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第二部  第一章  囚われのヴィヴィアン

25  リーヴァイ、ガイオの危機

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『ほほほ。何とも言えぬこの解放感。そして見るがよいガイオ・ヴィルジーリオ。貴方は我が父と同じく大神でありながらも父を、至上の楽園であったバルディーニの神々への裏切りし者――――っがう!? あ、が、ガイオは裏切ったのではないわ。裏切りし者は……お黙り!! ああ何という事ぞ!! まだわらわの身の内に潜みし穢れが完全に封されてはおらぬとはっ!! っう、あぅ……ぅぅ!!』

 黒闇の女神ローザ・アウレリアーナと変化を遂げた筈のヴィヴィアンは自身の創り出しただろう強大なブラックホールにより、見る間に地上が次々と荒れ狂う轟音と共に暴風が、周囲にある木々や建物をごっそりと巻き上げれば何もわからぬままに逃げ惑う人々までをも少しずつだが吸い込み始めていく様を何とも愉しげに見つめていた。

 そう自然現象では到底あり得ないだろう数え切れない程の雷が降り注ぐ様を――――である。

 また時折微かではあるが闇に染まるも美しいローザの表情は苦悶に歪ませてもいた。

 まるで彼女自身の体内で何かと必死にせめぎ合い闘っている様子が垣間見える。

 ローザの近くまで浮上していたガイオいや、リーヴァイはその様子を見て確信する。

「ヴィーっ、戻ってくるのだ!! 闇に呑まれるなっ!! まだ、そうまだ何も終わってはいない!! 私は絶対にヴィーを諦めはしない!!」

 リーヴァイは愛しい女性のかつての姿のままを信じローザとの距離を縮めていく。

「ヴィー戻れっ、戻ってきて!!」

「……りぃヴィ?」
「ああ直ぐに、今直ぐ貴女の許へ行くよ。だから元の清らかな貴女へ戻ろう」

 苦しげな表情と息遣いのままローザは、ヴィヴィアンだった面影を、恋い慕うリーヴァイへゆっくりと小刻みに震える手を伸ばしリーヴァイへ助けを乞う。

「苦、しいの。あ、頭と心と……身体がバラバラになりそうなの。お願い助けて……!!」

 はらはらと涙を流すその姿はリーヴァイにしてみればヴィヴィアンとであったもの。

 たとえローザとしてのものであろうとそれは変わらずに美しい。

「僕の全ての力を注いで貴女から闇を払おう」

「嬉、しい……わ」

 ローザは愛しい恋人であるリーヴァイの腕の中へ強く抱き締められれば、彼に甘える様に擦り寄っていく。
 
「ヴィー……?」

 それはヴィヴィアンであった時には決してなかった行動。

 それもその筈。
 何と言ってもヴィヴィアン自身幸せや愛情を知らずに生きてきたのである。

 いや違う。
 それは知らずに生きて来たのではない。
 
 何故ならヴィヴィアンの心の奥深くへそれらの感情はリーヴァイにも容易に解けぬよう強くもまた固く今もまだ封印されているのである。

 だからこそ何度生まれ変わろうが、今世においてどれ程リーヴァイより愛されようとも彼女自身がそれを相手へ伝える方法、またそれらを表す術を知らなかったのだ。

 なのに今ヴィヴィアンの表情のままローザは恋うる乙女の様に頬を朱に染め上げればである。

 そうして彼女にとって唯一の男性であるリーヴァイへ、熱い眼差しで以ってその姿を見つめていた。
 
「ヴィー、ローザ……」

 多分リーヴァイ自身にもわかっていたのかもしれない。

 だがその反面心の何処かで遥か昔想い合っていただろう愛しい存在の、懐かしくも熱を帯びた眼差しにさすがの彼も心を動かされずにはいられなかったのだ。


 リーヴァイ自身彼の女神を恋い慕い、永遠にも等しい輪廻の中で再び巡り合えた運命の半身。

 譬えそれが100%罠であろうともだ。

 焦がれる想いを抑える事は実に不可能に等しかったのである。

「「いけませんガイオ!! 罠です!! 逃げてっ!!」」

「ちょ、ヤバいってっ、今ローザ様は奴に操られ――――」

 地上ではダレンとウィルクス夫人達が制止しなければと呼び止める。

 また傍で浮遊していたシンディーが慌ててリーヴァイの腕を捉えようと速度を上げて近づいていく。

「――――わかっている。それでも僕は、私はヴィヴィアンを、ローザを心より愛している……ぐはっ⁉」
『何処までも馬鹿で愚かな……ふふ』

「ロ……ザ?」

 ローザはリーヴァイの腕よりするりと抜け出せば、彼の腹部にはローザによって貫かれただろうギラギラと輝きを放つ稲妻があった。

『妾の心にまだ穢れが残っておるとでも思うたのか。妾は偉大なる父であり夫でもあるサヴィーノ・ボナヴェントゥーラより生まれいでし者。神として生きる妾に穢れ等あってはならぬ。大神であり最高神の命じるままに妾は世界を無に帰すし浄化しそして――――ぐぅ……またも邪魔を致すかこの穢れし心よ!! お前が現れたとてもうアレは助から……嫌っ、嫌っ、りぃヴィ?』

 リーヴァイは意識を失ったままぐらりと態勢を崩せばそのまま地上へ落下するだろうその直前に、急いで駆け付けたシンディー……メルチェーデによってギリギリ難を逃れた。

 けれども未だリーヴァイの腹には火傷しそうな――――ではなく、それは確実に彼の腹を貫いているだけではなく熱くその周囲は酷く焼け爛れている。
 
「チッ、全く非常時に使えないなガイオっ」

 どの様な状態でも悪態をつく事を忘れないのはシンディーであってもメルチェーデであろうともそこは変わらないらしい。

 またローザの蛮行によりヴィヴィアンの意識を浮上させられた彼女は、シンディーに抱えられぐったりと意識がなくまた腹部に痛々しく突き刺さる稲妻を見れば、そうして否が応にでも気づかされてしまう。


 夫を傷つけたのは間違いなく自分自身なのだと……。


「きゃあああああああ!! い、嫌ぁ、そ、そんなっ、嫌っ、リーヴィーっ、ガイオっ、だ、誰か、助けて……あああああ……」
「ヴィヴィアン……ローザ様っ、ダメですっ!! その様に感情を暴走させてはいけません!! ガイオはまだ生憎ながら亡くなられてはいないのですからどうか落ち着いてって邪魔ですよガイオ」

「っ……」

 リーヴァイを担いで空中での移動、然も轟音轟く暴風はローザの感情が暴走し掛けている故にその激しさは刻一刻と増し、それはもう暴風等と言う可愛らしいものでなく爆風から徐々に吸引を始めていた。
 

 また雷それとも稲妻……どちらも然程変わりはないがしかしである。

 豪雨の様に降り注ぐ雷は流石に頂けない。

 当たれば勿論痛いだけでなく感電するのは当然なのだ。

 幾ら踊る様にそれらを上手く躱しているとはいえだ。

 大きなを抱えての移動はやはり辛いのである。

 だからしてメルチェーデは瞬時に決断をした。
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