泥中に燃ゆ
中原がまだ一つの王朝として定まらぬ、遥かなる昔。
漢の始祖・劉邦には、史書に決して記されることのない“異能”があったという。
人の心を惹き寄せ、抗えぬ恋慕と執着を呼び起こす香り。
見つめられれば思考は溶け、声を聞けば心は縛られる――
それらを備える者は「帝王の印」を宿すと、密やかに語り継がれてきた。
その印は祝福であると同時に、呪いでもあった。
欲望を煽り、愛と狂気を同時に引き寄せるがゆえに、
持つ者は守られ、奪われ、弄ばれる宿命を背負う。
延喜四年、卯月。
辺境の村・琢県で続く二日二晩の難産。
産屋を満たす、かすかで甘美な馨りは、
やがて後に「劉備玄徳」と呼ばれる男の誕生を告げる兆しだった。
彼は王として生まれたのではない。
ただ、抱かれ、求められ、守られ、縛られる存在として――
多くの男たちの想いと欲に翻弄される運命を、最初から背負っていた。
これは、
覇を唱える英雄たちの物語ではない。
英雄たちに愛され、欲され、囚われる
“劉備玄徳・総受け”のための三国志BL幻想譚である。
泥中に沈み、なお燃え続けるものは、
王の器か、それとも――愛という名の業か。
歴史の裏に咲く、耽美と宿命の物語
『泥中に燃ゆ』、ここに開幕。
漢の始祖・劉邦にまつわる“帝王の印”の口伝。
その血と香りを巡り、時代の胎動の中で運命が再び動き出す。
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