上 下
45 / 107

第45話『ぼーいずとーく』

しおりを挟む
「あのイケメン野郎の無茶振り、毎度エゲツねぇよなぁッ?! なっ? ユーリもそう思うだろ?」

「はは。大将もブレねぇよな」

「拙者も、団長に同意っす」

「必罰美男子《イケメン死刑》」



 団長が難しそうな顔をしている。
 そういう時は、さして難しいことを考えていない。



「さっきの任務の話なんだがよ。ユーリ、10万ってどんくらいのデカさの数なんだ?」
 
「デカさの数?……そうだな、一言で言うなら、超超超、いっぱいって感じだ」



 細かい話は伝わらないので感性に訴えてみた。
 勢いとニュアンスが伝われば良いだろう。



「なるほど。理解した、超を上回り、超超を遥かに越える数……そりゃ、やべぇな」

団長、不可算術理解ユーリさんも、団長に理解させんのはムリだと思う



「10万っすかぁ。地獄に行列できそうな数っすね~」

「はは。それはウケるな。俺たちで黄泉路《よみじ》を、渋滞させてやろうじゃんか」



 赤信号、みんなで渡れば、怖くない(全滅)の精神だ。
 こいつらが一緒なら、不思議と怖くない。


「きっと地獄の閻魔様も急な来客に驚くと思うでござる」

「はは。違いねぇな」

呵呵、開幕地獄祭地獄のカーニバル 開 幕 だ



「にぎやか、大いに結構。葬式みたいな顔してる連中を盛り上げてやろうぜ」

「そっすね。拙者たち、死ぬ時は一緒っす」

「そうだな。地獄で酒を酌み交わそうぜ」

「いや……ユーリ殿、酒、めちゃめちゃ弱いじゃないっすか」

「うるせー! いーんだよ! こーゆーのはな、気分だ、気分っ!」






 *






「……それにしても、あのイケメン野郎もブレないよなぁッ」

「ホントっすよ。命令は曖昧、人命は軽視、仕方ない人っす。はぁ」

「まっ、不出来な上司を支えるのも、有能な部下である俺たちの仕事っつーことだなッ! わーっははははははははっ!!!」



 団長、ギルドマスターの悪口の時はすげーイキイキしてるな。
 今の団長は、100点満点の笑顔だ。

 団長こと、シャドウこと、ジミー、彼の人間面が色濃く出る。
 正義、熱血、善意の人から、いたって普通の男になる。

 シャドウ(自称)というより、ジミー(本名)感が強い。
 邪悪スマイル団長を、密かにジミー面と名付けてる。



「拙者、思うんっすが、イケメンだから許されてるだけな気がしません?」

「百理有《マジそれなw》」



「フツメンがあんな感じの態度とったら、かなり痛々しいことになるっす」

「大将は、イケメン無罪、それを身をもって証明してる感はあるな」



「あんだけ良いガンメンしてんのに、わかんねーのが、あのイケメン野郎の浮いた話を聞いたことねーことなんだよなぁッ!」

「大将、女気ないからな」


 団長、ギルドマスターの話になるとめっちゃ食いつく。
 漆黒の団長らしい邪悪な良い笑顔になる。
 好きか? 好きなのか? 好きすぎるだろ!

 それはそれとして、確かに団長の言うことも一理ある。
 近寄りがたいオーラを常時発している。
 ……妖怪婚期逃しに取り憑かれているに違いない。



「あのイケメン野郎は職場恋愛してそうな感じもねーからなッ!」

「拙者、最初はアルテ氏とできてるんじゃないかと思ってたっす。上司と部下との禁じられた恋みたいな感じの想像していたっす」



「ないない。アルテ、一度本気でぶん殴りたいって言ってたくらいだ」

「ふひひ。アルテ氏、なかなか言うっすねぇ」

「はっひゃひゃひゃっ!! ざまぁねぇなぁッッ!!! イケメン野郎ッッ!」



 アルテが怒ったのは、俺たちの件があるからだ。
 まぁ、この場では触れないでおくとしよう。



「ギルドマスターって、ソッチの気があるとか思われてるんっすかね?」

「つか大将、そうとしか思えない振る舞いをしてるから、そう勘違いされても仕方ない面はあるわな。そりゃ、誤解するなってのが無理筋だな」

「職員さん、冒険者と話す時、なぜか微妙にソッチ系のスイッチが入るんすよね……あれ見るとアッチャーって感じになるっす」



「あとな、アルテ情報なんだが、女性職員は尊敬、いや、崇拝の対象として見ていても異性として見てないそうだ。深窓《しんそう》の令嬢、高嶺の花って感じだな」

「モテそうで、モテない、ちょっとモテ、そうに見えて、残念なイケメンって感じっすね~」



 まぁ、ギルドマスターは散々な評価ではある。
 とはいえ、何だかんだあの男を評価しているのだ。

 自分の命を預けても構わない。
 そう、思うくらいには。

 直接命を受ける立場に密かな誇りすら持っている。
 そんなこと死んでも口に出さないが。

 その代わりにこうやってよく話題にだすのだ。



「はははッ! あのイケメン野郎、あのツラで彼女もいねぇのか。ダッッスゥェなッッ! イケメンの無駄遣いも良いところだぜッ!! な、マルマロ!」

「……いや、ゆーて、団長もDTの人じゃないっすか」

(おいっ!!……マルマロ!)




「       」





「キレイな顔してるだろ。ウソみたいだろ。死んでるんだぜ。……ソレで」

「団長、任務前に、フライング殉死っす。安らかに眠ってくだされ。チーン」

「我祈団長鎮魂《安らかに成仏しろよ》」



「って……おい! マルマロ、そりゃ言っちゃ駄目だ。団長は、孤高なだけだ、DTとは違うんだ。ただ、孤高で、高潔で、硬派なだけなんだっ!」



 団長も顔は良いんだけどな。
 子供たちにしかモテないのよな。
 イケメンの無駄遣いは、団長もなんだよなぁ……。



「美形のせいで分かりづらいんだけど、大将、結婚しておかしくない年齢ではあるんだよなぁ」

「ユーリ殿、ギルドマスターの年齢知ってるんすか?」



「おう。秘密だぞ? ゴニョゴニョ……だ。墓場まで持ってけよ」

「え……いや……まぁ、ふひっ。イケメンも、大変っすね」



「まぁ、老いらくの恋ってのもあるからね。大丈夫、まだイケる、イケる」

「誰かが、女の子紹介してあげないと、一生女と縁なさそうっす」



「女に関心ないわけでは無さそうなんだけどな」

「へー。そうなんっすか?」



「マジだ! 女性ギルド職員が後ろ向いてるときとかな、ワリと、ガッツリ、エゲツないくらいにケツをガン見してっからっ!」

「ふひっ……ギルドマスターもオスっすからね。まぁ、仕方ないっすね。そこは、むしろ拙者、好感度超高いっす。爆上がりっす!」



「クソ真面目で、頑固だからな。誰かが、お節介してやらなきゃ、一生進展なさそうな感じだな」

「優秀な血も途絶えるのは、残念っすよね。ユーリ殿の村のユエ氏とか紹介してみたらどうっすか? 玉の輿になれるっすよ」



「ユエは、男だ」



「ユーリ殿~! 唐突かつ、高度なボケ過はやめてくだされ~! そのボケは、拙者にはツッコメないっすよ~! 暴投は勘弁っす!」

「ユエは、男だ」



「ユーリ殿……食い下がりますなぁ、嘘も百回言えば真実になるってあれっすか? 拙者、可憐な女性をいじるのは、その……拙者の信義と反しますな」

「マルマロ。俺の顔、いや瞳をじっと見ろ。……これが、嘘を付いてる男の顔か?」



「・・・(沈黙)・・・。えっ?」

「ユエは、男だ」




 まぁ、――そうなるよなぁ。わかる。わかる。
 ユエはな、初見殺し。骨格から既に絶世の美少女なんだぜ?

 ひよこの性別鑑定の方がよほど難易度低いからね?
 性別を誤認するなというのが、マジ、ムリ。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

現代文の模試に出そうな評論たち

現代文学 / 連載中 24h.ポイント:99pt お気に入り:6

こころ・ぽかぽか 〜お金以外の僕の価値〜

BL / 連載中 24h.ポイント:653pt お気に入り:783

平凡少年とダンジョン旅

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:127pt お気に入り:1

【立場逆転短編集】幸せを手に入れたのは、私の方でした。 

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:7,032pt お気に入り:826

【完結】婚約破棄の代償は

恋愛 / 完結 24h.ポイント:4,609pt お気に入り:387

婚約破棄の翌日に謝罪されるも、再び婚約する気はありません

恋愛 / 完結 24h.ポイント:3,748pt お気に入り:6,430

【完結】天使がくれた259日の時間

ライト文芸 / 完結 24h.ポイント:1,505pt お気に入り:10

【完結】これからはあなたに何も望みません

恋愛 / 完結 24h.ポイント:177pt お気に入り:3,121

異世界ゆるり紀行 ~子育てしながら冒険者します~

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:44,616pt お気に入り:35,285

処理中です...