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第15話『月夜の処刑人』

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「こんな夜更けに、てめぇ、何の用だ?」

「ちょいとばかし、野暮用だ。長居はしねぇ」



「性奴隷でも買いに来たか? 明日にしろ」

「明日、ね。今日じゃなきゃ、駄目なんだわ」



「はぁ? イカれてんのかッ? とっとと消えろッ!!」

「断る」

「てめぇ、……なめてんのかッッ、殺すぞッ!!」





 腰の鞘から、抜剣。
 大男のクビが宙を舞う。

 くるりくるりと回転し、
 地面を……ゴロリと転がる。





「殺す? ――口で言う前に殺せ。さもなきゃ、お前を殺す。いや――既に、殺した」






 ゲイリー・ライオネル。年齢34。
 罪状、人身売買、違法薬物の売買、強姦、殺人。





「数だけ多い。少しだけ、面倒だ」





 斬り落とした生クビの髪を掴む。
 おおきく振りかぶって、――投げる。


 奴隷商会のアジトの窓ガラスが砕けた。
 ――罪人どもが声をあげる。





「さん――にぃ――いち」





 ――パカンッ





 乾いた爆発音。


 男の口腔内に詰め込んだ炸薬が爆発。
 生クビに気を取られ、罠を見抜けなかったのだろう。
 きっと、何人かは死んでくれたはずだ。


 あくまで、これは威嚇のための行動。
 屋内が安全ではないと思わせるための手段。





「ぞろぞろ出てきやがった、まるで燻煙剤だ」





 害虫が次から次に、巣から這い出してくる。
 この光景は、何度見ても不愉快だ。





「てめぇ……誰の命令でここに来やがった!! オレ達に手を出してタダで済むと思うな。お前の、両親、親族、恋人、友人、全員、殺……あっ……で、……っ?」





 男の脳天にダガーが突き刺さっている。
 闇色に溶ける漆黒のダガー。
 俺の愛用する武器だ。


 
 ウィリアム・ウオルコット。年齢27。
 罪状、人身売買、強姦、殺人、強盗、食人。



 よく回るのは舌だけ。
 頭は回らない男のようだ。


 俺を相手にして語るな。
 語る前に殺しに来い。
 ――無駄な努力だが。




「うるせぇ。未来のことは、殺してから言え。俺が――お前らに未来は、与えないが」





 ――――分析しろ。現在の状況を。


 俺の殺害対象は20名くらいか。
 気配を消したアサシンが2人近づいている。


 数で包囲し、なぶり殺すつもりだろう。
 そうであってくれなければ困る。


 俺が、そうするように仕向けたのだ。
 俺が処刑した二人はこの奴隷商会の鉄砲玉。


 殲滅戦より逃げる悪党を処刑する方が、
 手間がかかるからな。



 このキャラバンの本当の敵は、
 俺の目の前に立っている奴ら。
 それでも恐れるに足らぬ、相手。


 ただ、少し数が多い。
 俺の姿を見た悪党は逃がさない。
 久しぶりに――アレを使うか。





「執行権限《デーモン・ライセンス》、執行。許可申請は、事後」






 漆黒。王都の暗部を司る者達。
 極悪人の秘密裏の執行権限を与えられた者達。
 罪人を狩るモノ。それが執行権限。


 ギルドマスターから『処刑人権限《デーモン・ライセンス》』を許可された者。
 試験運用のため、肉体改造を施された実験体。



 その異常なる暴力は、重罪人にのみ適用可能。
 ごく限られた時間、集中力、身体能力、魔力。
 あらゆる能力が自身の限界を超えて強化される。
 


 使用者の肉体は、する。
 ―――それが、自壊式《オーバークロック》。





「自壊式《オーバークロック》。この研ぎ澄まされた超感覚。……久しぶりだぜ」





「んだ……てめぇ、その光る赤い入れ墨は。コケオドシかぁ!!!」




 マナの経路が肥大化、超高速でマナが循環。
 体表のマナの経路が薄っすらと赤い光を帯びる。


 禍々しいその姿は、悪魔《デーモン》。


 漆黒は自壊式《オーバークロック》の偽装のため黒装束を身にまとう。
 自壊式《オーバークロック》を見て生きた罪人は、一人もいない。
 罪人に恐怖と絶望を与えるモノ。


 だから漆黒には、名声も、名誉も、称賛もない。






「――――そんなモンは要らねぇ。俺が欲しいのは、悪党のクビだ」






 剣を振るう。鉄の剣が真ん中から、ぐにゃりと折れる。
 目の前の男が爆《は》ぜる。
 男の手から斧を奪う。力の限り投げる。前方へ。



 投擲された斧は回転しながら月夜を切り裂く。
 包囲陣の一番うしろに控えていた男の頭が、割れた。



 この組織の頭領の男。そして、死んだ。



 前方へ駆ける。その勢いのまま、蹴る。
 靴底に確かな感触。臓腑が破裂した音が聞こえた。
 細身の男が真っ直ぐ、後方へとつき飛ばされる。



 直線状に居た治癒術士にぶつかる。
 男の死骸と地面に挟まれる形で倒れている。
 倒れた治癒術士の顔面を、靴底で破壊。



 治癒術士が手に持っていた鉄製のメイスを奪う。
 背後から斬りかかろうとしていたシーフの顔を叩く。
 クビの骨が折れ、あらぬ方向にクビがねじ曲がった。



 シーフのポシェットから小型火炎瓶を拾う。
 投げる。割れる。空気に触れた薬液が発火。
 全身鉄製の鎧をまとった男が燃える。



 兜を脱ごうとするも熱で皮膚と鎧が癒着。脱げず、絶命。
 おそらく、痛みによるショック死。
 鎧男の死骸からクレイモアを奪う。



 拾ったクレイモアをそのまま横薙ぎに振るう。
 不可視化の魔法で近づいていた双子のアサシンを両断。
 地面の双子の頭部に一回ずつ、クレイモアを挿し込む。
 


 巨体が近づいている。身長は3メートルほど。
 キングゴブリンと呼称される変異種。
 クレイモアを腹部に突き刺し、貫き、そのまま前進。
 後ろに控えていたテイマーごと刺し、貫く。



 クレイモアは主従の体を縫い付ける。
 手首にひねりを加える。臓器がネジ切れる、絶命。
 テイマーの死骸から指揮棒を奪う。



 男が口を動かしている。ナニかを言っている。聞こえない。
 聞く必要がない。肩を掴む、顎の下から指揮棒を挿し込む。
 頭頂部から指揮棒の先端が覗く。捻りを加え、脳幹を破壊。



 逃亡者は三名。三方向、バラバラに逃げている。
 罪人の逃走は、許可しない。



 指揮棒が刺さった男のクビをネジ切り。
 肩に力を込め、遠投の要領で投げつける。
 男の背中に直撃。脊髄粉砕。もう動けない。後で殺す。



 駆ける。どんどん距離が縮まる。追い越す。前に立つ。
 顔を掴む。地面に叩きつける。頭が砕ける。死んだ。
 男の曲刀を拾い。投げる。



 逃走者の太ももに突き刺さる。逃走速度低下。
 呼吸をする。歩み、近づく。追いついた。



 手を合わせ金魚のように口をパクパク動かしている。
 聞こえない。靴底で顔面を踏みにじる。



 スイカのように砕けた。
 彼岸花が、咲いた。


 感覚を極限まで研ぎ澄ます。
 罪人の呼吸音は聞こえない。




 死亡偽装の可能性を疑え。
 殺した人間は、二度殺せ。


 心臓、頭部を確実に破壊。
 速やかな検死を――。





 刺し、斬り、貫き、砕く。
 抉り、叩き、潰し、殺す。





 まぶたを閉じる。聴覚に集中。
 完全なる沈黙――訪れる、静寂。
 あるのは、完全なる、漆黒。




 そこで意識がプツリと途絶えた。
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