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急いで、下に下りる予想以上におかみさんが怒っていた。バチ切れである。

「アイリ!アンタこの日が一番忙しくて大変だって何度言わせりゃいいんだい!?」
「ヒィェエエ…すみません」
「まったくもういいよ。さっさと食堂を手伝いな」
「はい」

私がいるのは、下町にある下宿屋である。ここで住み込みで働かせてもらっている。

「アイリちゃん。おはよう」
「おはようございます。遅刻してすみません」
「今から挽回してくれれば大丈夫」
「はい。頑張ります!」

食堂は、やはり混んでいた。
宿泊していない一般のお客さんでも食堂は利用できるので、いつもなら常連さんばかりなのだが、今回は旅行者が目立つ上に人数も多い。

「アイリ。これ12番テーブル」
「わかった」

エドは、料理ができるので厨房に入っている。
私はもちろん配膳係。
学生の頃、居酒屋で働いてはいたが、大人になってからも飲食店で働くことになるとは思ってもいなかった。人生、何をやっても損することはないらしい。

「アイリ」
「メアリーさん。おはようございます」

メアリ―はエドの追っかけである。
ピンクレッドの髪は、いつだって美しく巻かれていて、着ているものも高そうだ。装飾品もいたるところにつけているし、なにより化粧をしている上に護衛までいる。正真正銘のお貴族様だった。

「エドは?」
「厨房です」
「代わってきてよ」
「代われるものなら代わってるんですけどねぇ」

さすがに料理の免許もスキルも持っていない私に厨房は無理だ。
せいぜい皿洗いがいいところだろう。
しかし、今は商売繁盛真っ盛り。注文はバカスカ入るし、テーブルにあちこち持って行かなきゃいけないこの状況で代わるなんて不可能だ。

「メアリーお嬢さまのいう通りにしろ」
「いやいや。無理です。ここはそういうところじゃないんですって何度言わせればいいんです?ほかのお客様の迷惑になりますので」
「店主を出してくれる?」
「アイリ!すみません。メアリーお嬢さま…エドを今連れてきますので……」
「おかみさん!今、そんな状況じゃないですか」
「アイリ申し訳ないけど、ちょっと外出ていてくれないかい」
「……はい」

この国の貴族は厄介だ。
階級制度がひどすぎて、平民は貴族の言いなりになっている。
おかげで、忙しい店よりもお貴族様のご機嫌取りのほうが優先される。

「申し訳ないことしちゃったな……」

だけど、これで聖女様のお披露目パレードに行ける。
おかみさんとエドには悪いけど、ありがたく出かけてこよう。
……帰ってきたらクビになってなきゃいいんだけど。
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