解放の砦

さいはて旅行社

文字の大きさ
上 下
131 / 291
6章 男爵家の後始末

6-3 砦の譲渡提案 ◆長兄ジャイール視点◆

しおりを挟む
◆長兄ジャイール視点◆

「まあ、お前らが納得しなくても、リアムが王都にいる間に正式に国王から男爵位を授けられる」

「何でだっ。まだ長男が継ぐのならわかるが、なぜ次男でもなく、三男なんだっ」

 大声で喚いたのは次兄のルアンだった。
 侯爵の話を聞いていなかったのか、お前は。
 明言はしなくても話の流れからわかるだろ。

「はああああーーーー」

 ほら、盛大なため息を吐かれてしまった。

「リアムと血のつながった兄なのに、何でこんなに違うんだろうなあ。ホント、リアムは嫁にしたいぐらい頭の回転が良いのに、コイツと来たら最悪だ。リアムが口も聞きたくない、懐柔すらしたくないと思う気持ちがわかるよ」

 侯爵としてはリアムと直接会ったことはないと言ってませんでした?
 何でリアムの気持ちまでわかっているんですかね。
 不思議ですね。

 確かにあのとき悪徳商会長として嫁と言っていたけど、リアムが冗談と言っていた通り冗談だと思っていたけど。。。

「メルクイーン男爵家の当主は冒険者しかなれない。つまり、今のメルクイーン男爵家ではリアムだけが該当する。そもそも、男爵が長男次男を冒険者として育てなかったために、お家取り潰しの危険性すらあったんだぞ」

「なっ」

「王命を曲解し、男爵位を子に譲る意思がビル・メルクイーンにないものとしてな。感謝してほしいわけではないが、それを阻止したのは私だ。国王に三男のリアムが優秀すぎて、長男次男を冒険者として育てなかったと進言しておいた」

「リアムが優秀なわけあるかっ。アイツは家庭教師もつけてもらえず、ろくに勉強さえできないっ」

 ルアンが叫んだ。
 今度こそ、絶対零度の視線を侯爵はルアンに向けた。
 ルアンは次の言葉を告げることができずに押し黙る。

「優秀でなければ、魔物販売許可証の書類を国に通すことはできない。本当に他の兄弟も冒険者として育てておいてくれれば、私も何の気兼ねもなくリアムを口説けたのに。他の大商会だってあの魔物販売許可証の書類を通した者をスカウトしたいと思っているし、国王だってそう思っているさ。リアムが王子の側近になってくれれば、王子の問題はすべて解消する。けれど、メルクイーン男爵家の冒険者は三男だけ。優秀な者を砦の管理者としたいのなら、他の子供を冒険者として育てないのは、一つの戦法として有効だ。他の商会からも、高位の貴族からも、国王ですら取り上げられない」

 侯爵は静かに言葉を続ける。

「キミたち以外はリアムが優秀なのを知っている」

 キミたちとは父とルアンである。私を含めないでね、リアムが優秀なのはもう知っているから。

「リアム・メルクイーンにとって、キミたち家族は枷だ。いない方が良いほどの。領主の仕事だって、彼の方が何倍もいい仕事をするだろう。だから、私はビル・メルクイーン男爵が跡継ぎだと思っている長男のジャイール・メルクイーンに借金を負わせたんだ」

「なぜ」

 父が言葉を震わせた。

「保険に決まっているだろう。キミたちがリアムを妨害したときのために。あの借金は数年もしない内に恐ろしい額に膨れ上がる。跡継ぎと思っている者が領地を売却しなければならないほどの借金を背負ってしまえば、国王もメルクイーン男爵家を取り潰す。一家ごと握り潰してしまえば、リアムの心労も減るだろう」

「それではリアムも一緒に潰されてしまうのでは」

 一家ごととなると、そうなるが。
 自分の身に降りかかったことだが、侯爵にはそんな考えがあったとは。

「それは私が何とかする。国王だって魔の大平原の砦の管理者がいなくなると困るんだ」

「何でそんなに」

「リアムは私が嫁にほしいほど素晴らしい人材だ。手に入らないからこそ、私以外の理由で失ってしまうのも惜しい」

 リアム、とんでもない人物に目をつけられたんじゃないか?
 砦長が睨んでいるんですけど。侯爵に向けるべき目じゃないんですけど。

「しかし、その計画を阻止したのが、手助けをしようと思っていた張本人のリアムだ。最初に打ち合わせをしておけば良かったよ。私は彼の恨みだけ買ってしまったよー」

 最後はあまりにも軽く言った。

「で、話はここで戻るのだが、リアムが王命で男爵になる前日が今日だ。砦を彼の物としたい」

「侯爵、失礼ながら質問なんですが、リアムが男爵となれば砦も自分の物になるのでは?」

「この領地も砦も男爵家の物だ。男爵となって引き継ぐとそうなる。だが、男爵になる前に砦を譲渡されれば、砦は彼個人の物となる」

「つまり、リアムが砦を男爵家以外の他の者に譲ることも可能となるということですか」

「うん、可能ではあるだろうが、実際は難しいだろうね。まったくの他者なら国王の許可が必要になる案件だ」

「なら、なぜ?」

「それはリアムが砦を守りたいと思っているからだ。母上の意志だろうと何だろうと、それをするには砦が自分のものになっていた方が容易い。そして、男爵家として砦を引き継いでしまったら、彼が当主を譲るときにその者に砦も渡さなければならない。その者が砦を守れる者としてリアムに認められるかは別の話だよ」

「つまり男爵家としてではなく、砦を守るのに最適な者をリアムが選択できるように?」

「自分の子供でも、長男が優秀とは限らない。砦を譲りたいのが他人なら養子縁組をして、砦を守ってもらうことも可能だ。彼の財産なら、砦の後継者を決めるのは彼の自由になる」

「い、いえ、それは砦を譲るという前提で話がされていると思いますが、砦は男爵家の物です。譲る気は」

「譲るしかないんだよ、ビル・メルクイーン男爵。なぜ、私がわざわざここまで来たと思う?」

 侯爵に黒い笑顔が浮かんだ。
 後ろに立っていた者が侯爵に書類を渡す。

「ナーヴァルとリージェンがここに来たときは邪魔者が来たと思ったが、第三者がいることで高位貴族の戯言、押し付けではないという証人となるか。ご近所の方もいることだし、ちょうどいい。まず、男爵家はリアムに対して、母親が亡くなってからの砦の管理者としての報酬を支払っていない。そして、砦にかかるすべての費用は男爵家が負担するものである。それらを今はすべてリアムが負担している。砦の修繕費用として貯めていた五千万も本来は男爵家が用意するものだ」

「なっ、領地運営は領主の仕事だ。どこに税金を使おうがとやかく言われる筋合いはない」

「、、、なぜ辺境伯領だった広大なこの領地が男爵領であるか、親から学ばなかったわけではあるまい。男爵領の税金で済んでいたのは、この地に魔の大平原から国を守る砦があるからだ。歴代の男爵家当主が多くの税金を砦に投入していた事実を知らぬわけではあるまい。国からの恩恵を受ける必要がないと判断するのならそれでもかまわないが」

「うっ、だが、妻にも砦の管理者としての報酬は支払っていないし、妻が冒険者として稼いでくる金も男爵家の者として喜んで使ってくれたぞ」

「それはお前の妻だからだ。夫婦での財産の話し合いは夫婦間でなされるものだから我々は関与しない。だが、子供にはそれは当てはまらない。子供でも適正な報酬を支払う必要がある」

「それは成人後の子だっ。成人前の自分の子に報酬を支払うわけがない」

「リアムは極西の砦で魔物販売許可責任者として独立した生計を立てている。つまりそれ相応の稼ぎがあるということだ。しかも、母親が亡くなってからは父親は何らの世話をしておらず保護者の管理下にはなかった。つまり、リアムは成人した者と同等と見なされるのは、この国の法が定めている。子の財産の親の搾取は認められていない」

 侯爵が断言した。
 砦長も副砦長もルンル婆さんもうんうん頷いている。
 父がリアムの世話をしていないどころか、リアムが家事の一切をやっていたのだ。リアムの方が家族の面倒を見ていたくらいだ。

「それと、この家の惨状を見るだけでも、お前たちは理解できるだろ。母親が亡くなったにもかかわらず、お前ら自身は家事なんか全然できないのに使用人さえ雇わず、手伝いも一切せずに、この家の家事を八歳の子供に押しつけた。しかも、リアムの家事の腕前は玄人以上だ。家事の報酬も払ってしかるべきだ」

「さ、惨状っ?」

 ルンル婆さんが侯爵の言葉を聞いて、家主の許可なくすっ飛んで私たちの家に入っていった。
 叫び声が聞こえた。。。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

黒の魅了師は最強悪魔を使役する

BL / 連載中 24h.ポイント:127pt お気に入り:916

キミという花びらを僕は摘む

BL / 完結 24h.ポイント:227pt お気に入り:68

転生腹黒貴族の推し活

BL / 連載中 24h.ポイント:2,307pt お気に入り:752

処理中です...