【完結】【R18】キス先② 大安吉日。私、あなたのもとへ参りますっ!

鷹槻れん

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10.羽住一斗という男

出発進行〜♪

 羽住はすみ酒造は、日織ひおりの家と同じ小学校区内ということもあって、徒歩三十分圏内に位置していた。

 それで、歩いて行こうかな?と思っていた日織だったけれど、母・織子おりこが、「日織ちゃん、今日は寒いわよ?」と眉根を寄せて。

 それを聞きつけた父・日之進にちのしんが「送って行ってやろう」と車の鍵を手にしたため「ばっ、バスで行くので大丈夫ですっ」と答えて大慌てで家を飛び出してしまった。


 折角修太郎しゅうたろうからの『お送りしましょうか?』という厚意を断って自力で行き着くぞ!と決めたのに、父親に送ってもらったのでは意味がない。


 しかしながら、白い裏起毛のスウェットにジーンズを履き、その上に厚手のチェック柄ハーフコートを羽織って、マフラーまで巻いて外に飛び出した日織が実際に最寄りのバス停まで行ってみると、一時間に一本ずつしか来ない路線では、とてもじゃないけど約束の時間に間に合いそうな便がなくて。

 風は冷たいけれど、しっかり防寒対策はしてきたつもりだし、歩いて行っても問題はないはずだ、とすぐに気持ちを切り替えた。

(お父様やお母様に嘘をついたみたいになってしまったのは心苦しいけれど、このまま行っちゃいましょう)

 そう心に決めた日織ひおりである。

 手荷物は今日のランチ用に作ったお弁当と、財布やハンカチなどが入った小さなバッグのみ。

 足元だって、元々歩くつもりで支度していたから、内側がボアになったハイカットのスウェード素材のショートブーツでとっても歩きやすい。
 結構履きこなしている靴だから、靴擦れなどを起こす心配もないはずだ。

「よし! そうと決まれば善は急げなのですっ。出発進行しんこぉ~♪」

 本当は家を出た時にはすでに「出発」していたのだけど、日織の中では今まさに、このバス停からが仕切り直しになった。

 グッと両手で小さく拳を握ると、誰もいないのを良いことに、自分に気合いを入れるみたいに声にしてゴーサインを出して、颯爽と歩き出した。


 今日は、日向にいれば日差しの暖かな快晴の土曜日。


 少し方向音痴気味なところが自分でも心配だけど、以前修太郎しゅうたろうに地図アプリが目的地までナビゲーションしてくれることを教わったばかりだからきっと大丈夫。

「スマートフォンって、本当すごいのですっ」

 修太郎と色違いの、かじりかけりんごがロゴになった赤色のスマートフォンをギュッと握りしめると、日織は「羽住はすみ酒造」までのルートを画面に出して、曲がり角に差し掛かるたびにそれを確認しては進んだ。


「わぁ~。サザンカ、綺麗なのですっ」

 歩いていると、日頃車に乗せてもらって揺られている時には目に入ってこないものが、いっぱい飛び込んでくる。


「わわわっ、おっきな花なのですっ」

 自分の背丈よりうんと高い――もっと言うと大好きな修太郎よりもうんと高い位置から壁越し、お辞儀をするように日織を見下ろしている薄紫の花が目に付いた。

「えっと、これは確か……そう! 皇帝ダリアなのですっ!」
 と、様々な発見が出来てワクワクしてしまう。
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