使わせて頂きますね。」
朱莉は肉を摘まんで京極の丼に入れた。
その途端、何故か自分がかなり恥ずかしい事をしてしまったのではないかと思い、顔が真っ赤になってしまった。
「朱莉さん?どうしましたか?」
朱莉の顔が真っ赤になったのを見て、京極が声を掛けて来た。
「い、いえ・・・。何だか大の大人が子供の様な真似をしてしまったようで恥ずかしくなってしまったんです・・・。」
すると京極が言った。
「ハハハ・・やっぱり朱莉さんは可愛らしい方ですね。僕は貴女のそう言う所が好きですよ。」
朱莉はその言葉を聞いて目を丸くした。
(え・・・?い、今・・・私の事を好きって言ったの・・・・?で、でもきっと違う意味で言ってるのよね?)
だから、朱莉は敢えてそれには何も触れず、黙ってソーキそばを口に運んだ。
肉のうまみがスープに馴染み、麺に味が絡んでとても美味しかった。
「このソーキそば・・・とても美味しいですね。」
「ええ、そうなんです。この店は国際通りでもかなり有名な店なんですよ。それで朱莉さん。この後どうしましょうか?もしよろしければ何処かへ行きませんか?」
「え・・・?」
京極の突然の誘いに朱莉は何と答えれば良いか分からなかった。出来れば今はまだ謎に包まれた京極の側にいるのは心が落ち着かないのが自分の正直な気持ちではあるが、それを口に出すには、はばかれてしまった。
朱莉が答えられないでいる姿を見て、京極は悲し気な表情をすると言った。
「どうも・・・僕はすっかり朱莉さんに警戒されてしまったようですね・・・?どうしたら・・朱莉さんの信用を取り戻す事が出来ますか?」
「そ、それは・・・。」
丁度その時、京極のスマホが着信を知らせた。
「すみません。電話出させて下さい。」
京極は電話に出ると、相槌を打ちながら5分程話をしていたが、やがてため息をつきながら受話器を切った。
「すみません。朱莉さん・・・自分からお誘いしたのに、仕事で打ち合わせの用事が入ってしまいました。なので・・・残念ですが、こちらでお別れです。」
京極は立ち上がると、さっとスマホ決済をしてしまった。
店を出た朱莉は申し訳なさそうに言う。
「また、ご馳走になってしまって・・・すみませでした。」
「そんな、謝らないで下さい。むしろお礼を言わせて下さい。朱莉さんと一緒にこの店で食事する事が出来て、嬉しかったです。有難うございます。」」
「ベ、別にお礼を言われる事では・・・。」
朱莉が言い淀むと、京極は言った。
「それでは朱莉さん。気を付けてお帰り下さい。」
「あの、京極さんはどうされるのですか?」
京極はどのような交通手段で那覇空港までやってきたのだろうかと朱莉は気になった。
「僕の事なら大丈夫です。ここの国際通りで待ち合わせをする事になっているんです。だから朱莉さんは気にされなくていいんですよ?それでは失礼します。」
「は、はい。それでは失礼します。」
朱莉も慌てて頭を下げると、京極はフッと笑みを浮かべて朱莉に背を向けると立ち去って行った。
そんな京極の後姿を見送りながら、朱莉はポツリと呟いた。
「不思議な人・・・・。」
「ただいま・・・・。」
玄関を開け、朱莉は誰もいないマンションに帰って来た。日は大分傾き、部屋の中が茜色に代わっている。
朱莉はだれも使う人がいなくなった、航が使用していた部屋をガラリと開けた。
綺麗に片付けられた部屋・・・・・。恐らく航が帰り際に綺麗に掃除をしていったのだろう。
航がいなくなり、朱莉の胸の中にはポカリと大きな穴が空いてしまったように感じられた。
しんと静まり返る部屋の中では時折、ネイビーがゲージの中で遊んでいる気配が聞こえて来る。
目を閉じると「朱莉」と航の声が聞こえてくるような気がする。
朱莉の側にいた琢磨は突然音信不通になってしまい、航も・・沖縄を去って行ってしまった。朱莉が好きな翔はあの冷たいメール以来、連絡が途絶えてしまっている。
肝心の京極は・・・朱莉の側にいるけれども心が読めず、一番近くにいるはずなのに何故か一番遠くの存在に感じてしまう。
「航君・・・。もう少し・・・側にいて欲しかったな・・・。」
朱莉はいつの間にか目に涙を浮かべながら、いつまでも部屋に居続けた—。
季節はいつの間にか7月へと変わっていた。
夏休みに入る前でありながら、沖縄には多くの観光客が訪れ、人々でどこも溢れかえっていた。
京極の方も7月に入り、沖縄のオフィスが開設されたので、今は日々忙しく飛び回っている様だった。定期的にメッセージは送られてきたりはするが、あの日以来朱莉は京極とは会ってはいなかった。
航が去って行った当初の朱莉はまるで半分抜け殻のような状態になってはいたが、徐々に航のいない生活が慣れて、ようやく今迄通りの日常に戻りつつあった。
そして今、朱莉は国際通りの雑貨店へ買い物に来ていた。
「どんな絵葉書がいいかな~・・・。」
今日は母に手紙を書く為に、ポスカードを買いに来ていたのだ。
「あ、これなんかいいかも。」
朱莉が手に取った絵葉書は沖縄の離島を写したポストカードだった。
美しいエメラルドグリーンの海のポストカードはどれも素晴らしく、特に気に入った島は『久米島』にある無人島『はての浜』であった。白い砂浜が細長く続いている航空写真はまるでこの世の物とは思えないほど素晴らしく思えた。
「素敵な場所・・・」
朱莉はそこに行ってみたくなった。
その夜―
朱莉はネイビーを膝に抱き、ネットで『久米島』について調べていた。
「へえ~飛行機で沖縄本島から30分位で行けちゃうんだ・・・。意外と近い島だったんだ・・・。行ってみたいけど・・・でも1人じゃ・・・。」
そこで再び朱莉の頭の中には航の顔が浮かび上がった。きっと航なら喜んで誘いに乗ってくれただろう。
(航君が・・・本当の弟だったら良かったのにな・・・。)
恐らく航が聞けば、がっくりと肩を落とすような事を頭の中で思いつつ、朱莉は航の為に買っておいたおいたオリオンビールを一口飲んだ。
未だ手付かずのオリオンビールが1ケース残っている。朱莉は1週間に2
~3回は飲むようにした。
最初の内はあまり美味しいとは思えなかったビールも今は少しだけ美味しく感じられるようになっていた。
航が東京へ帰ってからは一度も電話のやり取りもメッセージの交換もしていない。
朱莉は航に気を使って自分から連絡を入れなかったのだが、航から連絡が届く事は無かった。それが朱莉には寂しかった。
「航君・・・もう私の事は忘れてしまったのかな。」
朱莉はポツリと呟いた。
だが、朱莉は知らない。
航が京極に当分朱莉とは連絡を取るなと言われていることに―。
「一度朱莉さんとソーキそばをご一緒したかったんですよ。」
京極が運ばれて来たソーキそばを見て、嬉しそうに言った。
このソーキそばにはソーキ肉が3枚も入っており、ボリュームも満点だ。
「はい。とても美味しそうですね。
朱莉もソーキそばを見ながら言った。そしてふと航の顔が思い出された。
(きっと航君も大喜びで食べそうだな・・・・。私にはちょっとお肉の量が多いけど、航君だったらお肉分けてあげられたのに。)
朱莉はチラリと目の前に座る京極を見た。とても京極には航の様にお肉を分ける等と言う真似は出来そうにない。
すると、京極は朱莉の視線に気づいたのか声を掛けて来た。
「朱莉さん、どうしましたか?」
「い、いえ。何でもありません。」
朱莉は慌てて、箸を付けようとした時に京極が言った。
「朱莉さん、もしかするとお肉の量が多いですか・・?」
「え・・?何故その事を・・・。」
朱莉は顔を上げた。
「朱莉さんの様子を見て、何となくそう思ったんです。確かに女性には少し量が多いかも知れませんね。実は僕はお肉が大好きなんです。良ければ僕に分けて頂けますか?」
そしてニッコリと微笑んだ。
「は、はい・・。あ、お箸・・まだ手をつけていないので、使わせて頂きますね。」
朱莉は肉を摘まんで京極の丼に入れた。
その途端、何故か自分がかなり恥ずかしい事をしてしまったのではないかと思い、顔が真っ赤になってしまった。
「朱莉さん?どうしましたか?」
朱莉の顔が真っ赤になったのを見て、京極が声を掛けて来た。
「い、いえ・・・。何だか大の大人が子供の様な真似をしてしまったようで恥ずかしくなってしまったんです・・・。」
すると京極が言った。
「ハハハ・・やっぱり朱莉さんは可愛らしい方ですね。僕は貴女のそう言う所が好きですよ。」
朱莉はその言葉を聞いて目を丸くした。
(え・・・?い、今・・・私の事を好きって言ったの・・・・?で、でもきっと違う意味で言ってるのよね?)
だから、朱莉は敢えてそれには何も触れず、黙ってソーキそばを口に運んだ。
肉のうまみがスープに馴染み、麺に味が絡んでとても美味しかった。
「このソーキそば・・・とても美味しいですね。」
「ええ、そうなんです。この店は国際通りでもかなり有名な店なんですよ。それで朱莉さん。この後どうしましょうか?もしよろしければ何処かへ行きませんか?」
「え・・・?」
京極の突然の誘いに朱莉は何と答えれば良いか分からなかった。出来れば今はまだ謎に包まれた京極の側にいるのは心が落ち着かないのが自分の正直な気持ちではあるが、それを口に出すには、はばかれてしまった。
朱莉が答えられないでいる姿を見て、京極は悲し気な表情をすると言った。
「どうも・・・僕はすっかり朱莉さんに警戒されてしまったようですね・・・?どうしたら・・朱莉さんの信用を取り戻す事が出来ますか?」
「そ、それは・・・。」
丁度その時、京極のスマホが着信を知らせた。
「すみません。電話出させて下さい。」
京極は電話に出ると、相槌を打ちながら5分程話をしていたが、やがてため息をつきながら受話器を切った。
「すみません。朱莉さん・・・自分からお誘いしたのに、仕事で打ち合わせの用事が入ってしまいました。なので・・・残念ですが、こちらでお別れです。」
京極は立ち上がると、さっとスマホ決済をしてしまった。
店を出た朱莉は申し訳なさそうに言う。
「また、ご馳走になってしまって・・・すみませでした。」
「そんな、謝らないで下さい。むしろお礼を言わせて下さい。朱莉さんと一緒にこの店で食事する事が出来て、嬉しかったです。有難うございます。」」
「ベ、別にお礼を言われる事では・・・。」
朱莉が言い淀むと、京極は言った。
「それでは朱莉さん。気を付けてお帰り下さい。」
「あの、京極さんはどうされるのですか?」
京極はどのような交通手段で那覇空港までやってきたのだろうかと朱莉は気になった。
「僕の事なら大丈夫です。ここの国際通りで待ち合わせをする事になっているんです。だから朱莉さんは気にされなくていいんですよ?それでは失礼します。」
「は、はい。それでは失礼します。」
朱莉も慌てて頭を下げると、京極はフッと笑みを浮かべて朱莉に背を向けると立ち去って行った。
そんな京極の後姿を見送りながら、朱莉はポツリと呟いた。
「不思議な人・・・・。」
「ただいま・・・・。」
玄関を開け、朱莉は誰もいないマンションに帰って来た。日は大分傾き、部屋の中が茜色に代わっている。
朱莉はだれも使う人がいなくなった、航が使用していた部屋をガラリと開けた。
綺麗に片付けられた部屋・・・・・。恐らく航が帰り際に綺麗に掃除をしていったのだろう。
航がいなくなり、朱莉の胸の中にはポカリと大きな穴が空いてしまったように感じられた。
しんと静まり返る部屋の中では時折、ネイビーがゲージの中で遊んでいる気配が聞こえて来る。
目を閉じると「朱莉」と航の声が聞こえてくるような気がする。
朱莉の側にいた琢磨は突然音信不通になってしまい、航も・・沖縄を去って行ってしまった。朱莉が好きな翔はあの冷たいメール以来、連絡が途絶えてしまっている。
肝心の京極は・・・朱莉の側にいるけれども心が読めず、一番近くにいるはずなのに何故か一番遠くの存在に感じてしまう。
「航君・・・。もう少し・・・側にいて欲しかったな・・・。」
朱莉はいつの間にか目に涙を浮かべながら、いつまでも部屋に居続けた—。
季節はいつの間にか7月へと変わっていた。
夏休みに入る前でありながら、沖縄には多くの観光客が訪れ、人々でどこも溢れかえっていた。
京極の方も7月に入り、沖縄のオフィスが開設されたので、今は日々忙しく飛び回っている様だった。定期的にメッセージは送られてきたりはするが、あの日以来朱莉は京極とは会ってはいなかった。
航が去って行った当初の朱莉はまるで半分抜け殻のような状態になってはいたが、徐々に航のいない生活が慣れて、ようやく今迄通りの日常に戻りつつあった。
そして今、朱莉は国際通りの雑貨店へ買い物に来ていた。
「どんな絵葉書がいいかな~・・・。」
今日は母に手紙を書く為に、ポスカードを買いに来ていたのだ。
「あ、これなんかいいかも。」
朱莉が手に取った絵葉書は沖縄の離島を写したポストカードだった。
美しいエメラルドグリーンの海のポストカードはどれも素晴らしく、特に気に入った島は『久米島』にある無人島『はての浜』であった。白い砂浜が細長く続いている航空写真はまるでこの世の物とは思えないほど素晴らしく思えた。
「素敵な場所・・・」
朱莉はそこに行ってみたくなった。
その夜―
朱莉はネイビーを膝に抱き、ネットで『久米島』について調べていた。
「へえ~飛行機で沖縄本島から30分位で行けちゃうんだ・・・。意外と近い島だったんだ・・・。行ってみたいけど・・・でも1人じゃ・・・。」
そこで再び朱莉の頭の中には航の顔が浮かび上がった。きっと航なら喜んで誘いに乗ってくれただろう。
(航君が・・・本当の弟だったら良かったのにな・・・。)
恐らく航が聞けば、がっくりと肩を落とすような事を頭の中で思いつつ、朱莉は航の為に買っておいたおいたオリオンビールを一口飲んだ。
未だ手付かずのオリオンビールが1ケース残っている。朱莉は1週間に2
~3回は飲むようにした。
最初の内はあまり美味しいとは思えなかったビールも今は少しだけ美味しく感じられるようになっていた。
航が東京へ帰ってからは一度も電話のやり取りもメッセージの交換もしていない。
朱莉は航に気を使って自分から連絡を入れなかったのだが、航から連絡が届く事は無かった。それが朱莉には寂しかった。
「航君・・・もう私の事は忘れてしまったのかな。」
朱莉はポツリと呟いた。
だが、朱莉は知らない。
航が京極に当分朱莉とは連絡を取るなと言われていることに―。
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