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第一部  第三章  それぞれの闇と求める希望の光

3  少年は初めて逢ったその瞬間に恋を知る Ⅲ リーヴァイSide

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「リーヴァイ様お願いに御座いますからほんの少しでも宜しいのです。どうかお食事とご休息をとって下さいませ」

「……今はいい」
「ですが何度も申し上げますがリーヴァイ様はまだまだ6歳のお子様なのです。お母上様が身罷られ色々とお気持ちの整理もつかないでしょうがしかし……」
「黙れっ!! ――――いや、お前の所為ではないのだウィルクス夫人。俺にはやる事があるのだっ。お、お亡くなりに……なられた母上の、母上に恥じない完璧な人間に俺はなるのだ!!」

 
 俺等の命を護る為に偉大な聖女であられた母上が、この世を去られて早ひと月と言う時間が経っていた。


 こんなっ、この様な愚かで情けない俺等の為に、俺は父上や多くの者達の支えとなっておられた母上をあの一瞬で奪い去ってしまったという罪悪感に苛まれればだ。

 食事はおろか碌に睡眠も満足に取れなく……いや、皇族として生まれたのにも拘らずだ。


 生まれ落ちた瞬間とその数年は無理だろうがしかし少なくとも二、三年もの間は確実に皇族らしかぬ者として自堕落に過ごしてきたと言う自覚は大いにある。
 

 一般的に言えばそこは子供だからと言う理由で許される範疇なのだろうがしかしだ。

 生憎ながら俺はその範疇には含まれない。


 何故なら俺は一般人でもなければ単なる一貴族の子息でもないその上の最上位に位置する皇族なのだ。


 皇族は敬われるだけの存在ではない。

 彼等の生活と安全を命を賭して護るべき側の人間だからなのだ!!


 そして俺はその護るべき立場の人間――――然もとても優秀な存在であられた母上を殺したと言っても過言ではない!!


 ああそうだ。
 俺は、あの日母上を死へと追い……やってしまった。


 どうして?

 何故俺は死なずに今ここにいるのだ!!

 なんで俺だけがのうのうと生きているのだ!!


 母上っ、何故あの瞬間こんな俺を護ったのです!!

 どうしてっ、なんでっ、何故俺はこうしてのうのうと生きて……いる?


 ああそうだっ、死ぬべきは俺であって母上ではない。

 あんなにっ、優しくも美しい……父上よりも強くて立派な母上が死んでいい訳なんて何処にもないのだ!!


 そう、死ぬのは俺なのだ。


 そうだリーヴァイ、お前が死ねば良かったのだ。

 お前が死ねば母上はまたあの朗らかな笑みを湛えて戻ってきてくれ……る?
 

 そう、なのか?

 本当に母上は戻って――――。



『偉いわ、それでこそ私の愛しいリーヴィ』


 は、母上っ⁉

 母上はやはり戻ってきて下さったのですねっ。

 お願いだからもう何処にもっ、行かないで!!

 ほ、本当にっ、俺っ、お……僕はもう母上にもう、絶対に会えな――――!?


 ふと見上げれば俺の目の前で嫣然と笑みを湛えている母上へ、俺は泣きながら母上へと向かって飛びつこうとした――――がっ⁉


 何故か母上へ触れる瞬間、ふっと母上の身体を通り過ぎてしまった。


『駄目よ、愛しいリーヴィ。今はまだあなたに触れる事が出来ないの』


 そ、それは何故っ、どうしてっ、僕は母上に以前の様に抱き締めて欲しいだけなのに〰〰〰〰っ。


 俺は母上の前で駄々ばかり言う子供の、確かに6歳の子供である事に間違ってはいない。

 そうして足をバタつかせ、地団駄を踏んで、情けないと言われても構わない思える程に母上への愛を乞う幼子となっていたのだ。

 母上はそんな俺を厭う事は無く、何時もより若干温度を感じさせない冷たい笑みを湛えたままゆっくりと俺の方へと近づいてくる。


 だが何時もの様に颯爽と歩く母上の、ヒールを鳴らす音なんてものは何故か全く聞こえない。

 でも元々所作の美しい母上は歩く姿も物凄く優美で、なのに今の母上は本当に床をスーッと滑るかの様に移動されている。


『私の可愛いリーヴィ、ねぇこちらへ……私と一緒に楽しいピクニックへ行きましょう』


 ピクニック?


『そうよ、ほら御覧なさい。あの向こうでは美しい花々そして澄んだ川で皆が楽しそうに遊んでいてよ』


 父上やバートも?


『ええ、皆一緒。あなたの好きな鳥や動物達も待っていてよ。さあお母様と一緒に逝きましょう』


 う、うん、皆がいるなら……それに僕はこうして母上や父上と一緒に遊びたかったのだもの。


『まあ可愛らしい私の天使さん。ほら、そこより大きくジャンプすれば直ぐに皆の許へ逝けてよ』


 本当?


『あらお母様が嘘を吐いた事があって?』


 ううんないよ。

 何時もお母様は素敵で優しくて強くて、僕はお母様が大好きっ。


『ではお母様と逝きましょう。――――あちらの世界へ……』


 母上の最後の言葉の内容まで俺は上手く聞き取れなかった。

 だがそれは些末な事でしかないと俺は思ったのだ。


 その時の俺にとって何よりも大切なのは大好きな母上と共に一緒にいると言う事実。

 それ以上でも以下でもない。


 ただ不思議とついさっきまで俺は自分の私室にいたと思っていたのだが、でも今眼下に広がる風景は確かに母上の仰っていた通り緑生い茂る森、そして野原には色とりどりの花々が咲き乱れその直ぐ傍には見た事のない澄んだ美しい川が流れていた。


 ああバートや父上達がこちらへ手を振って呼んでいる。


『さあ逝きましょうリーヴァイ……』


 何故か母上は地を這う様な低い声?

 あれ、変だ……でもまあいいか。


 母上の仰る通りここからジャンプすれば後は楽しい事が待っているのだから。


 そうして俺は母上の指示されるまま何の躊躇いもなく、その場を勢いよく駆け出せば大きくジャンプしたのだった。
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