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8話 暗闇に響くのは

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ふと気がつくと、リアスは暗闇にひとりぼっちだった。

もっと早く気づくべきだった……。

後悔するも、すでに手遅れだ。


「ううっ……」


暗闇の中でうずくまり、震える両肩を自分で抱きしめながら唇をかみしめるリアス。

リアスは今、絶賛道に迷っていた。


最初に襲ってきた魔犬の群れを追っていると、小さな広場に行き当たった。
片っ端から殴り飛ばしたせいか、その死体の血に引き寄せられた新たな魔犬の群れが広場の周囲から湧いてきた。

イイ感じにそれを広場の奥へと追い込んでいくと、今度はそのまた奥からコボルトの一群が弓を放ち始めた。それをまた全部叩き潰したころには、いつの間にか奥にあった祭壇に足を踏み入れてしまっていた。

祭壇の中心で最後のコボルトを叩き潰すと、なぜかその場でトラップが起動し、祭壇の壁が崩れて奥の通路からスケルトンの大群が襲ってきた。
またそのスケルトンを倒すうち、気づけば奥の通路を走り回っていた……。

多分、そこですでに明かりはなくなっていた。

スケルトンの骨はそれ自体が光る。
魂が骨に残ってるとかいうやつもいたが、誰も真実なんかしりはしない。
一本一本は大した光じゃないが、何体もいればそれなりの明かりになる。

だから手遅れになるまでリアスは気づけなかった。
自分が暗闇の中を走り回っている、ということに……。


「ううっ、ううう……」


目前にいたスケルトンを倒し続けた時、徐々に周りが暗くなり始めていたはずだ。
だけど、戦闘に夢中になっていたリアスが、そんなことに気が回るわけがない。

一体倒すごとに周りから明かりが減っていき、リアスが最後のスケルトンを屠った途端、リアスは真の暗闇にひとり取り残された。

突然の真っ暗闇にパニックに陥ったリアスは、それでも手持ちの小さな光石を取り出そうとして。
でも焦るリアスの指の間から、非情にも光石が転がり落ちた。

カンカンカン、カンと転がっていった光石の音が、そこからコーン、コーンと遠く地下へと響いていく……。
どうやらすぐ近くに亀裂でもあったのだろう。
最後は暗い闇のどこかで音が途切れた。

万年金欠のリアスが、他に予備の光石なぞ持ち合わせているはずもない。
途端、孤独と暗闇への恐怖がリアスを襲う。

リアスは間違いなく強い。
戦闘力だけで比較するならば、多分この田舎町ではトップクラスだ。

だが、それでもリアスが『パーティーお断り』といわれ続けるには、十分な理由があった。

先ず、壊滅的に方向音痴。
次に、バカで突っ走る。
そしてトドメが暗所恐怖症。

そう、リアスはとことん、ダンジョン・ハンターに向いていなかった。


「エゾン……リース……エゾン……」


因みにリアスが道に迷うのは、これが初めてではない。
それどころか常習犯である。

最近でこそ少ないが、エゾンと潜るようになる前は、幾度となく行方不明になり、捜索隊が面倒がって数日放置するほど頻繁に繰り返していた。


「うう……、ヒック、怖いよぅ」


暗闇にうずくまるリアスには、普段の覇気は全くない。
それどころか、漏れ出すすすり泣きには、すでにしゃくり上げる声や鼻水をすする音も混じっている。
もうこれは、ガチ泣き寸前である。

それに目を付けたのか、暗闇の奥から大きな体躯がリアスに忍び寄る。
狡猾にも息をひそめ、足音さえほぼ立てない。

だが、相手はリアスだ。
例え泣きじゃくってはいても、戦闘力と勘の鋭さだけは人一倍。

暗闇から伸びた大きな頭が、今にもリアスとその背に眠るリースへと延びようとしたその瞬間。
暗闇にも関わらず、突然気配に呼応するようにリアスの鉄拳が飛んだ。

無意識とはいえ、いや、無意識だからこそ、恐怖心から最高火力のパンチを繰り出すリアスにかなうものなど、このダンジョンには存在しない。

ガズンッという鈍い音を追うように、リアスたちの直ぐ近くで重量のある何かが倒れる音が暗闇に響いた。

だが、リアスはそちらを振り向きもしない。


「暗いの怖い……エゾン助けて……」


多分、助けがほしかったのは、今一撃で頭蓋を叩き割られた相手のほうだろう。

リアスは本当に強い。
だからこんな低層で迷子になっても、リアスとリースに危険が及ぶことなど万に一つもない。


「う、う、うえーええん、エゾン、エゾン、早くきてくれぇーーー!!!」


とうとうガチ泣きを始めたリアスに不用意に近づく者たちにこそ、危険は振りまかれるのだった。
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