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18.大安吉日
やっと、なのですっ!
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「日織、すっごく綺麗よ」
「そっ、そんなっ」
「ああ、母さんが父さんに嫁いで来た日を思い出すよ」
母・織子に褒められて照れまくりの日織に、父・日之進が軽く惚気を入れてきて、場の空気を和ませる。
前撮りでは文金高島田に綿帽子を被る形で写真撮影をした日織だが、今日は地毛を低い位置でふんわりとまとめたシニヨンスタイル。
右耳の横あたりに胡蝶蘭の生花を付けて、華やかさも足してある。
綿帽子の中に綿帽子キーパーを入れれば、文金高島田でなくとも綿帽子の形を崩さずに被れると式場の人から提案された時は感動したのを覚えている日織だ。
お色直しで赤に金糸の織り込まれた花柄の豪華絢爛な色打ちかけを羽織ることになっているけれど、綿帽子を脱いでもこの髪型なら見栄えもよくて見劣りしない。
「お父様、私、お母様のお若い頃に似ていますか?」
恐る恐る問えば、「驚くくらいそっくりだよ。特に前撮りの写真なんか、母さんかと思って思わず二度見したくらいだよ」と日之進が目尻を下げる。
幼い頃、両親の結婚式の写真を見て、自分もいつかお母様のような綺麗なお嫁さんになりたいと夢想したのを思い出した日織だ。
色素の薄い髪の毛も瞳の色も母親譲り。
どこかに外国人の血でも入っているのかな?と言われることがあるけれど、織子の記憶にある限りではみんな日本在住の生粋の日本人らしい。
普通は色素の濃い人と交わればそちらが勝つことが多いのだけれど、日織のようにたまに色素の薄い遺伝子が引き継がれる子がいるみたいで。
大叔母と従兄に一人、日織や織子みたいに髪色も目の色も薄い人間がいる麻田家――織子の方の一族――だ。
「父さんは母さんと日織の、そのふんわりした髪の色と目の色が大好きだよ」
(今日は洋髪スタイルにしたけれど、お父様はどう思っていらっしゃるかしら)
そんな不安が心の片隅にあった日織だったから、日之進にそう言われて嬉しさに頬がほんのり朱らむ。
「日織と修太郎さんに子供ができたら、もしかしたら遺伝するかもしれないわね」
日之進の言葉を受けたように織子がにっこり微笑んで。
籍は随分前に入れているけれど、今日のこのお式のためにずっとずっと自粛していた〝幸せ家族計画〟を実行に移してもいいんだと気付かされた日織だ。
ちょうどそこへノックの音がして、修太郎が顔を出す。
先日日織がプレゼントした新しい眼鏡をかけた紋付羽織袴姿の修太郎は、キリリとしてとてもカッコ良かった。
そんな修太郎をうっとりと見つめた日織が、
「私、修太郎さんとの赤ちゃん、一日も早く見てみたいのですっ。修太郎さんと二人で頑張るのですっ!」
ガッツポーズをして意気込んだら、両親が驚いたように顔を見合わせて、「まぁ! 日織ったら」と織子が唇に手を当ててつぶやいた。
修太郎が「ひ、日織さんっ⁉︎」とどこか照れた顔でオロオロするのを見て、両親の前で子作り宣言をしてしまったのだとやっと気が付いた日織だ。
「ひゃっ、わ、私っ、そう言うつもりじゃなくてっ。あのっ」
真っ赤になってソワソワする日織に、修太郎が花嫁の控え室に入ってくるタイミングを間違えたと内心照れまくりで思ったのはここだけの話。
***
神前式で執り行うことが決まっていたふたりの式は、市内にある天馬氏――修太郎の父――縁の神社で行われた。
その神社は着付け会場とは少し離れていたから、新郎新婦の準備が整った後、式場が手配してくれた車で会場まで移動したのだけれど。
神社の近くを流れる錦川にかかった錦帯橋を見て、日織は修太郎にプロポーズされた日を鮮明に思い出していた。
あの日から怒涛のように入籍を済ませ、修太郎の妻になれたことを喜んだのも束の間。
父・日之進から挙式を済ませるまでは一緒には住まわせないと宣言されてしまい、すごくもどかしい日々を過ごしてきた。
今日の式を終えれば、晴れて日織は修太郎と枕を並べて寝起きし、二人で日常を重ねていくことが出来るようになる。
(やっと、なのですっ!)
週末には大抵修太郎の家にお泊まりしていたとはいえ、日織にとっては不満だらけの毎日だった。
(修太郎さんまでお父様と一緒になって赤ちゃんはダメだっておっしゃるんですもの! 私、すっごくすっごく寂しかったのです)
実際には身重での式にならないよう、それを阻止するために同棲を認めてもらえなかったのだけれど、日織にとってはただただ織姫と彦星みたいに引き離されているようにしか思えなかったのだ。
***
会場である神殿に入る前に参列者全員で『手水の儀』を行って、お清めをする。
初詣などの際に境内の手水場で手や口を清めるあれと同じ感じだ。
そのあと、神主、巫女、雅楽奏者の後をついて修太郎や他の参列者の皆とともに『参進の儀』――いわゆる出席者入場――を行った日織だったけれど。
花婿・花嫁ご一行というのはやはり人目を引くようで、たまたまそこに居合わせた一般の人々の視線も集めて、めちゃくちゃ照れ臭かった。
もう、何というか一事が万事厳かで、日織は日頃着ない和装効果も手伝って、緊張のあまり歩き方がどこかぎこちなくなってしまう。
ソワソワした気持ちの中、ふと横を見ると、修太郎は凛とした立ち居振る舞いで自然体のまま。
日織の視線に気付いて、「大丈夫ですよ、僕がついてます」と、場の空気に気後れ気味の若妻を気遣ってくれるゆとりまである。
その様に、
(私の旦那様はとってもとっても素敵なのですっ!)
とうっとりしてしまった日織だ。
「そっ、そんなっ」
「ああ、母さんが父さんに嫁いで来た日を思い出すよ」
母・織子に褒められて照れまくりの日織に、父・日之進が軽く惚気を入れてきて、場の空気を和ませる。
前撮りでは文金高島田に綿帽子を被る形で写真撮影をした日織だが、今日は地毛を低い位置でふんわりとまとめたシニヨンスタイル。
右耳の横あたりに胡蝶蘭の生花を付けて、華やかさも足してある。
綿帽子の中に綿帽子キーパーを入れれば、文金高島田でなくとも綿帽子の形を崩さずに被れると式場の人から提案された時は感動したのを覚えている日織だ。
お色直しで赤に金糸の織り込まれた花柄の豪華絢爛な色打ちかけを羽織ることになっているけれど、綿帽子を脱いでもこの髪型なら見栄えもよくて見劣りしない。
「お父様、私、お母様のお若い頃に似ていますか?」
恐る恐る問えば、「驚くくらいそっくりだよ。特に前撮りの写真なんか、母さんかと思って思わず二度見したくらいだよ」と日之進が目尻を下げる。
幼い頃、両親の結婚式の写真を見て、自分もいつかお母様のような綺麗なお嫁さんになりたいと夢想したのを思い出した日織だ。
色素の薄い髪の毛も瞳の色も母親譲り。
どこかに外国人の血でも入っているのかな?と言われることがあるけれど、織子の記憶にある限りではみんな日本在住の生粋の日本人らしい。
普通は色素の濃い人と交わればそちらが勝つことが多いのだけれど、日織のようにたまに色素の薄い遺伝子が引き継がれる子がいるみたいで。
大叔母と従兄に一人、日織や織子みたいに髪色も目の色も薄い人間がいる麻田家――織子の方の一族――だ。
「父さんは母さんと日織の、そのふんわりした髪の色と目の色が大好きだよ」
(今日は洋髪スタイルにしたけれど、お父様はどう思っていらっしゃるかしら)
そんな不安が心の片隅にあった日織だったから、日之進にそう言われて嬉しさに頬がほんのり朱らむ。
「日織と修太郎さんに子供ができたら、もしかしたら遺伝するかもしれないわね」
日之進の言葉を受けたように織子がにっこり微笑んで。
籍は随分前に入れているけれど、今日のこのお式のためにずっとずっと自粛していた〝幸せ家族計画〟を実行に移してもいいんだと気付かされた日織だ。
ちょうどそこへノックの音がして、修太郎が顔を出す。
先日日織がプレゼントした新しい眼鏡をかけた紋付羽織袴姿の修太郎は、キリリとしてとてもカッコ良かった。
そんな修太郎をうっとりと見つめた日織が、
「私、修太郎さんとの赤ちゃん、一日も早く見てみたいのですっ。修太郎さんと二人で頑張るのですっ!」
ガッツポーズをして意気込んだら、両親が驚いたように顔を見合わせて、「まぁ! 日織ったら」と織子が唇に手を当ててつぶやいた。
修太郎が「ひ、日織さんっ⁉︎」とどこか照れた顔でオロオロするのを見て、両親の前で子作り宣言をしてしまったのだとやっと気が付いた日織だ。
「ひゃっ、わ、私っ、そう言うつもりじゃなくてっ。あのっ」
真っ赤になってソワソワする日織に、修太郎が花嫁の控え室に入ってくるタイミングを間違えたと内心照れまくりで思ったのはここだけの話。
***
神前式で執り行うことが決まっていたふたりの式は、市内にある天馬氏――修太郎の父――縁の神社で行われた。
その神社は着付け会場とは少し離れていたから、新郎新婦の準備が整った後、式場が手配してくれた車で会場まで移動したのだけれど。
神社の近くを流れる錦川にかかった錦帯橋を見て、日織は修太郎にプロポーズされた日を鮮明に思い出していた。
あの日から怒涛のように入籍を済ませ、修太郎の妻になれたことを喜んだのも束の間。
父・日之進から挙式を済ませるまでは一緒には住まわせないと宣言されてしまい、すごくもどかしい日々を過ごしてきた。
今日の式を終えれば、晴れて日織は修太郎と枕を並べて寝起きし、二人で日常を重ねていくことが出来るようになる。
(やっと、なのですっ!)
週末には大抵修太郎の家にお泊まりしていたとはいえ、日織にとっては不満だらけの毎日だった。
(修太郎さんまでお父様と一緒になって赤ちゃんはダメだっておっしゃるんですもの! 私、すっごくすっごく寂しかったのです)
実際には身重での式にならないよう、それを阻止するために同棲を認めてもらえなかったのだけれど、日織にとってはただただ織姫と彦星みたいに引き離されているようにしか思えなかったのだ。
***
会場である神殿に入る前に参列者全員で『手水の儀』を行って、お清めをする。
初詣などの際に境内の手水場で手や口を清めるあれと同じ感じだ。
そのあと、神主、巫女、雅楽奏者の後をついて修太郎や他の参列者の皆とともに『参進の儀』――いわゆる出席者入場――を行った日織だったけれど。
花婿・花嫁ご一行というのはやはり人目を引くようで、たまたまそこに居合わせた一般の人々の視線も集めて、めちゃくちゃ照れ臭かった。
もう、何というか一事が万事厳かで、日織は日頃着ない和装効果も手伝って、緊張のあまり歩き方がどこかぎこちなくなってしまう。
ソワソワした気持ちの中、ふと横を見ると、修太郎は凛とした立ち居振る舞いで自然体のまま。
日織の視線に気付いて、「大丈夫ですよ、僕がついてます」と、場の空気に気後れ気味の若妻を気遣ってくれるゆとりまである。
その様に、
(私の旦那様はとってもとっても素敵なのですっ!)
とうっとりしてしまった日織だ。
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