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18-21 曖昧な記憶
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「……すみません。どうも色々ありがとうございました」
エルウィンはアリアドネの声でふと目が覚めた。目の前には天井が見え、ベッドサイドではオイルランプが揺れている。
「こ、ここは……」
思わず呟いた時、アリアドネがエルウィンに気付いて駆け寄ってきた。
「エルウィン様!良かった……目が覚められたのですね?」
アリアドネの目には涙が浮かんでいる。
「アリアドネか……?一体俺は……?」
身体を起こそうとしたエルウィンは自分が上半身裸で胸には包帯が巻かれていることに気付いた。
「エルウィン様が倒れられてすぐに、お医者様がいらしたのです。呼んでくださったのは……マクシミリアン様でした……」
アリアドネは躊躇いがちに答えると、傍らに置かれた椅子に腰掛けた。
「そ、そうだ。俺は王太子に決闘を申し込んで……ウッ!」
エルウィンはズキリとした背中の痛みに呻いた。
「落ち着いてください。エルウィン様。傷に障りますので」
「これが落ち着いていられるか。決闘の話はどうなった?決着がついたのか?」
マクシミリアンに決闘を申し込んだところまでは覚えている。しかしそこから先の記憶は曖昧だった。それだけエルウィンは気力を振り絞って対峙していのたのだった。
「決闘はしておりません。マクシミリアン様が棄権されたからです。それに、お医者様を呼んで下さった方もマクシミリアン様です」
「え……?それでは、この包帯は……?」
「はい、お医者様が手当をしてくれました。エルウィン様……」
みるみるうちにアリアドネの大きな瞳に涙が浮かぶのを見て、エルウィンはギョッとした。
「ど、どうした?何故泣く?」
するとアリアドネは目に涙をためながらエルウィンに語りかけてきた。
「エルウィン様……あの後、大変だったのですよ?背中の傷口が広がり、出血がひどかったのです。そこでお医者様が麻酔をかけてエルウィン様の傷を縫って下さったのですよ」
「そうだったのか……ところで今は何時だ?」
時間の感覚が全く無くなっていたエルウィンはアリアドネに尋ねた。
「今は真夜中の1時を過ぎたところです」
「そうか……もうそんな時間だったのか……」
その時、エルウィンは自分が酷く空腹であることに気付いた。
思わず腹を抑えると、アリアドネが声を掛けてきた。
「エルウィン様、お腹が空いておりませんか?何か食べられますか?」
「あ、ああ……そうだな」
「何か貰ってきますね。お待ち下さい」
アリアドネが立ち上がった。
するとエルウィンがその手を掴んだ。
「アリアドネ……必ず戻って来るよな?」
「ええ。もちろんです。お腹が空いているのですよね?すぐにお食事を貰って参りますから大人しく待っていてくださいね」
エルウィンはアリアドネがこの部屋から出ていくことを不安に思い、念押ししたのだが、アリアドネは違う意味に捉えていた。
「はぁ?」
まるで子供に言い聞かせるような話し方にエルウィンは眉を寄せた。
「それではお待ち下さい」
アリアドネはいそいそと部屋を出ていき……エルウィンはため息をつくと窓際に背を向け、夜空に光る星を眺めるのだった――。
エルウィンはアリアドネの声でふと目が覚めた。目の前には天井が見え、ベッドサイドではオイルランプが揺れている。
「こ、ここは……」
思わず呟いた時、アリアドネがエルウィンに気付いて駆け寄ってきた。
「エルウィン様!良かった……目が覚められたのですね?」
アリアドネの目には涙が浮かんでいる。
「アリアドネか……?一体俺は……?」
身体を起こそうとしたエルウィンは自分が上半身裸で胸には包帯が巻かれていることに気付いた。
「エルウィン様が倒れられてすぐに、お医者様がいらしたのです。呼んでくださったのは……マクシミリアン様でした……」
アリアドネは躊躇いがちに答えると、傍らに置かれた椅子に腰掛けた。
「そ、そうだ。俺は王太子に決闘を申し込んで……ウッ!」
エルウィンはズキリとした背中の痛みに呻いた。
「落ち着いてください。エルウィン様。傷に障りますので」
「これが落ち着いていられるか。決闘の話はどうなった?決着がついたのか?」
マクシミリアンに決闘を申し込んだところまでは覚えている。しかしそこから先の記憶は曖昧だった。それだけエルウィンは気力を振り絞って対峙していのたのだった。
「決闘はしておりません。マクシミリアン様が棄権されたからです。それに、お医者様を呼んで下さった方もマクシミリアン様です」
「え……?それでは、この包帯は……?」
「はい、お医者様が手当をしてくれました。エルウィン様……」
みるみるうちにアリアドネの大きな瞳に涙が浮かぶのを見て、エルウィンはギョッとした。
「ど、どうした?何故泣く?」
するとアリアドネは目に涙をためながらエルウィンに語りかけてきた。
「エルウィン様……あの後、大変だったのですよ?背中の傷口が広がり、出血がひどかったのです。そこでお医者様が麻酔をかけてエルウィン様の傷を縫って下さったのですよ」
「そうだったのか……ところで今は何時だ?」
時間の感覚が全く無くなっていたエルウィンはアリアドネに尋ねた。
「今は真夜中の1時を過ぎたところです」
「そうか……もうそんな時間だったのか……」
その時、エルウィンは自分が酷く空腹であることに気付いた。
思わず腹を抑えると、アリアドネが声を掛けてきた。
「エルウィン様、お腹が空いておりませんか?何か食べられますか?」
「あ、ああ……そうだな」
「何か貰ってきますね。お待ち下さい」
アリアドネが立ち上がった。
するとエルウィンがその手を掴んだ。
「アリアドネ……必ず戻って来るよな?」
「ええ。もちろんです。お腹が空いているのですよね?すぐにお食事を貰って参りますから大人しく待っていてくださいね」
エルウィンはアリアドネがこの部屋から出ていくことを不安に思い、念押ししたのだが、アリアドネは違う意味に捉えていた。
「はぁ?」
まるで子供に言い聞かせるような話し方にエルウィンは眉を寄せた。
「それではお待ち下さい」
アリアドネはいそいそと部屋を出ていき……エルウィンはため息をつくと窓際に背を向け、夜空に光る星を眺めるのだった――。
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