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第六十二話

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「誰だ?あんた?」

気配を感じなかった。

俺はおそらく戦闘途中に気配を消して接近したのだろうと予測をつける。

しかし、不意打ちをしなかったということは戦う意志はないのだろうか。

目的がわからない。

俺は警戒しながら声をかけてきた生徒に向かい合う。

「僕が誰かということはどうでもいい。いずれわかることだ。今は君のことが知りたいな」

「俺のこと?」

「そうだ。その制服は下級生のものだろう?上級生六人を相手取ってあそこまで余裕を持って粉砕するとは…君の本当の実力は如何程のものなのかな?」

「あんたは参加者なのか?」

俺はその男子生徒に尋ねる。

「もちろんそうだよ」

男子生徒が首肯する。

「そうか」

俺がスッと腕を上げた。

「おっと。ちょっと待ってよ」

魔法を放って仕留めようとしたところで、男子生徒が慌てたように手を挙げた。

「血の気が多いなぁ、ちょっと待ってよ。今は君と戦うつもりはないよ」

「いや、俺はさっさとあんたを仕留めて次に行きたいんだが」

時間は限られている。

こんなところで誰かもわからない生徒とダラダラ喋って時間を浪費している場合ではないのだ。

「まぁ待ちなよ。僕たちが戦っても互いのためにならないよ。デザートは最後に取っておくべきだと思わないかい?」

「デザート…?どういうことだ?」

こいつは一体何を言ってるんだ?

首を傾げる俺に、男子生徒はニヤニヤと笑う。

「僕の名前はブロンテだ。聞いたことないかな?」

「ブロンテ…?」

聞いたことがあるような、ないような…

「なんだっけかな…?」

「酷いなぁ…これでも一応この国の皇子なのに…」

「あっ…!」

皇子。 

そう言われて思い出した。

第七皇子ブロンテ。

最も魔法に長けた皇子。

俺は魔導祭に臨む前のヴィクトリアとの会話を思い出す。

 
『頑張ろうぜ、ヴィクトリア。ここまで訓練とか頑張ってきたんだ。絶対に優勝しよう』

『そう…ですわね…』

『ん?どうした?表情が暗いな。緊張しているのか?』 

『いいえ、そうではありませんわ。少しよからぬ噂を耳にしまして』

『噂…?』

『ええ…この魔導祭に外部から飛び入りである人物が参戦してくる、という噂ですわ』

『飛び入り…?強いのか?』

『ええ…かなり…もしかしたらアリウス…その人物はあなたを苦戦させるほどの実力者かもしれませんわ』

『俺を苦戦?誰なんだそいつは』

『第七皇子のブロンテですわ。皇子の中で最も魔法に長けた人物ですわ』

 
「なるほど…あんたがブロンテ皇子か」

話が頭の中でつながった俺は、目の前の人物の正体を完全に理解する。

第七皇子ブロンテ。

どうやらヴィクトリアが言っていた飛び入り参加という噂は本当だったらしい。

「よかったよかった。僕のことを知っててくれてるんだね」

ブロンテがニコニコと笑う。

「わざわざ皇子が飛び入り参加って…何が目的なんだ?」

これは無礼にあたるだろうか。

そんなことを考えながら、俺は皇子に魔導祭に参加した目的を尋ねる。

「いや、何ね…兄さんに面白い話を聞いてね」

「兄さん?」 

「第一皇子のクラウスのことさ」 

「あぁ…クラウス皇子か」

第一王子クラウス。

俺をこの学院に招いた、今もっとも次期皇帝に近い人物。

父のアイギスが俺の作った魔剣を献上品として贈ったことで、俺はクラウス皇子と繋がりを持つこととなった。

「兄さんがね、言ったんだよ。お前に勝てるかもしれない魔法使いが帝国魔法学院にいるぞって。しかも僕より年下だって」

「…」

なんとなく嫌な予感がする。

俺は今すぐに踵を返してここから逃げようか迷っていた。

「名前はアリウス。なんとね、兄さんの話ではまだ二十にもなってないのに付与魔法を習得していて魔剣を作れるんだって…!!信じられるかい?そんな魔法使いがいるなんて」

「…」

「君、知らないかな?」

「知りません」

俺は即言い切った。

ここで俺がアリウスだとバレたら絶対に面倒なことになる。

俺の本能がそう告げていた。

「そうかい…もしかしたら君かと思ったんだけど残念だね…」 

クラウスがガッカリとした表情になる。

「…ちなみに…俺がアリウスだった場合、どうしたんですか?」

「ん?もちろん全力で倒しに行くけど」

「…」

俺は自分の勘が当たったことを悟った。

「あの…もう言っても…?」

今はとにかくこの場から離れたかった俺は、ブロンテに尋ねる。

「うん…アリウスと戦うまではなるべく力を温存したいからね。君もかなりの実力者のようだし、戦いたくはないかな」

「そうか…それじゃあ…」

俺はそそくさとその場から離れる。

「あ、危なかった…」

そして十分離れたところで、安堵の息とともにそう漏らしたのだった。
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