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第二部 第二章 泡沫の夢と隠された真実
7 溺れゆく心 サヴァーノSide
しおりを挟む何故我はそなたと最初に出逢えなかったのだろうか。
何故我はこの世へ誕生したばかりのそなたに触れようとしなかったのであろうか。
何故っ、どうして――――その言葉ばかりが我を長き時の輪廻において永遠にも等しい狂気の時間の中で我は決して解かれる事のない茨に全身を絡まれたまま支配され続けてきた。
そしてそれは数千年経った今も決して変わらない。
愛しさと切なさに狂おしいまでの愛憎、嫉妬、妬みや嫉みからの苛立に悲しみと永劫の孤独。
我の半身。
我の唯一。
我だけを受け入れればその美しい紫水晶の瞳には我以外の者を映す事等決して許しはしない。
創始の女神より与えられなかった愛情をだ。
今度こそローザ……そなたより無償の、穢れのないそなたの無垢なる心と身体で以って穢れ切った我の心を救う為だけだ。
我はどの神よりも慎重且つ丁寧に心を籠め、特別に我が血肉を分け与ええればだ。
そうして穢れた者達の居ないバルディーニの中で最も清らかなる場所でそなたを誕生させたと言うのにも拘らずだ!!
どうしてっ、何故っ、創造主でありそなたを支配せし者である我よりも先にローザっ、そなたは何故ガイオと出逢ってしまったのだ!!
何故その様にお互いが惹かれ合ってしまうの……だ。
ローザ……そなたは我の為だけに存在せし物の筈。
そなたには我だけしか必要としない筈であろう。
ろおおおおおおおざおおおあああああああああ!!
「我を見よ!!
我を愛せ!!
我を受け入れ、我の心の隅々までをも癒すのだっ!!」
我を、我はその為だけにそなたを創造したと言うのに何故だローザ!!
「――――当然だろうが、この色惚けサヴァーノ」
「な、何と……申した、メルチェーデ?」
「ふん、私の存在を忘れていなかっただけでも上等ではないか。まあ私にしてみればアンタが私の父親だと言う事実の方を忘却の彼方へすっぱりと葬り去りたいのだけれどね」
「ほぉ、数千年もの年月を経て言うようになったでは……いや、そなたの気性は昔と何ら変わりはせぬな。だが幾ら我が生み出せし娘とは言えだ。余りに過ぎた口を父親であり最高神の我へ利くのではない。後に後悔せし事となっても我は助けはせぬ――――」
「はあ? あんたがっ、何時っ、何処で私をいや違う。アンタの勝手で生み出したローザを一度でも顧みた事はあったのか!!」
「何?」
「はあ時が経ち過ぎた余り耄碌したのではないだろうね!!」
「我を年寄り扱いするでない。これでも現世において我はまだ42――――」
「今はアンタの年齢なんて聞いて等いないだろうがっ!!」
真っ赤に燃え盛る……正しくその名の通り嵐と炎の女神らしくメルチェーデは髪を振り乱しながら我へ堂々と意見をする。
昔から何ら変わりはしない。
感情的なメルチェーデを見ていると在りし日のバルディーニの楽園だった頃を思い出す。
だが感傷に浸る程我は暇では――――ない。
「口の利き方に気を付けよと申したであろう。良いかメルチェーデ次はないぞ」
我が娘とは言えこの者は昔から気性が激しく手を焼く程のじゃじゃ馬であった。
数少ない処女神とは聞こえは良いがメルチェーデの場合は他の処女神達とは少し違う。
そう確かに見目の良い美しき女神であったのだが余りのじゃじゃ馬故に、要は貰い手がなかっただけ。
また男女関係なくメルチェーデは極度の人見知りでもあり、その中で唯一彼の者が心を開いた存在がローザそなただけであったな。
「そなたは皆に好かれておったな。だが……!!」
何故そなたは何時も我を見ては泣く?
どうして我を見て微笑まぬ。
ガイオを想い微笑んでいた様に春の陽だまりの様な、心の中が甘く擽ったくなる様な優しい笑みを何故……我には、何故に見せてはくれなんだ⁉
ガイオだけではなく、他の者達の前でもそなたは優しくそして儚げに微笑むのに何故だ?
何故我にはあの優し気な笑みを一度たりとも向けてはくれない?
何時も悲しげに、遠い北の大地を静かに見つめ続けるローザ。
その美しい瞳、そしてそなたの心の中には一体誰が棲んでいた?
ローザ、そなたは我が如何様に問い掛けようともだ。
己が自身の心の一切を、そなたの唯一である我へどうして見せてはくれぬ。
ぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああ!!
何をしても、何をどうしようと我の心は決して満たされる事はない!!
我の大神としての矜持の何もかもが、我の心に巣食う闇により益々以って漆黒よりもなお暗い闇へと染まっていく。
得られぬ心ばかりを欲し続け、母だけではなく母の代わりと思うたローザの心さえも我のものにはならぬのが何よりも腹立たしくそしてそれ以上に悔しいっ!!
何故何時の時もガイオばかりなのだ!!
どうして同じ兄弟にも拘らず我だけは恵まれぬのかっ!!
――――さえ、ガイオさえいなくなれば、この世界にガイオが存在しなければ母そしてローザの心は我のものとなるのか?
『ああそうじゃ。妾の愛し子よ。妾の願いを聞いて給う』
インノ、チェン……ツァ?
インノチェンツァが私を愛し子と?
これ、は……空耳なのだろうか。
『ふふふ、愛しい愛しい妾のサヴァーノ。さあこの母がそなたを愛してやろうぞ』
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