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発想が独裁者
しおりを挟む「つまり、君の幼い頃からの婚約者である王太子が、クラスメイトのレベッカなるピュア可愛い平民女子に惚れてしまったということだよな」
「ええ。本人は隠しているようですし、実際誰も気づいてはいないのですが、わたくしから見たらバレバレですわ。それはもう、見ているこちらが歯痒くなるくらいお互いを思い合っている様子なのです……なのに、なのに殿下ときたら!」
思い出して、屈辱で体が震えます。そんなわたくしの様子に、黒いモヤモヤは「まあ辛かろうな」と神妙な雰囲気で頷いていました。
「ええ! このわたくしをなんだと思っていらっしゃるのか!」
「うん。婚約者殿もさぞ気苦労が多かったと思うが、浮気は最低だ」
「いいえ。殿下があちこちに浮気するような品性下劣野郎でしたら他の女性のためにも叩きのめしておしまいですけれど、殿下のそれは浮気ではないのです」
「ああ、運命の愛とか真実の愛とか言う……」
「ええ、そうですの。ようやく真実の愛に出会えたようですのに、殿下ときたら……!」
「え?」
魔王様が首を傾げ、わたくしをまじまじと見つめました。
「わたくしが、レベッカ嬢を愛しておられるのなら婚約を解消して告白なさったらいかがですか、と協力を申し上げたところ、『……まさか。僕に愛する人などいないよ』『例えいたとしても、幼き頃より共に帝王学を学んできたセラヴィに、不実な真似は誓ってしない』と仰ったのです」
「…………?」
「そうして殿下は切なそうな目を空に向け、切なげな眼差しで『僕は王太子だ……』と呟かれたのです。完全に……完全に劇場でしたわ……!」
わたくしはすうっと大きく息を吐きました。
「何を勝手に人を障害物みたいにしているんですの!? わたくしはハードルではありませんわ! どちらかといえば高く跳び箱を飛ぶための、ロイター板の心算でおりますのに!」
「そっち?」
「というかこちらこそ、高潔ポエムを詠むような男などごめんですのよ!」
そもそもですけれど、この婚約は国王陛下と王妃殿下が盛り上がっていただけなのです。間に友情しか存在しないわたくし達は、あの『約束』を守るために然るべきタイミングで婚約を解消するものだとばかり思っておりました。
手元の剣をぎちぎちと握り締めます。魔王様が「宝石! 宝石はやめて!」と焦った声を出しています。
「まったく、視野の狭い頑固者めが!」
「頑固者めが」
「ええ、頑固なのですわ! 自由恋愛が叫ばれる昨今、民の間でも『王族だって人間だ』と人権意識が高まっております。この世論を逆手に取り、私との婚約を解消してレベッカ嬢と結婚なさっても何の問題もないと、むしろ王家の好感度を上げてみせましょうと再三進言致しましたのよ! カスティーヤ公爵家ならばパパラッチを意のままに働かせ、世論を誘導することなど簡単なことですから」
「……ええと、突っ込みは置いといて。王太子殿下は、惚れたのはどうかと思うけれど……やっぱり王様としては正しいんじゃないか。賢い王は感情をコントロールできるものだろうし。まあ君が王妃になるのはどうかと思うが」
「確かに無能に国王は務まらないでしょうが、賢王である必要はございませんわ」
国王中心の専制政治であれば、確かに賢王が求められるでしょうけれども……。
「今や我が国では王の一存だけで決められることって、とても少ないのです。貴族の力も強いですし、何か新しいことを成し得たいと思えば、議会に法案を提出し王を含む多数決で取り入れます」
それに民衆の発言力も高まっている昨今、王の権力というものは意外や意外、大きいものではないのです。
「何より正しき道を歩み続ける力強きカスティーヤ公爵家であれば、目に余る愚王の首を刎ねるくらい造作もないこと。カスティーヤ公爵家がこの国にある限り、誰がその座につこうとおかしな政治が起こることなどありませんわ」
「発想の血生臭さが独裁者なんだよなあ……」
「というわけで、魔王様には明日の卒業パーティーで、少々ド派手な演技をお願いしたいのです」
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