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まずは第一王子を知りましょう。
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早速アレンに連れて来られたのは、騎士の訓練場だった。
東京ドーム3個分はありそうなその場所はいろんな状況を想定したものだろう、坂道や泥沼、崖、森もあった。午後からは一般に公開されているようで、観覧席には年頃の女の子たちや昼間からお酒を飲んでいる男性たち、騎士の家族だろうか子連れのご婦人もいる。…これなら、わたくしが来ても違和感がないわね。
何百人もの男たちがそれぞれの場所で訓練をしていた。その大勢の中でもただ一人、ひときわ目立つ金色の髪の男性…シリウスだった。一対一での剣の打ち合いをしているようだ。
相手はシリウスよりも身体が大きく、シャツを脱ぎ去り惜しげもなく披露された肉体は、無駄なく引き締まった筋肉に覆われ、彼がどれ程鍛え上げたのかが伝わってくる。
「兄上の相手はダット副隊長ですね。」
そう、アレンが教えてくれた。剣のひと振りひと振りが素早く、重く、身を躱す仕草ひとつでさえ滑らかで隙がない。
シリウスは防戦一方だ。剣を受け止めるその苦痛にみちた表情は彼の剣がどれだけ重く力強いか見ているだけで思い知らされる。
怪我をするんじゃないか、シリウスの苦痛な表情にハラハラして居ても立ってもいられない。
アレンを見ると、ニコニコとシリウスを見つめていた。
幼い頃から訓練を行ってきたこの子達にとって、訓練のこの様子は見慣れた光景なのだろう、取り乱す自分が情けなく、恥ずかしく、堪えるようにぎゅっと目を閉じわたくしは下を向いた。
「………………。もうすぐですよ。」
小さな…けれどはっきりと聞こえたその声に、瞼を開けて顔をあげるとシリウスは剣を受け流し、反撃を始めた。先程の冷たい瞳とはまるで違う。その瞳は熱く、鬼気迫るかのような迫力だった。
ただひたすら、我武者羅に剣を振るシリウスに胸が震えた。それでも副隊長には子供の稽古なのだろう、その後あっさりと剣をとられ、シリウスは敗北した。
「ありがとうございましたッ」
そう、頭を下げるシリウスの声は明るかった。
わたくしは真剣に訓練に取り組むシリウスが誇らしく…嬉しかった。
それから、何度もわたくしとアレンは訓練場に足を運んだ。
「ねぇ、アレン。これって逆効果ではなくて?母親が見に来るなんてシリウスじゃなくても嫌だと思うのだけれど……。」
声をかける訳でもなく、ただシリウスのその姿をみるために私たちは訪れていた。
「いいえ、もうすぐ兄上の方から母上に挨拶に来ますよ。いえ、来ざるを得ない…ですがね。」
そうにこやかにアレンは微笑んだ。
ーーーーーーーーーーー
ある日また稽古を眺めていると、稽古から抜け一人の男性を先頭に副団長がシリウスを引きずってきた。
「王妃さま、いつもご観覧頂いてありがとうございます。隊長のブラッドと申します。こいつは副隊長のダットです。ご挨拶が遅くなり申し訳ございません。」
シリウスを引きずったまま臣下の礼をとる二人。
ダット隊長もさすが、身体の鍛え方が違う。人よりもふた回りほど大きなその身体は近くに跪かれると迫力がある。
「ごきげんよう。ブラッド隊長、ダット副隊長。いつも鍛練ご苦労様です。こちらこそ、ご挨拶できなくてごめんなさいね。…シリウスもいつも鍛練お疲れ様。」
「………………。」
ドガッッ
不貞腐れたようにそっぽをむいて返事をしないシリウスに…隊長には頭を、副隊長には横腹を殴られている。
「申し訳ありません王妃さま。こいつ照れてるみたいでして…。いやぁ、まだまだ恥ずかしいお年頃ですかねぇ。」ハッハッハ
シリウスの背中をバンバンと叩きながら団長はそう付け加えた。厳しそうなその見た目とは違い、まるでしょうがない息子をみるように瞳にはあたたかさが宿っていた。背中を叩く音は反対にとても大きかったが……。
「お久しぶりです、隊長、副隊長。お元気そうでなによりです。」
アレンも隊長と顔見知りのようだ。
「アレン王子もしばらくみない間に大きくなったなぁ!どれ、久しぶりに稽古をつけてみるか?」
「えぇ。ぜひ、お願いします。と言いたいところですが、今日はひとつお願いがありまして。
…………母上に護身術の稽古をお願いしたいのです。もちろん、隊長や副隊長のお手を煩わせるつもりはありませんので、兄上、お願いできませんか?」
「「「「………………は?(え?)」」」」
東京ドーム3個分はありそうなその場所はいろんな状況を想定したものだろう、坂道や泥沼、崖、森もあった。午後からは一般に公開されているようで、観覧席には年頃の女の子たちや昼間からお酒を飲んでいる男性たち、騎士の家族だろうか子連れのご婦人もいる。…これなら、わたくしが来ても違和感がないわね。
何百人もの男たちがそれぞれの場所で訓練をしていた。その大勢の中でもただ一人、ひときわ目立つ金色の髪の男性…シリウスだった。一対一での剣の打ち合いをしているようだ。
相手はシリウスよりも身体が大きく、シャツを脱ぎ去り惜しげもなく披露された肉体は、無駄なく引き締まった筋肉に覆われ、彼がどれ程鍛え上げたのかが伝わってくる。
「兄上の相手はダット副隊長ですね。」
そう、アレンが教えてくれた。剣のひと振りひと振りが素早く、重く、身を躱す仕草ひとつでさえ滑らかで隙がない。
シリウスは防戦一方だ。剣を受け止めるその苦痛にみちた表情は彼の剣がどれだけ重く力強いか見ているだけで思い知らされる。
怪我をするんじゃないか、シリウスの苦痛な表情にハラハラして居ても立ってもいられない。
アレンを見ると、ニコニコとシリウスを見つめていた。
幼い頃から訓練を行ってきたこの子達にとって、訓練のこの様子は見慣れた光景なのだろう、取り乱す自分が情けなく、恥ずかしく、堪えるようにぎゅっと目を閉じわたくしは下を向いた。
「………………。もうすぐですよ。」
小さな…けれどはっきりと聞こえたその声に、瞼を開けて顔をあげるとシリウスは剣を受け流し、反撃を始めた。先程の冷たい瞳とはまるで違う。その瞳は熱く、鬼気迫るかのような迫力だった。
ただひたすら、我武者羅に剣を振るシリウスに胸が震えた。それでも副隊長には子供の稽古なのだろう、その後あっさりと剣をとられ、シリウスは敗北した。
「ありがとうございましたッ」
そう、頭を下げるシリウスの声は明るかった。
わたくしは真剣に訓練に取り組むシリウスが誇らしく…嬉しかった。
それから、何度もわたくしとアレンは訓練場に足を運んだ。
「ねぇ、アレン。これって逆効果ではなくて?母親が見に来るなんてシリウスじゃなくても嫌だと思うのだけれど……。」
声をかける訳でもなく、ただシリウスのその姿をみるために私たちは訪れていた。
「いいえ、もうすぐ兄上の方から母上に挨拶に来ますよ。いえ、来ざるを得ない…ですがね。」
そうにこやかにアレンは微笑んだ。
ーーーーーーーーーーー
ある日また稽古を眺めていると、稽古から抜け一人の男性を先頭に副団長がシリウスを引きずってきた。
「王妃さま、いつもご観覧頂いてありがとうございます。隊長のブラッドと申します。こいつは副隊長のダットです。ご挨拶が遅くなり申し訳ございません。」
シリウスを引きずったまま臣下の礼をとる二人。
ダット隊長もさすが、身体の鍛え方が違う。人よりもふた回りほど大きなその身体は近くに跪かれると迫力がある。
「ごきげんよう。ブラッド隊長、ダット副隊長。いつも鍛練ご苦労様です。こちらこそ、ご挨拶できなくてごめんなさいね。…シリウスもいつも鍛練お疲れ様。」
「………………。」
ドガッッ
不貞腐れたようにそっぽをむいて返事をしないシリウスに…隊長には頭を、副隊長には横腹を殴られている。
「申し訳ありません王妃さま。こいつ照れてるみたいでして…。いやぁ、まだまだ恥ずかしいお年頃ですかねぇ。」ハッハッハ
シリウスの背中をバンバンと叩きながら団長はそう付け加えた。厳しそうなその見た目とは違い、まるでしょうがない息子をみるように瞳にはあたたかさが宿っていた。背中を叩く音は反対にとても大きかったが……。
「お久しぶりです、隊長、副隊長。お元気そうでなによりです。」
アレンも隊長と顔見知りのようだ。
「アレン王子もしばらくみない間に大きくなったなぁ!どれ、久しぶりに稽古をつけてみるか?」
「えぇ。ぜひ、お願いします。と言いたいところですが、今日はひとつお願いがありまして。
…………母上に護身術の稽古をお願いしたいのです。もちろん、隊長や副隊長のお手を煩わせるつもりはありませんので、兄上、お願いできませんか?」
「「「「………………は?(え?)」」」」
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