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護衛対象者として同行中

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 さて、サバサバさんとインテリさんが前に出て、そのすぐ後ろに姉御。自分と妹さんはその後に続き、最後にお姉ちゃんと天然さん。そして、サバサバさんが武器を構えた。

「光の魔剣……かな」「はは、男の子には好きな武器の一つかもしれないね。ロマン武器って言うんだっけ?」

 サバサバさんだけ武器が一目では分からなかったんだが、彼女の武器は構えていないときはグリップ部分しかないと言う魔剣のようだ。この手のタイプは初めて見たような気がする。本当に魔剣は色々な形があるな。そして前進を始めたわけなんだが、まあよくしゃべる喋る。女三人集まれば姦しい、なんて言葉があるがそれ以上だ。

(お客さん、接近中)

 そんな中、自分は接近してくるモンスター集団を《危険察知》にて捉える。だが、妹さんを始めとして誰も接近に気が付いた様子はなくおしゃべりを続けている。うーん、危機感が足りないような……それとも、《危険察知》を誰も持っていないのか? もうお客さんはかなり近い場所まで来ている。あと二〇秒ぐらいしたら接敵するだろう。

 自分は何時でも戦えるように八岐の月を取り出し矢を番えて構えた。その自分の動きを見たお姉さんと天然さんからの視線が飛んでくるのを感じる。一方で横にいる妹さんや前にいる三人はまだ自分の動きを感じ取っていないようだ。近づいてきた敵は、先にある曲がり角で動きを止めた。へえ、不意打ちを狙うつもりって訳か。

(なら、こっちはこうするか)

 矢を一旦矢筒に戻してから強化オイルを一本取り出し、投擲間合いに入るまで前に進む。前にいる三人と横にいる妹さんが話を続けているのが、いいカモフラージュだ。自分が気が付いて攻撃してくるだろうという予感を消してくれている。一方で先ほどから後ろにいる天然さんとお姉さんが一切おしゃべりに加わっていない。

(あと五歩、四歩、三歩──)

 そして間合いに入った瞬間、前を歩いていた三人が急に後ろを振り返った。

「所で後ろの二人はどうしたんだ? さっきから全然喋っていないじゃないか? 具合でも悪くなったか?」

 そんな言葉を口にしたサバサバさんを始めとした前衛の視線が自分に向いたのを感じる。より厳密にいえば強化オイルの瓶に対して視線が向いている。でも、自分はそんな事はお構いなしに投擲体勢に入り、強化オイルをぶん投げる。最適なタイミングは今しかない、ここを逃せば不意打ちを仕掛けようとしている敵の裏をかけない。

 パーティ全員の視線を集める形で飛んで行った強化オイルは、自分が狙った場所に落ち火柱を生み出した。それとほぼ同時に聞こえてくる敵の悲鳴。ここでようやく席が近くまで来ていたことを知る他の面子。まあ、後ろにいたお姉さんと天然さんは自分の行動で察していたらしく、すぐさま炎系の爆発する魔法で追撃を入れていたが。

「敵!?」「せ、戦闘態勢!」「いつでも来い!」

 わちゃわちゃしてはいたが、それでも何とか炎を乗り越えてこちらに接近してくる敵に攻撃を受ける前に状態を整える前衛三人。やってきた敵は全員炎で真っ黒になっていたが、ゴブリン系統の敵だった。通りで不意打ちを仕掛けようとしてきたわけだ、この手の二足歩行系モンスターは知性が高い傾向があるからな。

 自分は適度に、彼女たちの出番を奪わない程度に矢を放ってゴブリン? を射抜いていく。強さはそう大したものではないな。それに先制攻撃が決まって大きなダメージを与えられていることも大きかったようで、サクサク倒されていく。おっと、その魔法は使わせないよ。後ろにいたゴブリンメイジっぽい奴が魔法を準備していたので、脳天をぶち抜いて物理的にお休みいただいた。

 戦闘にかかったのは一分弱と言ったところか。軽い準備運動レベルで終わったな。そして自分に一斉に飛んでくる視線。

「何であいつらがいると分かったの?」

 全員を代表して、妹さんがそう聞いてくる……まあ、やっぱりそこか。しかし、このパーティは《危険察知》の存在を知らないのだろうか? なので盗賊の技術にそういう物があると教えてみた。

「盗賊……やっぱり必要か」「でも~誰が取ります? みんなスキルの組み合わせはもうギチギチですよ~?」「しかし、取らないわけにはいかなそうよ。黒の塔なら要らないと言う訳じゃない事は、もう身にしみてわかっている事。正直、いつ言い出そうか悩んでいたわ」

 純に姉御さん、天然さん、インテリさんの順での発言である。いくらなんでも、レーダー役ゼロでダンジョン攻略は無謀だろう……むしろよくここまでこれたよな。この子たち、妙な所で脳筋だなぁ。もしくは、妖精がその役を担っていたのかもしれない。

「──とりあえず、今は彼に頼るしかない。護衛すべき人物にこんなことを頼むのは申し訳ないんだが、背に腹は代えられない。モンスターの接近を教えてもらえないだろうか?」「構いませんよ」

 サバサバさんの申し出を自分は快く受ける。協力するのは自分の目的にも叶うのだから、断る理由は無い。だが──

「どんなにスキルの枠が厳しくても、誰か一人に盗賊の《危険察知》は持たせておくべきです。先ほどの戦いでも、不意打ちを受けていればこう簡単には勝てなかった。まあ、自分が言うよりもあなた自身がそれを身をもって分かっているはずですが」

 自分の言葉に、サバサバさんは深くうなずいた。まあ、インテリさんもそうだが必要だとは分かっていたんだろう。でも今まではなんとかかんとかごまかしてきた。しかしここに来てついに必要になってしまった、そんな所だろう。

 そんな事があってから、自分は積極的に敵の接近を告げるようにした。来る方向と数、それを事前に知っているだけでもかなり状況は変わってくる。自分にとっては知っているのが当たり前だったわけだが、彼女達にとっては当たり前ではなかった。その自分と言うレーダーを得てからの彼女達の戦いっぷりは見事の一言。それなりに戦闘を重ねたが、二分以上かかった戦いは三回ぐらいだった。

(うん、黒の塔を選ぶだけあって、純粋な戦闘力はみんな高いようだ。だがその一方で便利屋はいないな。皆それぞれの仕事に特化している)

 確かにそれぞれの分野に特化した人材が集まってパーティを組むのは理想の一つかもしれないが、一人ぐらいはあれこれやれるという人材も入れておくべきだというのが自分の考えなんだよね。無論これは個人的な考えなので他者には強要できないが。

 そして一階、二階、三階ととんとん拍子に攻略は進み、四階に入ったところで小さな小部屋を見つけた。で、ここで小休憩を取ると彼女達は言ってきたので、自分は頷いてそれに従った。時間的にも十分余裕がある。焦る理由は全くないし、ここら辺で休息を取ってMPを回復させておいた方が良い頃合いだったというのもある。

「じゃあ、軽く口に物を入れようか。君はどうする?」「ええ、こちらも自前の物がありますから問題ありません」

 彼女達がそれぞれのお弁当箱を取り出して食事を始めたので、自分もアイテムボックスから食べ物を取り出す。今回はすごい久々にドラゴン丼を食べようと思う。作ったのはずっと昔なんだけど、そこはアイテムボックスの都合がいい設定によって出来立ての一品が目の前にある。うん、うまい。

「あれって、前に一回だけ見たことがあるような気がするわね……」

 インテリさんが自分を横目で見ながら、そんな事を呟いていた。独り言だったんだろうが、自分の耳はそんな彼女のつぶやきを拾ってしまった。でもこのドラゴン丼を人前に出した記憶は本当に僅かしかない。そのわずかな時にインテリさんは居合わせたのだろうか? まあ、別に知られていても問題は無いけどさ。

「あれ、何の肉だろう?」「ちょっと分からないわね、牛肉でも豚肉でもなさそう」「お肉のいい匂いですね~」

 君達、こっちの食べ物にそこまで興味を持たなくてもいいんだよ? 君達のお弁当だってキャラ弁ですごく手がかかってるじゃないか……元ネタが分かるものと分からないものが半々だが、手間をかけている事だけは間違いない。そんな風に見られつつも、食事を終えて一休み。休息を挟んで前進を再開した。
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