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第4章
第69話
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「初めまして、この島の代表をしておりますケイ・アンヘルです」
ケイたちの島に来た船は、かなり大きい。
そのまま接近しては座礁してしまうので、離れた場所に停泊した。
そこから子船を出して、数人がこちらに向かってきた。
巨大な帆船にはまだ多くの人間が乗っているが、こちらに人数を合わせてくれたのか、見る限り5人くらいだ。
その5人が浜に着くと、ケイたちはとりあえず普通に挨拶した。
「どうも、我々はカンタルボス国のものです」
ケイの挨拶に、先頭に立っている代表らしき獣人も軽く頭を下げてきた。
5人とも鎧を纏っているので兵隊のようにも見えるが、会話はできそうだ。
彼らもこちらの様子を窺っていたのか、ケイの挨拶を受けて話ができると安心したのか、纏っている空気が僅かに弛緩したようだ。
「カンタルボス国?」
「私たちが住んでいた国の人たちです」
国の名前を言われても獣人の国のことはよく分からないので、ケイは知ってそうなルイスに小声で問いかけた。
すると、ルイスも小声ですぐに答えを返してきた。
「私は国王の命により新規発見されたこの島の調査にきた者たちで、私が隊長のファウストと申します。まさか、住人がいるとは思いませんでした」
詳しく聞いてみると、彼らカンタルボスの国は3年前の噴火によってこの島のことを知ったとのことだ。
そこから海流を調べたり、船を造ったりとしているうちに時間がかかったらしい。
彼らの国からしたら人族に先を越されないように急いだのだが、人がいるとは思っていなかったようだ。
「ところで、そちらの彼らは狼人族の者と思われるが?」
「あぁ、彼らは……」
「我々はエンツリオ村の元住人です」
代表のファウストは、ルイスとイバンの顔を見て問いかけてきた。
獣人とケイのような人族が、何故一緒に過ごしているのか疑問に思っているのかもしれない。
ケイは、自分で答えるよりもルイスに直接言わせた方が良いと思い、軽く手で合図してルイスに説明してもらうことにした。
「おぉ!? 生き残りがいたのか!」
ルイスの答えを聞いた彼らは、驚きと共に少し明るい表情に変化した。
大分前のことだというのに、スタンピードによってルイスたちの村が滅ぼされたことを知っているようだ。
「17名ほどで海へ逃れ、この島に流れ着きました。ただ、残念ながら5名しか生き残りませんでした」
昔のこととはいえ、同胞や親を亡くしたあの時の悲しみは今でも忘れてはいない。
そのため、ルイスは若干表情を曇らせる。
「辛うじて生き残った我々を救って下さったのがケイ殿です」
「……そうか。同胞を救っていただきありがとうございます」
ルイスの説明を受けたファウストと部下らしき者たちは、そろってケイに頭を下げて感謝を示してきた。
「いや、当然のことをしただけなので……」
ルイスたちの回復に助力したのはたしかだが、もうだいぶ前のことなので、感謝されると気恥しい。
照れ隠しに頬を掻きながら、ケイは何でもないように告げたのだった。
「このことを他の者たちに伝えたら喜ぶことだろう」
「っ!? 生き残りが他にもいたのですか?」
これまでは一歩引いていたイバンだったが、ファウストの言葉に思わず反応した。
魔物の大群が迫る中で、他の村人のことを考えている余裕はなかった。
この島に流れ着き、少し心に余裕ができた頃、ようやく気にすることができるようになった。
中には、同じ村でも住んでる場所が離れていて、安否が気になる友人も何人かいた。
生存者がいると聞いて、期待をしてしまうのは当然かもしれない。
「あぁ、30人くらいだが、助かった者たちはいた」
「そうですか!」
ルイスも同じような気持ちなのか、イバンと同じく表情が明るくなった。
村に住んでいた人間は、約4000人くらい。
その中で生き残ったのが、ルイスたちを含めても35人とは、国としても相当な打撃を受けたのだろう。
ケイとしては、魔物の存在の恐ろしさを改めて感じる話だ。
「ただ……」
「……どうしました?」
ファウストは、表情を明るくするルイスとイバンに、どこか言いにくそうな顔をした。
それに気付いたケイは、理由を彼に問いかけた。
「……手足を失ったりと怪我をした者が多く、家族を目の前で殺されたことで精神的にもかなり弱っている者がほとんどです」
国も魔物のスタンピードの話を聞いて精鋭部隊を送ったのだが、その時にはもう村は壊滅していたらしく、息のある者や逃げ切った者の保護をすることしかできなかった。
何もできなかった思いもあってか、生き残った者たちを王都で手厚く援助したのだが、心や体に傷を負った彼らは人の多い王都には馴染めず、かといって元の村に近い町に送っても昔を思い出し、PTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症したりして、鬱になったり、眠れなくなったりする人が多いらしい。
「……そうですか」
またも話が暗くなってしまった。
こんなことなら聞かなければよかったと思うケイだった。
「話は変わりますが、お聞きしたい事があるのですが……」
「何でしょう?」
ルイスとイバンには悪いが、今は彼らのことをどうにかしなければならない。
そう思って、ケイはファウストに向かって話しかけた。
「調査にきたと仰いましたが、本当にそれだけですか?」
「…………………」
ケイのその言葉に、ファウストは真顔になり無言になった。
その顔で何かあると感じたケイは、服で隠してある腰の銃に手を近付けた。
それを見て、今はこの島の住民であるルイスとイバンも表情を険しくしたのだった。
ケイたちの島に来た船は、かなり大きい。
そのまま接近しては座礁してしまうので、離れた場所に停泊した。
そこから子船を出して、数人がこちらに向かってきた。
巨大な帆船にはまだ多くの人間が乗っているが、こちらに人数を合わせてくれたのか、見る限り5人くらいだ。
その5人が浜に着くと、ケイたちはとりあえず普通に挨拶した。
「どうも、我々はカンタルボス国のものです」
ケイの挨拶に、先頭に立っている代表らしき獣人も軽く頭を下げてきた。
5人とも鎧を纏っているので兵隊のようにも見えるが、会話はできそうだ。
彼らもこちらの様子を窺っていたのか、ケイの挨拶を受けて話ができると安心したのか、纏っている空気が僅かに弛緩したようだ。
「カンタルボス国?」
「私たちが住んでいた国の人たちです」
国の名前を言われても獣人の国のことはよく分からないので、ケイは知ってそうなルイスに小声で問いかけた。
すると、ルイスも小声ですぐに答えを返してきた。
「私は国王の命により新規発見されたこの島の調査にきた者たちで、私が隊長のファウストと申します。まさか、住人がいるとは思いませんでした」
詳しく聞いてみると、彼らカンタルボスの国は3年前の噴火によってこの島のことを知ったとのことだ。
そこから海流を調べたり、船を造ったりとしているうちに時間がかかったらしい。
彼らの国からしたら人族に先を越されないように急いだのだが、人がいるとは思っていなかったようだ。
「ところで、そちらの彼らは狼人族の者と思われるが?」
「あぁ、彼らは……」
「我々はエンツリオ村の元住人です」
代表のファウストは、ルイスとイバンの顔を見て問いかけてきた。
獣人とケイのような人族が、何故一緒に過ごしているのか疑問に思っているのかもしれない。
ケイは、自分で答えるよりもルイスに直接言わせた方が良いと思い、軽く手で合図してルイスに説明してもらうことにした。
「おぉ!? 生き残りがいたのか!」
ルイスの答えを聞いた彼らは、驚きと共に少し明るい表情に変化した。
大分前のことだというのに、スタンピードによってルイスたちの村が滅ぼされたことを知っているようだ。
「17名ほどで海へ逃れ、この島に流れ着きました。ただ、残念ながら5名しか生き残りませんでした」
昔のこととはいえ、同胞や親を亡くしたあの時の悲しみは今でも忘れてはいない。
そのため、ルイスは若干表情を曇らせる。
「辛うじて生き残った我々を救って下さったのがケイ殿です」
「……そうか。同胞を救っていただきありがとうございます」
ルイスの説明を受けたファウストと部下らしき者たちは、そろってケイに頭を下げて感謝を示してきた。
「いや、当然のことをしただけなので……」
ルイスたちの回復に助力したのはたしかだが、もうだいぶ前のことなので、感謝されると気恥しい。
照れ隠しに頬を掻きながら、ケイは何でもないように告げたのだった。
「このことを他の者たちに伝えたら喜ぶことだろう」
「っ!? 生き残りが他にもいたのですか?」
これまでは一歩引いていたイバンだったが、ファウストの言葉に思わず反応した。
魔物の大群が迫る中で、他の村人のことを考えている余裕はなかった。
この島に流れ着き、少し心に余裕ができた頃、ようやく気にすることができるようになった。
中には、同じ村でも住んでる場所が離れていて、安否が気になる友人も何人かいた。
生存者がいると聞いて、期待をしてしまうのは当然かもしれない。
「あぁ、30人くらいだが、助かった者たちはいた」
「そうですか!」
ルイスも同じような気持ちなのか、イバンと同じく表情が明るくなった。
村に住んでいた人間は、約4000人くらい。
その中で生き残ったのが、ルイスたちを含めても35人とは、国としても相当な打撃を受けたのだろう。
ケイとしては、魔物の存在の恐ろしさを改めて感じる話だ。
「ただ……」
「……どうしました?」
ファウストは、表情を明るくするルイスとイバンに、どこか言いにくそうな顔をした。
それに気付いたケイは、理由を彼に問いかけた。
「……手足を失ったりと怪我をした者が多く、家族を目の前で殺されたことで精神的にもかなり弱っている者がほとんどです」
国も魔物のスタンピードの話を聞いて精鋭部隊を送ったのだが、その時にはもう村は壊滅していたらしく、息のある者や逃げ切った者の保護をすることしかできなかった。
何もできなかった思いもあってか、生き残った者たちを王都で手厚く援助したのだが、心や体に傷を負った彼らは人の多い王都には馴染めず、かといって元の村に近い町に送っても昔を思い出し、PTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症したりして、鬱になったり、眠れなくなったりする人が多いらしい。
「……そうですか」
またも話が暗くなってしまった。
こんなことなら聞かなければよかったと思うケイだった。
「話は変わりますが、お聞きしたい事があるのですが……」
「何でしょう?」
ルイスとイバンには悪いが、今は彼らのことをどうにかしなければならない。
そう思って、ケイはファウストに向かって話しかけた。
「調査にきたと仰いましたが、本当にそれだけですか?」
「…………………」
ケイのその言葉に、ファウストは真顔になり無言になった。
その顔で何かあると感じたケイは、服で隠してある腰の銃に手を近付けた。
それを見て、今はこの島の住民であるルイスとイバンも表情を険しくしたのだった。
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