浮気されるのも、婚約を破棄されるのも、私が太ったからですって

失意の中の出会い

「お父様、ごめんなさい。私、婚約破棄されてしまったのです。不甲斐ない娘で……ごめんなさい」

なんとか冷静に謝ろうと思ったのですが、涙が溢れて、声が震えてしまいました。

婚約破棄されたということは、我が家の評判を落としたということです。振られたこともショックですが、それ以上に我が家を傷つけたという事実が重くのしかかりました。

お母様を早くに亡くし、男手一つで育ててくださったお父様に申し訳が立ちません。婚約して、ようやく安心させられると思っていたのに……。

お父様は私の肩を抱き寄せ、背中をさすってくださいました。まるで、小さい頃に戻ったみたいです。

「もう彼のことは忘れなさい。礼を欠く行動をしたのは、彼の方だ。シランは何も悪くないよ」

声に怒りをにじませているお父様を見て、驚きました。お父様は彼の言動を知っているの？もしかして、もう噂が広まっているの？

「……お父様はどこまで知っているの？私が婚約破棄をされた理由……」

「覚えていないのかい？三日前、ひどい顔色で帰ってきたと思ったら、ずっとうわ言のようにサイモンのしたことを呟いていたよ。その後、意識を失うように眠ってしまったが、ようやくきちんと目が覚めたようだね」

三日前？私は三日間も眠っていたの？婚約破棄のショックで寝込むだなんて、なんて情けないことでしょう。

「もう大丈夫です。心配かけてごめんなさい。」

「気にするな、今は何も考えずゆっくり休んで。彼のことは任せておきなさい。……娘を侮辱した罪、償わせてやる」

サイモンを殺してしまいそうな雰囲気のお父様があまりに恐ろしく、慌てて止めました。

「お父様、サイモンのことを責めないでください！私が身体の管理を怠ったのが悪いのです……醜くなってしまった私を捨てるのは当然です。イレーネさんの方が良いと言うのも仕方がありません」

だんだんと弱々しくなっていく私の発言に、お父様は目を丸くして驚いていました。

「そんな風に言うんじゃない。……可哀想に、奴に自尊心まで奪われたのか。いいかい、シランは太ってなどいないし、醜くなんてない。奴に言われた言葉は忘れなさい」

「はい……」

お父様の慰めの言葉はとてもありがたいのですが、頭の中でサイモンの言葉が響いていました。


そんな私の様子を見ていたお父様は、なにやら考え込んでいるようでした。




それから一週間、私は食べ物が喉を通りませんでした。無理矢理食べると気分が悪くなってしまい、余計に食べられないという状態になり、お父様をますます心配させてしまいました。

お医者様にも診ていただきましたが、精神的なもので治療法はないと、栄養剤と睡眠薬をいくつか渡されただけでした。

私ってこんなにも弱かったのね。こんなことくらいで病んでしまうなんて……。

唯一飲めるお茶を飲みながら苦笑していると、お父様がお仕事から帰ってきました。珍しく、どなたかを連れているようでした。

「おかえりなさい、お父様。お客様ですか？」

「ただいま。シランの体調管理のために、専属の執事を置こうと思ってな。今日から頼りにすると良い」

「私専属の執事、ですか？この方が？」

私の問いかけに応じるように、端正な顔立ちの男性が丁寧なお辞儀をしました。

「よろしくお願いいたします。ルイとお呼びください、シランお嬢様」

ルイと名乗るその人物は、執事というよりも貴族のような佇まいをしている不思議な方でした。

それにしても専属の執事まで用意されるだなんて、いよいよ重症だと思われているのね。

「お心遣い感謝します、お父様。よろしくお願いしますね、ルイ」