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人払い

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「ふうん、なるほどね」


キャスティン王太子妃は、カップを戻すと優雅に微笑んだ。


・・・王城でキャスティンさまに遭遇したのは、果たしてラッキーだったと言うべきなのか。


あまり事細かに事情を説明すると、多分いやかなり(義父にとって)まずい事態になるだろうと推測した僕は。


とりあえず義父とアデラインとの仲が少し・・ギクシャクしていると話し、仲立ちをするために義父に会いに来たのだと説明する事にした。


「まあアデライン嬢もお年頃だものね。男親とは少し距離を置きたくなる年頃かもしれないわ」


そう言って首を傾げる王太子妃殿下の纏う雰囲気は、最初に相談に乗ると言い出した時よりも幾分か穏やかになっていた。


僕はきっと義父の延命に成功したのだろう。


「だからと言って、十日近くも家に戻らないなんてねぇ・・・」


昔からあの人は人間関係に不器用な所があったのよ、と妃殿下は続けた。


そして。


「あはは・・・」


そうですねと頷く僕の肩には御年5歳の第二王子殿下が乗っかられてかたぐるましておりまして、更に僕の膝にはこれまた御年3歳の第一王女殿下が鎮座していたりする。


何故か分からないが、やたらとお子さまたちに気に入られてしまった様なのだ。

キャスティンさまが何度たしなめても、「セスがいいの!」と言って離れてくれない。


いや、懐いてくれるのは嬉しいんだけどね。

どうも会話に緊張感が生まれなくて、少々居た堪れないんだよ。


キャスティンさまも同じことを思われたのだろう、溜息を吐きながら二人にこう言い聞かせた。


「あなたたちがセシリアンさまを気に入ったのは分かりました。でもね、あまりしつこくするとセシリアンさまに嫌われてしまいますよ。もう二度と遊んでもらえないのは嫌でしょう? そろそろセシリアンさまから降りてあげなさい」


二度と遊んでもらえない、その言葉にぴくりと反応した王子と王女は、今度は素直にお世話係のところへと戻って行った。


いや、次があるんですか?


そんな疑問を抱いたが、ここは賢く口を噤んだ。


キャスティンさまは、僕に再度二人のお子さまの相手をした礼を述べると、再び義父の話へと会話を戻した。


「要は、ノッガー侯爵と話がしたいのでしょう?」


任せなさい、と言って微笑む王太子妃殿下は、この上なく頼もしく見えたのだった。



一時間後。


エドガルト・ノッガーは王太子に呼ばれて、彼専用の執務室へと向かっていた。


扉をノックし、入室の許可を得て中へ入ると、そこにいたのは王太子ルシオンのみ。

いつもいる筈の側近の姿はなく、護衛も室内には配置されていない。


普段あまり見ることのない室内の光景に、エドガルトが僅かに眉を上げた。


だが、ルシオンはにこやかに立ち上がると、扉で繋がっている隣室へ入るようエドガルトを促す。


「人払いをなさる程、重要な話なのでしょうか?」


不思議がる侯爵に、ルシオンは肩を竦める。


「まあ、重要と言えば重要だ。家庭内の事情は他の者たちに聞かせたくないだろうからね」

「今、なんと・・・」


不思議そうに振り返った侯爵に、ルシオン王太子はこんな言葉を付け加える。


「まったく、十日近くも家に戻らないなど、いくら何でも対応がおかしすぎるだろう。そこまで仕事を忙しくさせた覚えはないぞ?」

「・・・は?」

「騙して呼びつけたのは悪いと思うが、王太子妃からの要望だ。断る訳にはいかなくてね」

「それは・・・」


どういう事ですか、と続けようとして、言い終える前に隣室へとエドガルトは押し込まれた。


少々よろけつつも中に入れば、テーブルの向こうに座っていたのはここ十日ほど避けまくっていた義息子のセシリアンで。


「な・・・」


なぜセスが王太子の執務室に、という言葉が口に上る前に、先ほどのルシオンの台詞が頭をよぎる。


そして、追い討ちをかける様に、扉がバタンと閉じられた。


扉の向こうから王太子ルシオンの声がする。


「話が終わるまでは出られないからね。じっくりしっかり話し合いなさい」




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