ヒロイン気質がゼロなので攻略はお断りします! ~塩対応しているのに何で好感度が上がるんですか?!~

浅海 景

文字の大きさ
14 / 57

バッドエンドルート~ジョルジュ~

あれからサーシャの人間関係は少し変わった。

レイチェルに手紙を送り、ジョルジュとは友人としてしか見ていないことやレイチェルと親しくなりたいことを伝えた。素直な気持ちをかなりの長文で書き連ねてしまったのだが、レイチェルから返信があり、話しかけても徐々に笑顔を見せてくれるようになった。

一方でジョルジュは自由な性格であるものの、気遣いができることが分かったためきちんと説明することにした。
周囲から婚約者のいる男性にアプローチをかけているように見えること、そのことで婚約者であるレイチェルが他者から哀れみや同情の視線を向けられることが心苦しいことを伝えると、不満そうな表情ながらもサーシャの立場を理解してくれたのだ。

サーシャだけに絡むのではなく、他の令嬢にも話しかけるようになり、ジョルジュの性格が理解されるにつれ、サーシャへの中傷の言葉も減っていった。

そうしてみんなで一緒に昼食を摂ったり、勉強する時間が増えた頃には入学してから3ヶ月が経っていた。
「皆様はもう夏季休暇のご予定はありますの?」
リリーが口にすると真っ先に答えたのはジョルジュだった。
「俺は騎士団で見習いとして稽古を付けてもらう予定だ」

ミレーヌとベスは領地に戻って過ごすと言い、レイチェルは視線を彷徨わせたあと王都に残ると言葉少なに告げた。
侯爵も王都にとどまっているからという理由を挙げていたが、恐らくジョルジュがいることも要因の一つだろう。気づいたリリーがしたり顔で頷くと、レイチェルがますます頬を染めている。

「サーシャ様はどうされますの?」
「しばらく働いていなかったので奥様のお許しがあれば、どこか働き口を探すつもりですわ
ミレーヌの問いにサーシャは何気なく答えた。
自分のことばかりで、他人の世話をする必要がない学園生活にサーシャは少々物足りなさを感じていたのだ。

何より勉強だけで腕がなまっているのではないかと危惧する部分もある。週末に友人たちへお茶を淹れるぐらいなので、短期間ではあるがこの際市井の飲食店や商店などで働くのも良い経験になるだろう。

「それは難しいかな」
爽やかな声がサーシャの思考を遮った。視線で問いかけると、シモンはどこか楽しげな表情を浮かべている。
「今年は家族全員で領地に戻ることに決まったんだ。もちろんサーシャも一緒だよ」
「私、奥様とお父様にお手紙を書いたのですが…」
父はサーシャに甘く、マノンも社会勉強だと快く送り出してくれるものと疑っていなかったのだ。

「うん、そういうと思って先に動いておいて良かったよ」
(……お義兄様、ちょっとヤンデレ出てませんか)

用意周到な様は獲物を罠に掛けようとするあたりがヤンデレ気質を彷彿とさせる。いつもはサーシャの意思を確認してくれるのに、こういう時のシモンは譲らない。ただし今のシモンはサーシャに執着しているようには見えないので、たぶん問題ないだろう。

「あの、もし父の許しが得られればですが、私も遊びに行っても良いですか?」
「ミレーヌ嬢ならいつでも歓迎するよ」
ミレーヌのお願いをシモンは快く承諾している。数か月たっても初々しさの残る二人をじれったく思う時もあるが、こういうやり取りは微笑ましく安心感があった。

「ジョルジュ様……私も、その、差し入れなど、お持ちしてよろしいでしょうか?」
ミレーヌに触発されたのか、レイチェルが両手を握り締めながらジョルジュに訊ねている。
「ん、別にいいけど」
素っ気ないもののジョルジュから了承を得たレイチェルは、幸せそうな笑みを浮かべた。

(レイチェル様はあんなに健気で愛らしいのに……。幼馴染だから気を遣わなくていいとはいえ、レイチェル様みたいな婚約者がいることの有難みが分かっていないんじゃないかしら?)
それはシモンにも感じたことで、男性優位な世界で何不自由なく育てられた貴族令息特有の傲慢さなのかもしれない。

「サーシャ嬢、お茶淹れて欲しいんだけど」
「ご自分でどうぞ」
「はは、サーシャ嬢のお茶が飲めるのは未だに令嬢限定か。卒業までには飲んでみたいな」

お茶ぐらい淹れてあげてもよいのだが、婚約者のレイチェルの手前もあってずっと断り続けている。時折思い出したように頼まれるが、断っても特段気にした様子もないので定番のやり取りとなっていた。

だからこの会話に何か意味があるかなんて、サーシャは気にしたことがなかった。



「私はジョルジュ様のことなんて何とも思っておりません!」
感情にまかせたように黒髪の少女が叫んだ。そんな言葉を聞いてもジョルジュはなおも笑みを浮かべて少女の手を離さない。それどころか瞳に込められた熱が増したように陶然とした表情に変わっていく。

「はぁ、なんて美しい……」
ジョルジュはそのまま跪くと潤んだ瞳で少女を見上げた。
「どうか俺を貴女の騎士に、いえ下僕にしてください」
無表情な少女の顔に嫌悪感が走る。

「――っ、気持ち悪いです!やめてくださいっ!」
眉をひそめて睨みつけると、ようやく握りしめられた手が離れたが、ジョルジュは熱っぽい表情のまま答えた。

「ああ、本当に貴女は他の大人しい令嬢たちとは違う。…もっと俺に命令してください」



「……お義兄様の次はジョルジュ様なの……」
そんな悪夢を見たのが終業式の翌日だったのはサーシャにとって不幸中の幸いだ。こんな気分でジョルジュと顔を合わせれば気まずさよりも嫌悪感が先に立ってしまいそうだった。

夢の中でサーシャの視点は第3者であったものの、ジョルジュが懇願していた少女の姿はサーシャだった。

(ジョルジュ様はそういう性癖をお持ちの可能性があるということよね。これも多分バッドエンドなのでしょうけど、何でそういう夢ばかり見るのかしら?!)

好感度を上げなければ友情エンドで終わるのではないかと思っていたのは、希望的観測だったのだろうか。ジョルジュやシモンに恋愛的好意を抱いていないが、どうしてハッピーエンドではなくバッドエンドの夢ばかり見てしまうのだろう。

目が覚めるにつれてそんな疑問が次々と浮かんできて、ベッドに座ったままサーシャは思案した。

「もしかして警告……?」
夢を見たことでサーシャはシモンのヤンデレエンドを防ぐために奔走した。その結果、シモンがサーシャに執着している様子もなく、婚約者であるミレーヌとも円満な関係を築きつつある。
冷たくあしらわれることがジョルジュの嗜好を刺激し、このままでいけば夢のようなバッドエンドになるのを避けるために夢を見るのではないか。

「好感度を上げているつもりがなくても、相手がそれを好ましいと思ってしまえば攻略対象にとってのハッピーエンド、私にとってのバッドエンドということかしら」
その仮説が正しければ、夢を見るタイミングは何らかのフラグが立った時ということになるのだが――。

「……………………そんなの、あった?」
気づかないうちにフラグが立っているというのはよくある話だ。サーシャは一旦そう判断してジョルジュとのやり取りを思い返した。

そうして夢の中のジョルジュと現実にあった出来事を照らし合わせて行くうちに、ジョルジュがサーシャに好意を抱いたきっかけに思い当る。
初めて三人で昼食を摂った際にレイチェルを庇って謝罪をさせたことが、ジョルジュの心の琴線に触れてしまったのだろう。

命令されたい、振り回されたいという欲求に本人が自覚しているようには思えない。これまでジョルジュに対する態度は逆効果だったのだ。やたらとお茶をねだられて断っていたが、これもまた無意識のうちに喜ばせていたのかもしれない。

人懐こいワンコ系キャラだと思っていたが、まさか下僕願望があるとは想定できなかった。確かに甘えたがりのところがあるし、母親を亡くして男所帯だと聞くし、その反動なのかもしれない。

「ジョルジュ様は年上でしっかり者の女性と相性が良さそうね」
前世の年齢を合わせれば、サーシャにとってジョルジュは子供といっていいぐらいの年齢だし、精神年齢は学友たちと比べるとずっと上だろう。勘の鋭いジョルジュは直感的にサーシャに甘え、好意を抱いていると考えれば納得できる気がした。

「そうなると、レイチェル様は別の方向で頑張っていただかないといけないけれど……」
レイチェルは頭が良いのだし、ジョルジュを引っ張っていくぐらいの強気な態度で接してもらうことが望ましい。最近は少しずつ願望を口にしているようだが、彼女の性格上そう簡単にはいかないだろう。しかも不信感を抱かせないように誘導するのはかなりハードルが高そうだ。

そこまで考えて、思わず大きなため息が漏れる。
休暇中の思わぬ宿題を得てしまったサーシャだった。
感想 7

あなたにおすすめの小説

【完結】転生したので悪役令嬢かと思ったらヒロインの妹でした

果実果音
恋愛
まあ、ラノベとかでよくある話、転生ですね。 そういう類のものは結構読んでたから嬉しいなーと思ったけど、 あれあれ??私ってもしかしても物語にあまり関係の無いというか、全くないモブでは??だって、一度もこんな子出てこなかったもの。 じゃあ、気楽にいきますか。 *『小説家になろう』様でも公開を始めましたが、修正してから公開しているため、こちらよりも遅いです。また、こちらでも、『小説家になろう』様の方で完結しましたら修正していこうと考えています。

転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。

ラム猫
恋愛
 異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。  『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。  しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。  彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。 ※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。

無能だとクビになったメイドですが、今は王宮で筆頭メイドをしています

如月ぐるぐる
恋愛
「お前の様な役立たずは首だ! さっさと出て行け!」 何年も仕えていた男爵家を追い出され、途方に暮れるシルヴィア。 しかし街の人々はシルビアを優しく受け入れ、宿屋で住み込みで働く事になる。 様々な理由により職を転々とするが、ある日、男爵家は爵位剥奪となり、近隣の子爵家の代理人が統治する事になる。 この地域に詳しく、元男爵家に仕えていた事もあり、代理人がシルヴィアに協力を求めて来たのだが…… 男爵メイドから王宮筆頭メイドになるシルビアの物語が、今始まった。

目覚めたら魔法の国で、令嬢の中の人でした

エス
恋愛
転生JK×イケメン公爵様の異世界スローラブ 女子高生・高野みつきは、ある日突然、異世界のお嬢様シャルロットになっていた。 過保護すぎる伯爵パパに泣かれ、無愛想なイケメン公爵レオンといきなりお見合いさせられ……あれよあれよとレオンの婚約者に。 公爵家のクセ強ファミリーに囲まれて、能天気王太子リオに振り回されながらも、みつきは少しずつ異世界での居場所を見つけていく。 けれど心の奥では、「本当にシャルロットとして生きていいのか」と悩む日々。そんな彼女の夢に現れた“本物のシャルロット”が、みつきに大切なメッセージを託す──。 これは、異世界でシャルロットとして生きることを託された1人の少女の、葛藤と成長の物語。 イケメン公爵様とのラブも……気づけばちゃんと育ってます(たぶん) ※他サイトに投稿していたものを、改稿しています。 ※他サイトにも投稿しています。

恐怖侯爵の後妻になったら、「君を愛することはない」と言われまして。

長岡更紗
恋愛
落ちぶれ子爵令嬢の私、レディアが後妻として嫁いだのは──まさかの恐怖侯爵様! しかも初夜にいきなり「君を愛することはない」なんて言われちゃいましたが? だけど、あれ? 娘のシャロットは、なんだかすごく懐いてくれるんですけど! 義理の娘と仲良くなった私、侯爵様のこともちょっと気になりはじめて…… もしかして、愛されるチャンスあるかも? なんて思ってたのに。 「前妻は雲隠れした」って噂と、「死んだのよ」って娘の言葉。 しかも使用人たちは全員、口をつぐんでばかり。 ねえ、どうして?  前妻さんに何があったの? そして、地下から聞こえてくる叫び声は、一体!? 恐怖侯爵の『本当の顔』を知った時。 私の心は、思ってもみなかった方向へ動き出す。 *他サイトにも公開しています

せっかく転生したのにモブにすらなれない……はずが溺愛ルートなんて信じられません

嘉月
恋愛
隣国の貴族令嬢である主人公は交換留学生としてやってきた学園でイケメン達と恋に落ちていく。 人気の乙女ゲーム「秘密のエルドラド」のメイン攻略キャラは王立学園の生徒会長にして王弟、氷の殿下こと、クライブ・フォン・ガウンデール。 転生したのはそのゲームの世界なのに……私はモブですらないらしい。 せめて学園の生徒1くらいにはなりたかったけど、どうしようもないので地に足つけてしっかり生きていくつもりです。 少しだけ改題しました。ご迷惑をお掛けしますがよろしくお願いします。

幼馴染みが描いた悪役令嬢ものの世界に「メイド」として転生したので、6年後の断罪イベントをどうにか回避したい

ゆずまめ鯉
恋愛
通勤途中、猫好きではないのに轢かれそうな黒猫をうっかり助けてしまい、死んでしまった主人公──水縞あいり(26) 鳥の囀りで目を覚ますとそこは天国……ではなく知らない天井だった。 狭い個室にはメイド服がかかっている。 とりあえず着替えて備えつけの鏡を見ると、そこには十代前半くらいの子どもの姿があった。 「この顔……どこか見覚えが……」 幼馴染みで漫画家、ミツルギサイチ(御剣才知)が描く、人気漫画「悪役令嬢が断罪されるまで」の登場人物だということに気がつく。 名前はミレア・ホルダー(本名はミレア・ウィン・ティルベリー) 没落貴族の令嬢で、現在、仕えているフランドル侯爵によって領地と洋館を奪われ、復讐のために、フランドル侯爵の長女イザベラが悪役令嬢になるのを止めず、むしろ後押しして見事断罪されてしまうキャラだった。 原作は未完だが、相談を受けていたのでどういう結末を迎えるのか知っている。 「二期アニメもまだ見てないし、どうせ転生するなら村人Aとかヒロインの母親がよかった……!!」 幼馴染みの描く世界に転生してしまった水縞あいり=ミレアが、フランドル侯爵家で断罪回避するべく、イザベラをどうにかお淑やかな女性になるように導いている途中。 病弱で原作だと生死不明になる、イザベラの腹違いの兄エミールに、協力してもらっているうちに求愛されていることに気づいてしまい──。 エミール・ディ・フランドル(20)×ミレア・ウィン・ティルベリー(18) 全30話の予定で現在、執筆中です。2月下旬に完結予定です。 タイトルや内容が変更になる場合もあります。ご了承ください。

なりゆきで妻になった割に大事にされている……と思ったら溺愛されてた

たぬきち25番
恋愛
男爵家の三女イリスに転生した七海は、貴族の夜会で相手を見つけることができずに女官になった。 女官として認められ、夜会を仕切る部署に配属された。 そして今回、既婚者しか入れない夜会の責任者を任せられた。 夜会当日、伯爵家のリカルドがどうしても公爵に会う必要があるので夜会会場に入れてほしいと懇願された。 だが、会場に入るためには結婚をしている必要があり……? ※本当に申し訳ないです、感想の返信できないかもしれません…… ※他サイト様にも掲載始めました!