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第一部  第三章  それぞれの闇と求める希望の光

5  少年は初めて逢ったその瞬間に恋を知る Ⅴ リーヴァイSide

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 古来闇の属性を持つ者は往々にしてその魔導力はとても高い。

 闇の属性を持つ者は他の属性とは比べようもない程に優秀過ぎる者を多く輩出しているのもまた事実。


 だが闇故に自身の危機的状況で命を対価とし極大魔法を行使出来るのと同時に、死を迎える刹那……その思念の一部が本人の意思とは関係なく闇へと取り込まれればである。

 最期の瞬間まで想っていた相手を共に連れて逝こうと闇の卷属となった思念の一部が時折暴走する事もあるらしい。


 まさに先程の俺は母上の思念……いや闇の卷属に命を奪われようとしていた。


 そして一度でも狙われればそれらより助かる術はないと、昔から伝えられていたし教本にも確かにそう書かれていたのに何故俺は今こうして生きている⁉


「大丈夫ですわ。どうぞご安心して下さいませリーヴァイ様」

「あ、貴女は誰?」
「はい、私はミルワード侯爵が息女、ヴィヴィアン・ローズ・コッカーと申します。どうぞ見知り置き下さいませ」

 緩やかに編み込まれた煌めく銀青色の髪と慈愛の光に満ちた紫水晶の瞳を持つ、俺よりもうんと年上なのに何故かこの瞬間彼女をとても好ましく思ったのだ。

「大公殿下も直にこちらの方へほら、タマの身体へと入られましてよ」

 ころころと朗らかな、まるで春の陽だまりの様に微笑む彼女を、そうこの瞬間のヴィーの笑顔を俺は今も忘れる事はない。


 確かに貴族令嬢らしかぬ――――訳ではない。


 皆が一様にガリガリに痩せ過ぎである方が問題であって、彼女は、ヴィーはそのとてもふっくらと柔らかでタマと同じ……いやっ、いやっ、タマよりもうんと甘くて優しい良い匂いのする俺の、俺だけの可愛らしい女性。


 とは言え母上の事は正直に言って今も悲しいし寂しい。

 そして自分がどれ程愚かな子供だった事も嫌と言う程に理解はしている。


 でも不思議とヴィーの笑顔を、彼女の柔らかな手を握られていると不思議なくらい心がぽかぽかと温かくなり、母上の死をソフトな心で以って少しずつ受け入れ始めている自分自身がいたのだ。

 また何よりもだ、今この瞬間俺は生きていて幸せなのだと心からそう思えたのだ。


 多分それは俺が彼女を、ヴィーを見つけたからだと思う。


 年齢差……ウィルクス夫人が言う様にヴィーの年齢を直接聞くのは流石に躊躇われるけれどもだ。

 たとえ幾つ年齢差があろうと俺とヴィーには関係はない!!


 十や二十、それこそウィルクス夫人くらいに……まあ一見してそれはないとは思うけれどもだ。

 そのくらい年齢が離れていようと彼女がヴィーである限り俺の気持ちは決して揺るがないし変わらない!!


 しかし現実の俺はまだまだ6歳のガキなのだ。

 ヴィーからすれば何とも頼りない子供にしか見えないだろう。

 だが俺はこれよりヴィーに相応しい男になる為に精一杯努力をして見せよう。
 
 時間は無限ではなく有限なのだ。



「……ウィルクス夫人お腹が空いた」

 先ずは食事や睡眠もしっかり摂らなければいけない。

「まあまあ坊ちゃま、はいはい只今ご用意致しましょう。殿下もそろそろ降りてこられますし、皆様とサロンでお茶に致しましょう」

 上を見上げれば父上は何故か一向に降りる気配もなく、なんだか楽しげにタマの中を堪能しているようだった。

 何処までもある意味自由な父親だと俺は思う。
 

 因みにバートは『身体と心が受け付けません』と言って普通に階段より降りてきた。

 そして母上の思念は、聖女と騎士達によって無事天上国へと旅立って逝かれたらしい。


 本来ならば皆悲しみに暮れていた筈なのに、この日を境として以前の様に屋敷は活気を取り戻していく。

 そうして後になって知った事なのだが、これがヴィーの持つ無意識無自覚な祝福をもたらす力らしい。


 もしかして天上国におられる母上が俺を護る為にヴィーをここへ導いた?


 いやそれも違うな。

 確かにヴィーの力は俺達に必要だったのかもしれない。

 でも母上はヴィーをも護りたかったのだ。
 

 しかしその秘密を知るのには俺はまだまだ幼過ぎた。

 その秘密を知る為にこれより十年と言う時間を費やさねばならなかったのだからな。


 ヴィーどうか許して欲しい。


 俺が不甲斐ない所為で貴女をこの先何年も苦しめる結果となってしまった。
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