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第46話『黄昏の終わり、戦争の音』

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 ここは、俺の村。
 そして、敵の軍勢を迎え討つための最終防衛ライン。

 今のこの村には誰一人として居ない。
 居るのは、俺たち漆黒だけ。


 黄昏時《たそがれどき》は過ぎ、夜の帳《とばり》が下りようとしている。
 夜陰に乗じ、夜明けとともに、凱歌を上げる。

 奴らは、そう考えているのだろう。
 だが、お前たちに夜明けは訪れない。



「ユーリ殿、かすかに聞こえるっすね……。大地が揺れる音が」

「ああ、聞こえるな」



 10万の軍勢が津波のように押し寄せている。
 靴底を伝い感じる、わずかな振動。

 いまはまだ、奴らの姿は見えない。
 だが、確実にその時は近づいている。



「ユーリ殿の、武器庫《アーセナル》、いつ見てもバカでかいっすね」

「はは。こんなフザケた武器、いや――兵器を使う機会が再び訪れるとはね」



 武器庫《アーセナル》。
 ひたすら巨大で分厚い鉄製の、背負いカゴバックパック

 武器庫《アーセナル》には無数の武器が雑にブチ込まれている。
 俺が武器を振るうと、過剰な力で武器が壊れる。


 その問題を解決するのが、この武器庫《アーセナル》。
 武器を次々と使い捨てにして、死体の山を築く。

 一対一を想定した真っ当な武器ではない。
 一対多を前提に運用する、兵器。

 これが、俺の本気の戦い方。



「つかそんな、バケモン。ユーリじゃなきゃ扱えないからなぁッ」

「非常識超荷重不可使用《重すぎて誰も使いこなせないないからな》」

「自壊式《オーバ・クロック》前提でも、そんな超重量を背負って戦うなんて、ユーリ殿以外にはムリな芸当っすなぁ~」




 最も信頼に値する兵器、武器庫《アーセナル》。
 カゴ自体も殺傷用の鈍器としても運用できる。

 異常に重く、非常に単純、過剰に堅牢。
 武器庫《アーセナル》はどんなに雑に扱っても壊れない。

 最も信頼できる鈍器でもある。




「ユーリ殿、少しずつ、地鳴りの音が大きくなってきましたなぁ……」

「はは。マルマロ、葬式みたいな顔すんなって。王都に居る、マルマロの片想いのケモミミメイドちゃんの、あの笑顔を思い出せっ!」

「ふひひっ……ユーリ殿。拙者、実はもう、彼女とはお付き合いをしている間柄でございましてなぁ……ユーリ殿の知らない、笑顔も知っているでござる。ごぽぉっ」



 いきなり、めちゃめちゃいい顔になりやがって!
 つーか、マジかよ?!

 メイドと付き合うとかさぁ……。
 ファンタジー以上にファンタジー!

 攻略ルートのない攻略不可能NPC!
 ……非実在少女じゃなかったの?

 かなり可愛い子だった……なにゆえに?



「ぐはっ……マルマロ……おま……、やるじゃねぇか!」

「にゃりーん☆ ケモミミメイド、ゲットっす!」



 これ以上ないほどの良い笑顔で、親指を立たている。
 負けたよ……ちっくしょー! 祝ってやるッ!



「付き合う事になった、なれそめを聞かせろ! どうやって落とした?」

「そっすね。裏通りで暴漢にケモミミメイドちゃん、こほんっ――が、絡まれているのを、拙者が助けてからの縁っすね」



「おまっ、……なんて、古典的、かつ、誰もが思い描く、理想的な出会いだよっ!……うらやま死刑だ! マルマロ、おまえ、ギャルゲの主人公か!」

「ふひひ。ギャルゲとやらは知らぬでござるが、なんとなくいい響きの言葉でござるなぁ。いや、ユーリ殿のこの顔だけで、ご飯5杯はいけそうっすなぁ」



 ちなみに、この世界にもメイド喫茶はある。
 メイドはどの世界でも通用する魅力を秘めている。
 俺も数回、マルマロの付き合いで、行った。

 ケモミミの子は、俺も顔だけは知っている。
 ……八重歯が、可愛い子だったな。

 メイドと付き合うとかさぁ……。
 事実は、小説より、奇だなぁ……。




「団長の、俺が……マルマロに、負けたッ! しかも、マジでマブイ女じゃねぇかッ!! もう、駄目だ……ぃみゎかんなぃ。もぅマヂ無理。割腹、ιょ・・・」

「オイオイオイ、死ぬわ、団長」

「たいしたものですね……って、団長、早まらないでござるーっ!!」



 マルマロ、団長絶対殺すマンと化してるな。
 死んだ魚のような目になってるしな、団長。




「ちな我、妻子持」




「「「エッジ、おまえ妻子持ちだったんかーい!」」」




 エッジが、ドヤ顔ダブルピースをカマしている。
 ……なんだと。……いやさ、おまっ!

 つか、……どうやって、プロポーズしたんだよ!
 背負うものが、しれっとマジ重いのなぁ!!!


 団長なんて「燃え尽きたぜ……真っ白にな……」
 みたいな感じになってるしな。

 背後から致命の一撃バック・スタブを2回喰らえばそうなるよネッ!
 


R. I. H. 安らかに眠れ、地獄でっす、団長。ところで、ユーリ殿の村を戦場にしなきゃいけないのは、本当にすまないと思っているでござる」

「気にすんな。召喚された使い魔をダンジョン内に誘い込んで、ブチ殺すっつーのが、任務の最優先事項なんだから仕方ないぜ」


「ユーリ、本当に、すまねぇッ! 温泉も村もガチで最高だったっつーのに……」


 おっ……蘇った。不死身かな?


「団長、俺の大切なものは全て、王都にあるっす。だから、問題ない」

「ユーリさんの村のあの子たちのことっすね」

「ああ、そうだ」



 アルテ、テミス、ユエ、ルナ、全員、今は王都だ。
 アルテに頭を下げ、王都で保護するよう頼んだのだ。

 みんなには俺が王都で商談中と伝わってるはずだ。
 アルテには、辛い嘘をつかせてしまった。



 現在、王都を覆うようにドーム状の結界が展開されている。
 内外からの物理、魔法、その一切の干渉が不可能。


 ――王都最強の切り札、都市結界《アイギアス》。


 地下、地上に存在すると噂される、二つの賢者の石。
 それは無尽蔵のエネルギーを供給する、魔力炉。
 その二つの全エネルギーが今、防御結界に使われている。



 世界で最も安全な場所。打ち破ることなど、不可能。
 王都最強の守りにして、究極の抑止力。

 採掘王とやらも、都市結界《アイギアス》の堅牢性を知っているはずだ。
 それなのに、この大規模な進軍。不可解ではある。

(まぁ……これは、前線の俺が考えることではない、か)




「まぁ、さすがに元廃村の家だ。魔獣も雑に使ってたせいで、リフォームにも限界があった。ここらで一丁、一回更地にして、新しく建て直した方が良いってもんだ」

「そっすね。なんせ、今回の任務にかかった経費、すべてギルドマスター持ちって事になってるすからね!」



「そゆこと。だから、おまえらも遠慮なく景気よく暴れろ」

「わかったッ! ありがとう、ユーリ!」



 それにしても、マルマロは彼女、エッジは妻子。
 団長は彼を慕っている、ちびっこ達。
 誰一人、命が惜しくないと思っている者はいない。
 


「みんなも、いろいろ、でっけーモン背負って戦ってたんだな」



「絶対に失いたくない物がある。だから、命を張れるってもんさッ!」


「拙者の彼女に、指一本触れることを、許さないっす」


妻子為、我不畏、死出旅可愛い娘と、嫁のためなら、まぁ、やるしかねぇべな



「そうだな、そうだった。だからこそ、俺達はこんな馬鹿をやり通してきたんだ」


 愛すべき大切な者たち。
 それに牙を剥く者に、怒り、戦う。


「ユーリ。俺たちに、檄《げき》を飛ばして欲しい。おまえにしかできねぇッ!」


「団長、その役目、俺で良いのか?」

「ユーリ、お前じゃないと、駄目だ」

超過負荷、団長演説つかさ、団長は演説とかできねーべなw



「ユーリ殿、ここは一つ、熱いヤツを頼むでござるっ!」
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