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第二部
101.
しおりを挟む図らずもビージェイとマリシャが2人して尋ねてきたために、ヤトは例の報酬の話をする。
「ところで……このゲームの報酬についてなんだが――」
その言葉に、「どうしたんだ?何か問題が起きたのか?」とビージェイは眉を顰める。
ヤトがジョーカーと会ったばかりだったために、ビージェイは色々と嫌な予感をめぐらした。
「いや、そういうわけじゃなく、報酬に関しての順番は変わらないが、30分間の選択時間を与えて、自分で選べるようにしたいんだ」
「30分……それは子どもらにも自分で選ばせるのか?」
「ああ、1人1人自分で選択する機会があってもいいと思うんだ」
「それは――確かにそうかもしれねぇ、だがなヤト坊……俺は、子どもたちには帰ってからでも、〝迷ったり悩んだり〟ってのは遅くないと思うんだ」
「……遅くない――か」
ヤトはその言葉に目を瞑る。
若いから人生の先が長い、それが当然と思えないのは俺がリアリストだからか、それとも、ネガティブ思考だからか。
「俺は、子どもといえど、先が長いから、なんて簡単には言えない、子どもだから悩みがないとか、子どもだから時間があるとか、子どもだからってだけで判断する、それは、子どもにとってプラスになるとは限らないと俺は思う」
ヤトには、どうしても子どもという枠に人を当てはめたり、言葉で人にレッテルを貼るが好きになれないのだ。
ビージェイは無精ひげを擦りながら少し沈黙する。
そして、ヤトの目を見て「それでいいんだな」と言うビージェイ。ヤトが頷くと、「よし!分かった!」と言って〝だが〟と続ける。
「30分じゃなく、明日、子どもたちには伝えておくぞ、そうじゃないと俺は納得できねー」
「……分かった」
ビージェイとヤトが話し終えると、マリシャが「でも」と言う。
「それって報酬に信憑性が欠けてるよね、デスゲームを仕掛けるような相手だし……」
「……」
「……」
沈黙するヤトとビージェイ、マリシャの言うことはそれだけ的を射ていた。
報酬が確実なものだと決め付けるには早い、しかも、時間の選択があるのかも分からない。
「どっちにしてもその可能性はなくはない、だろ?ビージェイ――」
「……そ、そうだな、可能性はなくはないな」
顔を合わせたヤトとビージェイは、互いの意見をフォローしあう。
少し微妙な空気になった後、この話は終了した。
そして、警戒していたMALICIOUS GAMEの難易度も、午後からは以前と同じ1対1に戻りジョーカーも現れなかった。だからと言って安心できるわけではない。
ヤトに再びジョーカーの魔の手が伸びるかもしれない、とカイトは心配するのだった。
そのカイトの心配は、すでに動き始めたジョーカーの第二幕によって現実のものとなる。
ジョーカーは、ヤトの刺客となる者たちに依頼を出していた。高額の報酬に釣られてやってくるその者たちとは、フルダイブVRMMOのプロプレイヤーたち。その中の1人は、かつてYATOというプレイヤーネームに屈辱を味わわせられた男。
アメリカのプロプレイヤーのクラーク。
彼は、【バウンティハンター】と呼ばれ、世界で2番目に賞金額を稼いだプロプレイヤーとして有名だ。
それはBCOに5月の雨が再現され降り注ぐ中、再びジョーカーの待つフィールドへと強制転移させられるヤトの目の前に現れた。
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