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17 怖い
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ジークは真面目で、誠実だ。だから、こうした時の応対にも、彼のそういった部分は出ている。ちゃんと自分の非を詫びて、だからこそ。もう一度、聞き直してくれた。
「……あの。少しだけ、じゃないよね? 私に何か隠してる? もしかして、アルベールが見つけた犯人って……ジークの知っている人だったの?」
「いや……それは」
ジークの、答えの歯切れは悪い。そして、金色の目は何か迷うように、定まらずに泳いでいる。
彼の煮え切らない態度にムッとしてしまった私は言ってはいけないと、心で思っていたことをつい言ってしまった。
「……じゃあ。もしかして……どうせ、私はいつか裏切るんだから。こんな……結婚式の用意なんてしても、仕方ない。無駄だって思ってる……違う?」
「レティシア……ごめん。そんなことは、絶対にない。誤解だ」
私が震えを抑え切れない声で言ったことに、ジークは本当に驚いたようだった。
けど、私だって、自分の気持ちを、何もかもを彼のためと割り切れる訳でもない。何も考えない、意志を持たない人形ではない。
同情すべき立場にあるジークのためにと、私だってこれまでに言いたいことをずっと我慢していたのだ。そして、それは堰を切ったように、口から溢れて出て来た。
「もうっ! 何よ! ジークのバカ! 私がどれだけ……貴方のことが好きかも、何も知らないくせに!」
私は相談していた応接室を飛び出して、何も考えずに玄関の方へと早足で歩いた。
私はなんで、貴族令嬢なのだろう。私がただの村娘だったなら、薄いスカートですぐに走って逃げることだって出来たはずだ。
けど、私が纏っているデイドレスではとても身軽に走ることは出来ないし、これまでの常識がそれは出来ないから歩けと、怒りに任せている自分に言い聞かせるのだ。
確かに、魔除けの指輪で自衛してなかったジークが過去に見た私は、彼を裏切ったのかもしれない。けど、それを知っているここに居る私は裏切らない。
彼は、もうそれを知っているはずなのに。
「ちょっ……ちょっと、待って! ごめん。本当にごめん。これは、レティシアのせいなんかじゃない。僕の所為なのに……ごめんなさい……」
慌てて追い掛けて手を掴んだジークは、私の目から涙が流れているのを見て本当に辛そうな顔になった。
「ジーク。私は、貴方を裏切ったりしないわ」
何かで心を操作された私を何度も見ている彼には、この言葉は通用しないのかもしれない。
「ごめん……本当に、ごめん。でも、どうしても……怖いんだ」
表情を曇らせたジークを見て、私も辛くなった。彼がこの状況を望んだ訳ではない。それは……わかっているのに。
「ジークの、せいじゃないのは……わかってる。けど……絶対に、犯人は許さない……」
「ごめん」
そして、ジークは私の身体を、ぎゅっと抱きしめた。私とアルベールが魔除けの指輪を身に付け、ジークを裏切ることなんてないと彼はもう、すべて理解しているはずだ。
けど、彼は今も何かが起こる事を、異常に恐れているように私には思える。
「……ねえ。あの……ごめんなさい。私。どうしても、こんなことをした犯人が知りたい。夜会に居るってことは、貴族でしょう? その人の正体は私には、言えない……何か理由があるの?」
ジークは溜め息をついて、私の手を引いてさっき二人が居た応接室に戻った。部屋に居るメイドに言って、当分の人払いを命じていた。彼女が部屋の扉を閉めたと慎重に確認してから、ジークと私は並んでソファへと腰掛けた。
「……あの。少しだけ、じゃないよね? 私に何か隠してる? もしかして、アルベールが見つけた犯人って……ジークの知っている人だったの?」
「いや……それは」
ジークの、答えの歯切れは悪い。そして、金色の目は何か迷うように、定まらずに泳いでいる。
彼の煮え切らない態度にムッとしてしまった私は言ってはいけないと、心で思っていたことをつい言ってしまった。
「……じゃあ。もしかして……どうせ、私はいつか裏切るんだから。こんな……結婚式の用意なんてしても、仕方ない。無駄だって思ってる……違う?」
「レティシア……ごめん。そんなことは、絶対にない。誤解だ」
私が震えを抑え切れない声で言ったことに、ジークは本当に驚いたようだった。
けど、私だって、自分の気持ちを、何もかもを彼のためと割り切れる訳でもない。何も考えない、意志を持たない人形ではない。
同情すべき立場にあるジークのためにと、私だってこれまでに言いたいことをずっと我慢していたのだ。そして、それは堰を切ったように、口から溢れて出て来た。
「もうっ! 何よ! ジークのバカ! 私がどれだけ……貴方のことが好きかも、何も知らないくせに!」
私は相談していた応接室を飛び出して、何も考えずに玄関の方へと早足で歩いた。
私はなんで、貴族令嬢なのだろう。私がただの村娘だったなら、薄いスカートですぐに走って逃げることだって出来たはずだ。
けど、私が纏っているデイドレスではとても身軽に走ることは出来ないし、これまでの常識がそれは出来ないから歩けと、怒りに任せている自分に言い聞かせるのだ。
確かに、魔除けの指輪で自衛してなかったジークが過去に見た私は、彼を裏切ったのかもしれない。けど、それを知っているここに居る私は裏切らない。
彼は、もうそれを知っているはずなのに。
「ちょっ……ちょっと、待って! ごめん。本当にごめん。これは、レティシアのせいなんかじゃない。僕の所為なのに……ごめんなさい……」
慌てて追い掛けて手を掴んだジークは、私の目から涙が流れているのを見て本当に辛そうな顔になった。
「ジーク。私は、貴方を裏切ったりしないわ」
何かで心を操作された私を何度も見ている彼には、この言葉は通用しないのかもしれない。
「ごめん……本当に、ごめん。でも、どうしても……怖いんだ」
表情を曇らせたジークを見て、私も辛くなった。彼がこの状況を望んだ訳ではない。それは……わかっているのに。
「ジークの、せいじゃないのは……わかってる。けど……絶対に、犯人は許さない……」
「ごめん」
そして、ジークは私の身体を、ぎゅっと抱きしめた。私とアルベールが魔除けの指輪を身に付け、ジークを裏切ることなんてないと彼はもう、すべて理解しているはずだ。
けど、彼は今も何かが起こる事を、異常に恐れているように私には思える。
「……ねえ。あの……ごめんなさい。私。どうしても、こんなことをした犯人が知りたい。夜会に居るってことは、貴族でしょう? その人の正体は私には、言えない……何か理由があるの?」
ジークは溜め息をついて、私の手を引いてさっき二人が居た応接室に戻った。部屋に居るメイドに言って、当分の人払いを命じていた。彼女が部屋の扉を閉めたと慎重に確認してから、ジークと私は並んでソファへと腰掛けた。
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