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第81話『第一階層:消滅』
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操り人形の最後のヒモが……プツリと、切れた。
ドチャリと肉塊が地面に叩きつけられた。
――文字通り肉塊にしか見えなかった。
背中は溺死体のよう膨れて紫色に。
それでも生きている。
芋虫のように床をヌルヌルと。
石畳を這いずり回っている。
――――何もない空間に巨大な剣。
剣の柄を二柱の神が握っている。
地を這う芋虫に垂直に落ちる。
剣先が背中を触れた。
ゆっくり剣先は体内を進む。
剣先が芋虫の心臓に触れた。
全ての所作が儀式めいている。
……恐らくは過去の再現。
ゆっくりゆっくりと正確に行われる。
手順を間違えないよう丁寧に。
シンの心臓が潰された。
「異界の神よ。荒ぶる御霊をどうか鎮め給へ」
霊的な存在と会話をしてはならない。
それはあくまで呪術師の原則の話。
マルマロはあえて禁を破る。
決して、対応を間違ってはならない。
相手の格と力を見誤るな。
自分で制御できると思い上がるな。
神前では無作法は許されない。
礼法に則《のっと》りお帰りいただく。
畏怖と敬意、礼儀と作法。
額に汗が伝い、体が震える。
その恐怖を神は咎《とが》めない。
人が神を畏れるのは当然のこと。
畏怖せぬ行為自体が不敬にあたる。
人が神に見せる恐怖の感情には寛容。
マルマロの対応は正しかった。
祝詞《のりと》の最後に深く頭を垂れる。
マルマロが示すことが出来る、最大限の敬礼。
二柱の神は極小さく返礼のお辞儀をし消えた。
……緊張の糸が解ける。
「……寿命が10年は縮まったっす。まぁ、元より数十分程度の余命っすけどね」
シンの周りに黄金の粒子が集まる。
『黄金道十二宮《アンヘルゾディアック》』発動
『救世主福音書《ニューゲームプラス》』発動
――――シン、復活。
シンは死人のような顔をしている。
身体は完全に復元。
死ぬ前より2倍強くなっている。
「あんたは、デキの悪い生徒っす。なので体で『道徳』を理解してもらうことにしたっす。あんたの大好きな、サプライズ、楽しかったっすか?」
「………っはんぎぃッツッ!!!」
「そっすか。サプライズ同窓会。楽しんでもらえたようで何よりっす」
「……ちゃんぎいりぃ?」
「少しは『道徳』を理解していただけたようっすね。これで、少し賢くなったっすかね。人を呪わば穴二つ。いままでに殺めてきた、億、兆、京、垓、――――那由多《なゆた》の魂が、貴方との再開を、心待ちにしているっす。あんたには見えないみたいっすが、この部屋ごと圧し潰されそうなくらいに見物人が集まっているっすよ。いやぁ……いやぁ……随分、想像以上にあんたマジモンの人気者みたいっすね……」
空間が万力のように圧し潰されかけつつある。
すでに死者の世界との繋がりを断っている。
今のこのフロアは元通り完全な生者の世界。
それでもなお、部屋が軋《きし》んでいる。
繋がりを断てば死者は生者の世界に干渉不可能。
その筈だったのだが……、何事も例外はある。
「………痛い………まだ痛みを感じる……! いやあああッ!!!」
「今宵のチュートリアルは、あんたのための特別仕様っす。教師がマン・ツー・マンで懇切丁寧にちゃんと理解するまで、しっかりとサポートするっすよ」
「謝る! 謝る! 超絶謝る!! マジ超ごめんて! つか、僕が、うっかり殺した、那由多《なゆた》っち全員に謝る! めんごめんご! だから許して! 寛容な気持ちで! ね? だって、人は過ちを侵すものでしょ? 若気の至り! 改心したから! だからさ、ほら……ね。ここは一つ、寛大な気持ちで許してみよ?」
首をキツツキのようにブンブンしている。
マルマロはシンを、一つだけ理解できた。
『ひたすら頭を上下にブンブン振る行為』
どうやらソレを謝罪と理解している事を。
意味は不明だが、どうやらそういう事らしい。
……改めて考えた。やっぱり意味不明。
そもそも前提がズレてる。相互理解はムリ。
人と人が分かりあうことの限界。
いや、そんな高尚な次元の話じゃない。
「謝罪? いえいえ。んなモン不要っす。もとかあ、だぁれも、あんたからの謝罪なんて求めてないっすから。ただ純粋に、会いたい。そう、思っているだけっすから。いやぁ……人気者は辛いっすね」
「そんなのって不公平だ僕ぁ会いたくない、面会謝絶だッッッ!!!」
「因果応報。人を呪わば穴二つ。せめてこの二つは覚えて欲しいっすね」
言いながら、まぁ、無理だろうなと思った。
それはこの男にはあまりに難しすぎる。
期待しすぎている。
この男が二つも言葉を覚えるなんて無理。
――――だって、ほら。警告した傍《そば》から。
『万物創造《エディタモード》』で刺突剣を生成。
マルマロの心臓を狙い刺突を繰り出す。
マルマロは一歩も動かず避けない。受ける。
だから、既に心臓は刺し貫かれている。
……でも、マルマロは笑っている。
「――もう面倒!……那由多《なゆた》っちだかなんだか知らないけどさぁ、もう一回殺せばいいだけじゃん? ねぇ? 僕ぁね、プチプチを潰すの超好きなんだよね! 一粒で二度美味しい。そういうことじゃんね? やったるでッ! 成敗! 天誅! 大虐殺! 殺せば解決! マジ勉強になった! グッバイ 道徳ッ!」
善なる者には言祝《コトホギ》を与え給へ
――悪しき者には呪詛《カシリ》を与え給へ
因果応報は則ち天地万象の理を示す
――故に対価を払わぬ咎人に印を刻む
終天呪詛・黒印
マルマロの最後の呪い。
術者の死亡時に術式が発動。
呪術は、因果応報の体現。
そしてその究極が『黒印』。
罪過のツケを強制的に支払わせる永劫呪詛。
マルマロが辿り着いた真理。
発動後、絶対に回避不可能。
そして、絶対に解呪不可能。
これは魔法の域から外れる。
文字通りの呪い。
「ごほ……っ、過去、現在、未来、死後、地獄、天国、異界。あんたは……どこに逃げても、この黒印からだけは逃れられないっす。……重ねた那由多《なゆた》の数の怨みと呪いその全てをきっちり……清算仕切るまで。絶対に解呪不可能っす。もう転移しても、……転生しても、……ゴホッ……ドコに逃げても黒印を目印に、取り立て人は来る。……ッ……安息の日は二度と訪れないっす」
……少し難しかっただろうか?
生徒のレベルにあわせよう。
これは道徳の授業。
懇切丁寧な授業がウリだ。
生徒に歩み寄る姿勢も大切だ。
だから、言い直そう。
「ほら! おまえが殺した那由多の魂 みんなおまえ探してるね みつけられないみたい かわいそうだね でも拙者殺しちゃったせいで おまえの居場所 みんなにバレちゃった ぜんぶおまえのせいです あ~あ」
「いッ……いやだぁああッッッ!!!!!」
―――――閃光。轟音。爆震。
第1階層は永劫破損領域《グラウンド・ゼロ》と化した。
ドチャリと肉塊が地面に叩きつけられた。
――文字通り肉塊にしか見えなかった。
背中は溺死体のよう膨れて紫色に。
それでも生きている。
芋虫のように床をヌルヌルと。
石畳を這いずり回っている。
――――何もない空間に巨大な剣。
剣の柄を二柱の神が握っている。
地を這う芋虫に垂直に落ちる。
剣先が背中を触れた。
ゆっくり剣先は体内を進む。
剣先が芋虫の心臓に触れた。
全ての所作が儀式めいている。
……恐らくは過去の再現。
ゆっくりゆっくりと正確に行われる。
手順を間違えないよう丁寧に。
シンの心臓が潰された。
「異界の神よ。荒ぶる御霊をどうか鎮め給へ」
霊的な存在と会話をしてはならない。
それはあくまで呪術師の原則の話。
マルマロはあえて禁を破る。
決して、対応を間違ってはならない。
相手の格と力を見誤るな。
自分で制御できると思い上がるな。
神前では無作法は許されない。
礼法に則《のっと》りお帰りいただく。
畏怖と敬意、礼儀と作法。
額に汗が伝い、体が震える。
その恐怖を神は咎《とが》めない。
人が神を畏れるのは当然のこと。
畏怖せぬ行為自体が不敬にあたる。
人が神に見せる恐怖の感情には寛容。
マルマロの対応は正しかった。
祝詞《のりと》の最後に深く頭を垂れる。
マルマロが示すことが出来る、最大限の敬礼。
二柱の神は極小さく返礼のお辞儀をし消えた。
……緊張の糸が解ける。
「……寿命が10年は縮まったっす。まぁ、元より数十分程度の余命っすけどね」
シンの周りに黄金の粒子が集まる。
『黄金道十二宮《アンヘルゾディアック》』発動
『救世主福音書《ニューゲームプラス》』発動
――――シン、復活。
シンは死人のような顔をしている。
身体は完全に復元。
死ぬ前より2倍強くなっている。
「あんたは、デキの悪い生徒っす。なので体で『道徳』を理解してもらうことにしたっす。あんたの大好きな、サプライズ、楽しかったっすか?」
「………っはんぎぃッツッ!!!」
「そっすか。サプライズ同窓会。楽しんでもらえたようで何よりっす」
「……ちゃんぎいりぃ?」
「少しは『道徳』を理解していただけたようっすね。これで、少し賢くなったっすかね。人を呪わば穴二つ。いままでに殺めてきた、億、兆、京、垓、――――那由多《なゆた》の魂が、貴方との再開を、心待ちにしているっす。あんたには見えないみたいっすが、この部屋ごと圧し潰されそうなくらいに見物人が集まっているっすよ。いやぁ……いやぁ……随分、想像以上にあんたマジモンの人気者みたいっすね……」
空間が万力のように圧し潰されかけつつある。
すでに死者の世界との繋がりを断っている。
今のこのフロアは元通り完全な生者の世界。
それでもなお、部屋が軋《きし》んでいる。
繋がりを断てば死者は生者の世界に干渉不可能。
その筈だったのだが……、何事も例外はある。
「………痛い………まだ痛みを感じる……! いやあああッ!!!」
「今宵のチュートリアルは、あんたのための特別仕様っす。教師がマン・ツー・マンで懇切丁寧にちゃんと理解するまで、しっかりとサポートするっすよ」
「謝る! 謝る! 超絶謝る!! マジ超ごめんて! つか、僕が、うっかり殺した、那由多《なゆた》っち全員に謝る! めんごめんご! だから許して! 寛容な気持ちで! ね? だって、人は過ちを侵すものでしょ? 若気の至り! 改心したから! だからさ、ほら……ね。ここは一つ、寛大な気持ちで許してみよ?」
首をキツツキのようにブンブンしている。
マルマロはシンを、一つだけ理解できた。
『ひたすら頭を上下にブンブン振る行為』
どうやらソレを謝罪と理解している事を。
意味は不明だが、どうやらそういう事らしい。
……改めて考えた。やっぱり意味不明。
そもそも前提がズレてる。相互理解はムリ。
人と人が分かりあうことの限界。
いや、そんな高尚な次元の話じゃない。
「謝罪? いえいえ。んなモン不要っす。もとかあ、だぁれも、あんたからの謝罪なんて求めてないっすから。ただ純粋に、会いたい。そう、思っているだけっすから。いやぁ……人気者は辛いっすね」
「そんなのって不公平だ僕ぁ会いたくない、面会謝絶だッッッ!!!」
「因果応報。人を呪わば穴二つ。せめてこの二つは覚えて欲しいっすね」
言いながら、まぁ、無理だろうなと思った。
それはこの男にはあまりに難しすぎる。
期待しすぎている。
この男が二つも言葉を覚えるなんて無理。
――――だって、ほら。警告した傍《そば》から。
『万物創造《エディタモード》』で刺突剣を生成。
マルマロの心臓を狙い刺突を繰り出す。
マルマロは一歩も動かず避けない。受ける。
だから、既に心臓は刺し貫かれている。
……でも、マルマロは笑っている。
「――もう面倒!……那由多《なゆた》っちだかなんだか知らないけどさぁ、もう一回殺せばいいだけじゃん? ねぇ? 僕ぁね、プチプチを潰すの超好きなんだよね! 一粒で二度美味しい。そういうことじゃんね? やったるでッ! 成敗! 天誅! 大虐殺! 殺せば解決! マジ勉強になった! グッバイ 道徳ッ!」
善なる者には言祝《コトホギ》を与え給へ
――悪しき者には呪詛《カシリ》を与え給へ
因果応報は則ち天地万象の理を示す
――故に対価を払わぬ咎人に印を刻む
終天呪詛・黒印
マルマロの最後の呪い。
術者の死亡時に術式が発動。
呪術は、因果応報の体現。
そしてその究極が『黒印』。
罪過のツケを強制的に支払わせる永劫呪詛。
マルマロが辿り着いた真理。
発動後、絶対に回避不可能。
そして、絶対に解呪不可能。
これは魔法の域から外れる。
文字通りの呪い。
「ごほ……っ、過去、現在、未来、死後、地獄、天国、異界。あんたは……どこに逃げても、この黒印からだけは逃れられないっす。……重ねた那由多《なゆた》の数の怨みと呪いその全てをきっちり……清算仕切るまで。絶対に解呪不可能っす。もう転移しても、……転生しても、……ゴホッ……ドコに逃げても黒印を目印に、取り立て人は来る。……ッ……安息の日は二度と訪れないっす」
……少し難しかっただろうか?
生徒のレベルにあわせよう。
これは道徳の授業。
懇切丁寧な授業がウリだ。
生徒に歩み寄る姿勢も大切だ。
だから、言い直そう。
「ほら! おまえが殺した那由多の魂 みんなおまえ探してるね みつけられないみたい かわいそうだね でも拙者殺しちゃったせいで おまえの居場所 みんなにバレちゃった ぜんぶおまえのせいです あ~あ」
「いッ……いやだぁああッッッ!!!!!」
―――――閃光。轟音。爆震。
第1階層は永劫破損領域《グラウンド・ゼロ》と化した。
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