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第一部 第一章 突然の訪問者
2 突然の訪問者? ヴィヴィアンSide Ⅱ
しおりを挟む「ちょっとあんた達っ、早く愛しのリーヴァイ様に逢わせて頂戴!! 私のお腹の中には彼との愛の結晶がいるんですからね!!」
――――⁉
一瞬、えぇほんの一瞬だけ私は言葉を失いましたわ。
流石に今の一言は私にとってのクリティカルヒットとなったのは間違いありません。
ですがそれと同時に納得も出来たのです。
「シンディー……」
「お、奥方様………お願いに御座いますから一言お命じ下さいませ」
何をかしら?
「ええっ、あの阿婆擦れを一思いにっ、いいえ塵一つ残さず極秘裏で、闇の中へと処分してみせますわ!!」
「し、シンディー⁉」
「し、しし、シンディー様⁉」
今の一言も結構な衝撃なのですが、私にとって最も重要なのは目の前にいる私の可愛い娘が何気に犯罪へ手を染めようとしている事なのです。
元々シンディーの生家ジプソン子爵家は武門お家柄で、建国当時より有能な騎士達を多く輩出している事で知られています。
きっとその所為なのでしょうか。
心根の優しい娘なのですが、何かにつけて力で抑え込もうとしてしまう事が時折ありますの。
えぇ勿論それは毎日ではありませんわ。
そうです……ね。
二、三日に一度?
でも特に気にしなければ問題はないと、私はそう思いますのよ。
それにしましても此度のシンディーは常よりもかなり殺気立っていますわね。
燃え盛る炎の様な赤い髪も手伝って、その表情は魔界に住んでいると言う魔王すらも射殺してしまいそうなのですもの。
ああ全身を小刻みに震わせ、可哀想にシンディーの背後で控えているジョナスは彼女の放つ怒気に充てられ全身を真っ青にさせれば、また違う意味でガタガタと身体を震わせています。
「ね、シンディー落ち着いて」
「……奥方様、一言Goと仰って下さいまし!!」
それを言えばシンディー、貴女は間違いなくエントランスへ突撃していくのは間違いないですわね。
幾らなんでもそれは出来ません。
それにしてもエントランスではまだ騒ぎが収まる様子は見られませんね。
きっと家政婦長のウィルクス夫人とダレンの二人で当たってはくれている様なのだけれど、このままではどちらにしても何時まで経っても終息はしないでしょう。
「ジョナス、あなたはあの事を伝えに来てくれたのですね」
「は、はい奥方様!! ダレン様がきっと奥方様は直ぐにお気づきになられるだろうからと……」
まあまあその様に辛そうな表情をしないで頂戴。
私はジョナスの頬へ手を添え――――。
「ジョナス、ダレンへ伝えて頂戴。お客様を応接間へお通しするようにと。いいわね、くれぐれも失礼をしてはいけませんよ。どうやらお客様のお胎の中には旦那様との御子がいらっしゃるそうなのですから……。それから今日私は恐らく魔導省へ出掛けられないと思います。ですから手の空いている者に申し訳ないのだけれども旦那様への差し入れを届けてくれるよう伝言をお願いしますね」
「は、はい!!」
そう伝えればジョナスは脱兎の如く……ええ、まさに今彼にとって捕獲者と同列と申しても過言ではないシンディーより逃げ出すかの様にこの場より素早く走り去って行きましたわ。
ふふ、本当に走り去る姿は何とも可愛らしい兎さんそのものですね。
「奥方様っ、何故何処の馬の骨ともわからぬ者をお屋敷へ入れようとなさるのです!!」
「シンディー」
「どうかお願いに御座いますから一言っ、一言Goとお命じになって下さいませ!!」
何時もと違いシンディーは珍しく落ち着いてはくれません。
それどころか益々怒りの形相となっていくのです。
困ったものです。
私はシンディーを含むこの屋敷の者達を本当に愛しているのです。
だからこそ犯罪に手を染めて欲しく等ないのに……。
「駄目よシンディー」
「奥方様!!」
はあ、已むを得ませんね。
「シンディー、お座り!!」
「ふぁい⁉」
「ふふ、いい娘ね。いい娘だからそのまま大人しくしていてね」
「奥方様ぁ~」
見えない大きな耳と尻尾が力を失くし項垂れているようですわね。
でも仕方ないのです。
何時かはこの瞬間がやって来ると私は覚悟をした上でこの屋敷へと嫁いだのですから……。
何故なら私と旦那様は12歳と言う年齢差の夫婦なのです。
えぇ勿論私達は貴族なのですもの。
そのくらいの年齢差等特に問題視はされませんわ。
ただしそれはあくまでも男性が年上の場合なのです。
そう、私達夫婦はその逆なのですよ。
妻である私は今年で40歳となり、旦那様は28歳になられますわね。
最初こそは物珍しさもあったのでしょう。
ですが結婚をして五年も経てば誰に言われなくとも自然とわかるものです。
まあ年増の、子を生さぬ妻よりもうんと若くてお肌もピチピチで美しい令嬢との愛を育む事も容易に想像出来ますよね。
ですのでこれより先の私は毅然と、公爵夫人らしく引き際を見極めれば静かに舞台より降りたいと思います。
この五年もの間このお屋敷での生活はとても楽しかったですけれども、これより先は何の柵にも囚われる事無く自由に過ごさせて頂きますね。
さて、それでは未来の公爵夫人とのお話しへ参る事に致しましょう。
それから私の明るい未来の為に……。
応援ありがとうございます!
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