【完結】夜空と暁と

ゆい

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番外編

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結婚してから半年経った頃、ダミアンから相談があると言われた。
ギルフォードには内緒で。
内緒っていっても相談内容だけで、ダミアンからもギルフォードに僕と二人きりで相談したいと伝えてある。
思い詰めた顔のダミアンをみて、ギルフォードは許可してくれた。

公爵家の別邸に来てもらった。
お茶の用意をしてもらったら、使用人を下がらした。
呼ぶまで入らないでとも伝えた。
一応防音魔法もかけた。

「アルサスは、その、ギルフォードを受け入れるのは、怖くなかったか?」

「悩んだ顔をしているかと思えば、そっちの話?」

「私にとっては重大な悩みだ。」

「ダミアンが受け入れる側なの?」

「まだお互い譲らなくて、そこまではしていない。で、怖くなかったか?」

「怖かったよ。」

「やっぱり最初は痛かった?」

「痛くはなかった。その前にギルが頑張ってくれたから。」

「そ、そうか。」

「僕の話してもいい?」

「ああ。」

「僕って人嫌いだったじゃない。今はある程度改善されているとは思うけど。しかも性欲っいうのがほとんどないんだ。無精はするけど、自慰をしたことはないんだ。ギルを抱きたいっていう気持ちは全くないんだ。婚約してからも、ギルからキスはしてくれるけど、僕からしたいっていう欲が全くなかったくらいだからね。でもね、結婚が決まってから、初夜でいざしようとしても失敗したり、最悪僕はもうしたくないと言いだすかもしれないってギルは思ったらしいよ。だから、肌から触り合うことから始めたんだ。僕が怖くないように、いっぱい言葉と温もりをくれた。始めて受け入れた時は、最初は怖かったけど、段々と多幸感でいっぱいになっていった。ねぇ、ダミアン、彼を攻める自分の想像はできる?そして、彼を受け入れる自分の想像はできる?」

「・・・どっちもできる。」

「それが答えだよ。どちら側もしたっていいじゃない。彼とよく話し合いなよ。」

「そうだな。どこか意固地になっていたのかもしれない。歳下だから、尚更、ムキになっていたかもしれない。」

「歳なんて関係ないよ。ダミアンは歳上だから付き合ったの?違うでしょ?」

「ああ、彼だからだ。途中から根本的なことを忘れていたな。」

「誰もが迷路に入り込む時はあるから。まぁ、こういう相談はアラン向きなんだけどね。」

「アランは今子育てに忙しいから。」

「こんな風にゆっくり話もできないし。」

「でも、きちんと話し合いなよ。話し合っても分かり合えないなら、別れなよ。僕はダミアンにも幸せになってもらいたいんだよ。」

「ありがとう。」

ダミアンの悩みは解決したようだ。
ギルフォードが夕方に帰ってきて、3人に夕食を取り、ダミアンは帰っていった。

「ダミアンの悩みは、晴れたようだね。」

「そうだね。ダミアンはさあ、悩んでいたけど答えも出していたんだ。でも、答えが正しいかはわからない。だから、誰かから背中を押してもらいたかったのかもしれないよ。」

「ダミアンらしいな。慎重に物事を進めるところは。」

「誰でも最初の一歩は怖いよ。でも、誰か隣にいてくれるだけでも、勇気が持てる。僕にはギルがいてくれているように。」

「うん、いつも一緒だ。」



あれからダミアンは恋人とよく話し合って、恋人は伯爵家嫡男だから、結婚したらダミアンには子供を産んで欲しいそうだが、行為自体はダミアンの提案を受け入れてくれたらしい。
きちんと結婚まで考えてくれていたのは嬉しかったって言っていた。








春から農産科に1人の新人が入った。
僕以来の新人だ。
世間では閑職と思われがちだが、頭も筋肉もガンガンに使うから、並大抵では務められない。
農産科はこれで10人となった。
野菜の収穫や薬草の管理は庭師の方々にも手伝ってもらうが、基本みんなは各々のことをしている。牧場は王都より少し離れた場所にあり、10人の内、2人が常駐している。
新人の子は、ノックス君と言って、平民だが実家で馬を育てているそうだ。
半年の研修期間が終わったら、牧場に配置予定だ。
僕は、研修をすっ飛ばしての特例で、すぐに国中を回っていたので、先輩方の後をついて回る姿は新鮮だった。

ある日部長に呼び出された。
ちなみに農産科は、農作物畜産科学研究部という長い名称がある。略して農産科。何故『科長』じゃなくて『部長』と呼ばれているか疑問に思って父様に聞いたら、笑われた苦い思い出がある。
来週から2週間ノックス君の指導をするように言われた。
指導なんて何をしていいか分からないし、来週はまた植物探索に出る予定だった。

「うちは個人主義だから、助手ができたと思って連れ回せばいい。別に品種改良とか、難しいことを教えろと言っているわけではない。自分の感じたこと、思ったことを伝えればいい。指導記録だけは提出してくれ。」

前世のサラリーマンの時も新人指導はしたことはあるから、指導記録は書けそうだが、何を指導していいかわからなかった。

家に帰ってから、父様やギルに相談してみたけど、仕事の分野が違うから、あまり参考にはならなかった。
反対に、いつもは1人旅だったけど、今回はノックス君が同行するので、ギルは嫉妬と心配をしていた。
僕の隣に自分以外の人がいるという嫉妬、守る対象が増えたことで危険度が高くなったことでの心配。
翌日の退勤時間にギルが迎えに来てくれたついでに、ノックス君を紹介した。

「ノックスに牽制したね。」

「オッドレイ隊長もまだまだ若いねぇ。」

「そしてアルサスは相変わらず気が付かない。」

「オッドレイ隊長が頑張っているから、悪い虫も寄りつかないのに。」

「あれで結婚しているなんて思えないけど。」

「無垢なのは、結婚しても無垢のままだな。」

 こんな会話をされていたとは、僕は知る由もなかった。


休みに旅に必要なものを準備してもらい、週明けに出発した。
目的地の領まで、馬車での移動は約2日。
事前に商業ギルドに申し込んで、そちら方面に向かう商隊にお邪魔させてもらっての移動だった。
今回は馴染みの商隊だったおかげで、急に1人増えたにも関わらず、受け入れてくれた。

1台の馬車にノックス君を御者の隣に座らせ、僕はいつもの調子で、荷台に乗り込むとすぐに寝た。

「オッドレイ先輩?」

「いつものことだから寝させてあげな。旅に出る前は、ある程度書類仕事を終わらせてから出ているから、あまり寝ていないって言ってたから。」

「そうなんですか?」

「そうらしいよ。学園に入る前から、こうして馬車に乗ってあちこち旅をしているから、慣れたもんで、こんなに揺れても目が覚めねぇ。」

「そんな前から、ですか?」

「学園っていっても、高等部だけ通っていたみたいだけど。親御さんとの約束らしいよ。」

「貴族なら、8歳から通うのに。」

「昔は親御さんと仲が悪くて、喧嘩して、家出して、見つかって連れ戻されての繰り返し。学園入ってからも、時折フラッと乗せてくれって。」

「家出の繰り返しですか?!」

「そうそう。『人間なんだから、親でも考えは違うから、冷却期間は必要だ』なんて、10歳そこらの子が言うんだぜ。俺たちは笑っちまったよ。この頃なんてまだ親が絶対と思っている時期なのに、一丁前の口きいて。親にしてみれば、家出される方がツラいのに。コイツはどこかズレているから、うちの馬車を使う時はみんなで構ってしまうんだよなぁ。」

「俺は貴族って高圧的で威張っていると思っていました。実際、実家のある領地を治めている貴族はそんな人なので。でも、農産科からお声掛けいただき、いざ働いてみたら、そんな貴族がいないんです。畑仕事を選ぶ貴族なんていないから耕したりするのは平民の仕事だと思っていたけど、みなさん普通に土をいじったり、雑草抜きもするんです。オッドレイ先輩に至っては、他部署の貴族の文官から嫌がらせをされた時に助けてくれたんです。貴族が平民を助けるなんて思ってもみなくて。」

「コイツは昔から身分なんて気にしないよ。顔の良し悪しも気にしない。ただその人の為人しかみていないよ。前にこの商隊の護衛兵に、顔に痘痕が残った奴がいてさ、初対面では大体引かれるんだ。性格はもちろん、剣の腕も良かった。顔だけで、結婚もできなかった。城の騎士にも、貴族の護衛騎士にもなれない。でもさ、アルサスは『病気に打ち勝った勲章だ。』って。ソイツは泣いたよ。親にさえ醜いって言われたのに、底抜けの笑顔で言われたら。考え方一つで、こんなにも人生が違うのかって。」

「その人は、今はどうされていますか?」

「出世して、商会長の護衛騎士をやっている。アルサスの紹介してくれた薬師から薬をもらうようになってから、痘痕も前ほど目立たなくなっている。」

「オッドレイ先輩はすごいですね。」

「すごいと言えば、すごいけど、本人全く気にしていないな。」

人が寝ているからって、昔話はやめて!しかも後輩に曝露!悶死しそう!



2日後に目的地近くまで来たので、途中で降ろしてもらった。

「今日はもう少し歩いて、野営地を確保しよう。身体大丈夫?」

「けっこうバキバキに凝っています。」

「じゃあゆっくり行こうか。こう肩を前後に回すと多少はほぐれるよ。」

「はい。」

肩を回しながら歩く二人連れ。人が見ていたらさぞかし奇妙に見えただろう。
小川近くに少し開けた場所があったので、今日はここを野営地とした。
テント張り、火起こし、料理とノックス君はどれも手際が良かった。味付けはもう少し頑張ろう。

翌日以降は山に入り、いろんな植物を見て回る。名前や毒があるもの、食べられるものを目に入る植物全てを教えていく。
覚えきれなくてもいい。聞いたことがあれば、何かに役立つから。
奥に進めば、魔獣にも遭遇する。僕はさっさと魔法で倒し、更に奥へと進む。

「オッドレイ先輩は、唄うように魔法を繰り出しますね。」

「そうなの?1人だと無詠唱だから、わからなかったよ。1人なのにブツブツ言っている人って怖くない?」

「そうですけど、状況が違いますよ。」

ノックス君は少し呆れていた。



3日目山の頂上近くまで来た時に、見たことのない草を見つけた。
鑑定してみたら、痛み止めの効能があった。
従来の痛み止めの薬草より、薬効が強かった。

「ノックス君。これを採取して行こう。採取の仕方を教えるから、5株ほど持って帰ろう。」

麻袋を取り出して、スコップで根を傷つけないように丁寧に掘り起こす。先に土を入れて、草を入れ、また土を入れる。袋の口を縛れば出来上がり。
2株を同じ要領で入れてもらう。

収納魔法に入れて、今日は早いうちから野営の準備に入る。

「今夜はここでしか見れないものを見ようか。」

日が暮れて、月が真上に来る頃、仮眠していたノックス君を起こし、少し開けた場所に連れて行った。

そこには、淡く蒼く光る花の群生地だった。

「月夜草の変異種だ。ここでしか育たない。月の光を溜めて光るんだ。」

「……言葉にできないくらい幻想的です。」

「ここは、農産科と陛下と領主しか知らない場所だ。人が踏み荒らしてはいけない場所だよ。」

「すごいです。」

ノックス君は、花の光が消えるまで見ていた。




翌日は下山した。下山というより、転移魔法で、そのまま農産科に戻ってきた。
魔法を使うたびに驚いてくれるので、転移魔法まで披露してしまった。
疲れているけど、採取した草を鉢に植え替えたり、報告書やらを書いたりと忙しい。
ノックス君も寝不足の中、頑張ってくれた。
翌日から3日は休みを取れるから、しっかり休んでほしい。


休み明けは、薬草園や希少種だけを集めた温室の仕事を教えた。
ノックス君は、なんでも真面目に学んでくれた。
だから教えるのが楽しかった。
僕の担当が終わり、来週から牧場の研修が始まる。
牧場までは、定期便に乗って行く。
休みの日に王都で、初任給で家族に何か贈りたいと言ったので、5歳上の先輩と買い物に出かける話をしていた。
僕も誘われたけど、王都は詳しくないし、人が多い中歩くのが苦手だから断った。
ノックス君はしょぼんとしてしまったが、王都以外の都市だったら、次の旅で同行した時に見てまわろうと言ったら、喜んでいた。


僕に可愛い後輩ができた。


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